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仕事へ行く朝はメイクをして、メイクを終えたら職場で規定されているヒールのある靴をはいて出勤。働く女性の多くが経験したことのあるこの“当たり前”は、かなり不自由で到底快適とは言えません。汗でどろどろになったメイクやヒール靴のせいでできた靴ずれやタコを「女性だから」という理由で我慢させられるのはジェンダーの問題のように思えますが、実はルッキズムにも深く関わっています。

 

前回の記事「子どもの『○○ちゃんってブスだからキモい』を叱ってはダメな理由とは」に引き続き、立教大学の矢吹康夫さんと一緒に、現代にも根強く残る「職場のルッキズム問題」について考えていきましょう。

 

PROFILE 矢吹康夫さん

矢吹康夫

立教大学社会学部社会学科助教。差別や偏見に関する社会学を専門とする。著書に『私がアルビノについて調べ考えて書いた本――当事者から始める社会学』など。 

“仕事”の世界はルッキズムの得意分野 

── 最近ではあまり聞きませんが「顔採用」という言葉が使われていた時期もありますね。働いていると容姿がもたらす影響の強さを感じる場面が多々あります。

 

矢吹さん:

性別や外見など、本人の意思で変えられないものに対して評価するルッキズムは、職場でよく見られます。いわばルッキズムの得意分野ですね。

 

「顔採用」という言葉が出ましたが、顔や性別で能力はわかりません。それにも関わらず、履歴書には顔写真を貼り、性別を書くのが当たり前となっていますよね。一方で海外だと履歴書に性別や人種、顔写真はなくて当たり前という国もあります。日本ではルッキズム問題に対する危機意識がまだあまりないと言えるでしょう。

 

ちなみに2020年7月に履歴書の性別を削除要請する署名が経済産業省に提出され、12月にはコクヨが性別欄のない履歴書を発売しました。

 

── 仕事をする前の段階からルッキズムは影響を与えているんですね。具体的に、職場でのルッキズムにはどのようなものがありますか?

 

矢吹さん:

性別や見た目で不採用が決まったり、昇進に影響があったりしますね。決して表立って出ている問題ではありませんが、本人のスキルとは関係のないところで評価されることがあるのも事実です。

化粧や服装など職場では女性のルッキズム問題が根強い

── 女性は仕事の際に当たり前のように化粧をすることを求められますが、これもルッキズムと捉えていいのでしょうか?

 

矢吹さん:

そうですね。 化粧もそうですし服装もそうですが、業務に必要がないことを強要することは差別です。もちろん好きで化粧をしたりおしゃれをしている人はいいのですが、負担を感じてまでやる必要のないことのはずですよね。裁判での言い方だと「ある集団には課せられていないことを別の集団に課してはいけない」です。要するに男性はしなくてもいいのに女性は化粧をしなければならない、と女性だけが男性にはない負担をかけられている状態は、ルッキズムと言っていいでしょう。

 

── 不便を感じても“誰もがそうしているから”と自分を納得させる場面が多いですが、たしかに綺麗な服や化粧は仕事と直接関係ないですよね。

 

矢吹さん:

特に化粧や服装などの身だしなみに使っている時間や労力、お金は女性の方が多いです。実際にデータとしても出ていますね。

 

苦痛を感じたり大変な思いをしてまで機能的でないものを履き、心地悪くても我慢して化粧をする。なぜならそれが仕事をする女性の象徴だから、と思っている人は多いと思います。しかし、そんなふうに社会に決められた不公正さはおかしいことなのです。「みんなそうだから」と諦めるのではなく。嫌になったらいつでもやめられる環境を追い求めていくことが大切です。

 

── 営業職など外部と関わる部署では特に「同じ能力なら見た目がいい方が好印象」といわれることもあります。この考え方とはどのように向き合えばいいのでしょうか?

 

矢吹さん:

実際にそうなんだろうなと思います。しかしそれは見た目のいい営業担当者や販売員が有能だからではなく、消費者が見た目の悪いと思った営業担当者や販売員を差別した結果にすぎません。

 

だれから購入したところで商品の性能が変わるわけではないにもかかわらず、見た目のいい営業や販売員を選ぶことは、見た目に基づく差別、つまりルッキズムに荷担していることになります。それを良しとして受け入れるのではなく、本来それは間違えていることなのだと理解し、子どもたちの世代にこのような考え方を残さないようにすべきでしょう。

ルッキズムからくるハラスメントに納得してはだめ

── 社内に外見で判断する上司や同僚がいた場合も同じですね?

 

矢吹さん:

 はい。特に会社の場合、容姿で判断することはルッキズムだけでなくハラスメントになります。ポイントは「業務上必要があるかどうか」。必要がないのに上司などから「女性なんだから化粧くらい頑張ってよー」「女性はスカートの方が取引先の印象もいいよ?」などと言われた場合はハラスメントになるため、ハラスメントの相談窓口に相談するのがベストです。

 

──「みんなそうだから」「私が我慢すればいいか」と思考を止めてしまうのがよくないんですね。

 

矢吹さん:

なにかおかしいと思うことがあっても、特に職場で声を上げることは怖いですし、非常に勇気が必要なことです。自分が不自由さを我慢して波風立てずにやっていければいいと思うかもしれませんが、地道にやっていけば社会は必ず変わります。ひとりですぐにどうにかすることはできませんが、「どうせ社会は変わらない」と諦めずに、文句をつけていっていいと思います。

 

 

「働く女性は小綺麗にしておくもの」という考え方をなんとなく受け入れ、見た目が理由で採用されなかったり昇進できないことを「みんなそうだから」と諦めてしまいがちかもしれませんが、これも明らかなルッキズム。自分の子どもが大人になって働くようになったとき、私たちが日々感じている不自由さを感じずに済むように、今私たちが声を上げていくことが重要です。

 

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取材・文/ひなたきこ イラスト/Nib.