近年、二拠点生活(デュアルライフ)というライフスタイルが注目されています。たとえば平日は都心部の便利なところで働きながら生活し、週末は田舎でリラックスして過ごすなど、二拠点を行き来する暮らし方です。

 

第1回「都心・山梨の二拠点生活…週末田舎暮らしを低コストで叶えるには?」に続き、会社員をしながら都心部(神奈川県川崎市)と山梨の二拠点を行き来して暮らす、坂下真希子さんに話を伺いました。

 

 

Profile 坂下真希子さん

アフタヌーンティー・ティールームに勤務し、焼菓子などの商品開発を担当。フリーランスで働く夫と12歳の長男、6歳の長女の4人家族。ウェブサイト「外の音、内の香」では「〈毎日パンとサラダ弁当〉ときどき〈山生活日記〉」を連載。著書に『パンによく合う かんたんサラダ弁当』 (立東舎) がある。インスタグラム(@donuts1010)も更新中。

 

平日慌ただしいからこそ、週末はリフレッシュ

——山梨の「山の家」での暮らしを始めて約4年。実際に4年間生活してみて、よかったと感じるのはどんな点ですか?

 

坂下さん:

山梨に行って、週末をただそこで過ごすだけですが、リフレッシュできる環境があるのはやっぱりいいですよ。鳥のさえずりが聴こえたり、澄んだ空気のなか庭のデッキで過ごしたりすると「週末がきたなぁ」とホッとします。

 

平日は子どもの塾や習い事があって、帰る時間も夕飯の時間も、週の半分以上は家族バラバラ。毎日なんとなくテレビを見て、入れ替わりでお風呂に入って…という具合。21時の就寝まで何かと慌ただしいんですよね。

 

なかなか家族揃ってゆっくりごはんを食べるタイミングもないので、週末は家族みんなで食事を楽しむことを心がけています。

 

「山の家」では夫が庭に焚き火台をつくったので、夜は焚き火をしながら外でごはんを食べることも多いです。これは庭のないマンション暮らしではできないこと。手軽に外の時間が楽しめるのが、この家の醍醐味だと思います。

 

——インスタグラムの写真を拝見すると、とっても美味しそうな料理が並んでいますね!お子さんたちの反応は?

 

坂下さん:

何もやることがない環境なので「みんなでごはんを作ろう!」と声をかけて、子どもたちにも少しずつ手伝わせながら料理を作っています。

 

自分で作ると「今日はおいしくできた!」とか「これは自分が作ったやつだ!」と興味を持ってくれるので、手伝えそうなメニューを選ぶことが多いです。たとえば、ハンバーグやミートボール、ニョッキ、小籠包、キッシュなど。時間のない平日には作りづらいメニューにも挑戦します。

 

自宅だと料理を一緒に作るチャンスもなかなかないので、楽しくお手伝いしてくれるいい機会です。外で食べるから、イベントっぽくて余計に楽しいのかもしれません。

 

田舎暮らしで見えた、家族の新たな一面

——子どもたちの食育にもつながりそうですね。「山の家」での生活をしたことで、夫婦の関係や、家族の仲に変化はありましたか?

 

坂下さん:

まず、夫があんなに庭仕事をマメにする人とは知りませんでした(笑)。「こんな趣味があったんだ」と発見することも多いです。山梨に行けない週があったりすると、夫がひとりで庭の様子を見に行くこともあって。すっかりライフワークになっていて、負担ではないようです。

 

子どもたちは「山には電波が届かない」とあきらめているみたいで、テレビやスマホを見る時間が減りました。みんなで遊べるものを考えたり、持っていったりして、平日ではできないことをしています。

 

最近、夫と息子は釣りをする目的で、2人で「山の家」に出かけたんですよ。夫は普段は料理をしませんが、息子が「お父さんが作ってくれたラーメン、また食べたい!」と言っていて、なんだかいいなぁって。ふだんは私が食事を作るので、父親が料理しているという姿は息子にとって嬉しかったみたいです。

 

息子はいま12歳なので、そろそろ家族よりも友達を優先して遊びたがる年齢になるでしょう。そう考えると、一緒に遊べるのはあと数年かもしれないとリミットを意識するようになって。家族でいい体験を共有できる場所を設けたのは、いいことだったのかも…と振り返って思います。

 

——二拠点生活用の家を購入する費用で、旅行する…という選択肢は考えなかったのですか?

 

坂下さん:

実は、私も最初はそう思っていて「同じところだと飽きちゃうかな」とも考えていたんです。家をわざわざ買わなくても、そのお金でホテルや旅館に泊まることもできますから。いろんな場所に行けたほうが楽しいんじゃないかという気持ちもありました。

 

でも実際に4年間体験してみて、いまのところ飽きていません(笑)。自分の所有物で別宅があるという感覚は、旅先で過ごすのとは別の楽しみなのかも。自分たちの好みのものを揃えて、ホッとできる空間が2つあるという感じです。

 

年末年始やお盆、夏休みなどはどこも混んでいてお金もかかるので、そういうことを気にせず「山の家」で過ごせるのもよかったですね。家族4人で旅行するとそれなりの出費になるので、「山の家」は10年使うことを考えたら案外コスパがいいかもしれません。

 

——リモートワーク化が進み、地方への移住を現実的に考える人も増えているそうです。二拠点生活に興味のある人にアドバイスはありますか?

 

坂下さん:

私たちの場合、ほぼ毎週せっせと通っていますが、家から車で片道1時間半~2時間以内の距離だから続けていられる気がします。もしこれが片道2時間半以上かかっていたら、体力的に難しかっただろうなと。二拠点のアクセスによって、足を運ぶ頻度が変わると思います。

 

それと、私たちもそうでしたが、知らない土地に飛び込むのは少し勇気がいることだと思います。私たちがそこに慣れるかどうかよりも、周りが受け入れてくれるかどうかが一番心配したことでした。

 

「週末だけ過ごす家」と聞いたら、ちょっと贅沢に感じる人もいますよね。それを受け入れてもらえるのかなと不安もありましたが、近所の方たちが「そうやって暮らしている方もいるよ」と先に言ってくださって、柔軟に受け入れてくださったのでありがたかったです。

 

私たちの二拠点生活は、あくまで自分たちの身の丈に合ったレベルの慎ましいものです。徐々に世の中に二拠点生活が浸透してきたら、「こういう暮らしもあるのか」と理解してもらえるのかなぁと思います。あくまで別荘ではなく「生活拠点が2つある」という感じなんですよね。

 

——工夫して二拠点生活を楽しむ坂下さん一家。「贅沢をするわけではなく身の丈に合った暮らし」という言葉も印象的でした。次回はお料理上手の坂下さんに、山の家でもよく作るという簡単レシピを教えていただきます。

 

 

取材・文/大野麻里 撮影/坂下真希子