近年、二拠点生活(デュアルライフ)というライフスタイルが注目されています。たとえば平日は都心部の便利なところで働きながら生活し、週末は田舎でリラックスして過ごすなど、二拠点を行き来する暮らし方です。

 

かつては別宅を持つことは、限られた富裕層だけの楽しみと考えられていました。しかし、近年の二拠点生活は従来の“別荘”ともまた違うようす。働き方改革やリモートワーク化の推進により、現実的に考える人も増えているようです。

 

新型コロナウイルスの影響で、地方暮らしへの関心も高まりつつあるこの時期。今回は、会社員をしながら都心部(神奈川県川崎市)と山梨の二拠点を行き来して暮らす、坂下真希子さんに話を伺いました。

 

 

Profile 坂下真希子さん

アフタヌーンティー・ティールームに勤務し、焼菓子などの商品開発を担当。フリーランスで働く夫と12歳の長男、6歳の長女の4人家族。ウェブサイト「外の音、内の香」では「〈毎日パンとサラダ弁当〉ときどき〈山生活日記〉」を連載。著書に『パンによく合う かんたんサラダ弁当』 (立東舎) がある。インスタグラム(@donuts1010)も更新中。

 

子どもと一緒に過ごせる時間は案外短い

——まずは二拠点生活をしようと思ったきっかけを教えてください。4年前、山梨に「山の家」を購入されたそうですね。どんな経緯があったのでしょうか?

 

坂下さん:

もともと夫が釣りやアウトドアが好きで、以前から家族でよくキャンプに行っていました。「山梨あたりにキャンプの拠点があればいいね」と話すようになり、その頃、ちょうど自宅マンションのローンを完済したんです。そんなタイミングが重なり、山梨での物件探しが始まりました。

 

正直、はじめは贅沢すぎるのでは…という気持ちもありました。でも夫に「子どもたちと過ごせる時間は案外短いし、一緒に遊べたとしてもあと10年くらい。その期間に、都会では味わえない自然から学べることを経験させられる環境があったらいいと思う」と言われて、確かにそうかもしれないと。

 

それに、夫の「10年後、家を使わなくなったら手放せばいい。その時に同じぐらいの価格で売れるような物件を探そう」という言葉も後押しになりました。

 

——はじめから「一生住む」と決意して購入したわけではないのですね。実際の物件探しはどのように進めましたか?

 

坂下さん:

八ヶ岳や山中湖など、行きやすい別荘地エリアから探し始めました。けれども手頃な価格の物件は古くてそのままでは住めないところが多く、修繕費用がかさみそうで。限られた予算だと、なかなかコレという物件に出会えないまま1年が過ぎました。

 

途中から「自然があって夏涼しいところなら、別荘地にこだわる必要はないのかも?」と気持ちを切り替えて、民家の空き家情報をチェックするように。そうしたら手頃な物件がいくつか候補に上がりました。勝沼という地域なのですが、ブドウ畑が続く景色も気に入ったんです。

 

最終的に決めたのは、約40平米の小さな1LDKの家。山を含めると土地は100坪近くありますが、家自体は本当にコンパクトです。おじいさんが老後一人暮らしをするために建てた家だそうで、築6年と新しく、手直しなしですぐに住めることが一番の決め手でした。

 

気になる二拠点生活の費用は?

——2つの家を維持するということは、それなりの費用もかかると思います。坂下さんはそのあたりはどうやって両立していますか?

 

坂下さん:

うちは二拠点とはいえ、贅沢感はまったくなくて(笑)。想像されるよりも物件価格はだいぶ低く、割り切って狭い家を選んだことでかなり抑えられました。そもそも「アウトドアを楽しみたい」というのが一番の目的だったので、できるだけデッキや庭で過ごせばいいし、室内は寝る部屋さえあればいいと思っていて。

 

結果、無駄なスペースがない分、手入れや掃除もラクですよ。ただ、室内の狭さをカバーするために、外には部屋の広さと同じぐらいのデッキを作りました。

 

この物件はソーラーパネルが設置されていて、オール電化の家なんです。平日に蓄電された電気で週末過ごす分はまかなえるので、自宅と二重で光熱費がかかっていません。それも購入の決め手の1つでしたね。

 

それ以外でかかるのは水道代くらい。維持費として固定資産税なども払いますが、地方なので東京ほどはかかりません。自宅のローン分が「山の家」の支払いに変わっただけなので、全体の生活費はさほど変わっていないんです。

 

——週末、「山の家」ではどのように過ごされているのでしょう?

 

坂下さん:

金曜夜に夕飯を食べ終わったら、車で「山の家」に向かいます。金、土曜と2泊して、日曜の夕方に自宅マンションに戻ってくる…というのが、お決まりのパターンです。

 

「山の家」では、外が気持ちのいい季節はデッキに椅子とテーブルを出して朝ごはんを食べたり、夕焼けを見ながらワインを飲んだり…。外ごはんがメインイベントです(笑)。晴れていれば、庭の焚き火台で昼夜問わず年中バーベキューもできますし。

 

庭ではたくさん野菜を育てているので、その世話や収穫も楽しい時間。採れたての野菜でメニューを考えるのも楽しいです。

 

テレビがないので、みんなでボードゲームやトランプをしたり、絵を描いたりと家族で遊ぶ時間も増えました。近くには山も川もあるので、山登りや川遊びによく行きますし、コロナ禍以前は温泉にもよく行っていましたね。

 

——コロナ禍では、どのように過ごされていましたか?

 

夫はもともとフリーランスで在宅ワーク。私がリモートワーク中の平日は、狭い部屋の中で家族全員がそれぞれの空間を保ちながら、なんとか仕事や勉強をしていた感じでした。

 

なので、狭い部屋から脱出して、週末「山の家」で過ごす時間はとてもリフレッシュになりましたね。外の空気を吸って、デッキでコーヒーを飲むだけでもリラックスできました。

 

子どもたちも外で遊ぶことが難しかった時期ですが、部屋に閉じこもらずに家族だけで過ごせる場所があってよかったなぁと改めて感じました。食材などは自宅付近で買い出しをして行き、向こうではどこにも立ち寄らずに「山の家」だけで過ごすなど、近隣への配慮は心がけていました。

 

——コロナ禍でいっそう感じた、二拠点生活のありがたみ。「山の家」の暮らしは、話を聞くだけでも楽しそうな姿が目に浮かびます。次回は「山の家」がもたらした家族の変化について伺います。

 

 

取材・文/大野麻里 撮影/坂下真希子