小学校の夏休みの宿題を、大学生などが報酬を受け取ってかわりに仕上げる「宿題代行」は、インターネットやSNSの普及にともない、ここ10数年で急激に増加し問題になっています。

 

「お金で時間や賞を買うという姿勢は子どもの教育上よくない」

 

「到達度が違うのに、同じ内容の宿題を一律にやらせるほうがおかしい」

 

など、ママ・パパのあいだでも意見が分かれています。

 

今回は、反対する人と理解を示す人で、それぞれなぜそう思うのか、親だけでなく新社会人世代は「宿題代行」についてどう感じているか…などを紹介します。

 

なぜ「宿題代行」を利用するのか…それぞれの理由

筆者が子どもの頃は、クラスの子が、早く宿題のできた友達に駄菓子などと引き替えに夏休みのドリルを手伝ってもらったものの、字が違っているため先生に見つかって怒られた…などの笑い話もありました。

 

しかし、現在問題になっている「宿題代行サービス」は、おもにインターネットを通じ、子どもの宿題をかわりにやってもらうというもの。

 

2000年頃から徐々に増えはじめ、スマホが普及したこの10年間ほどの間に利用者数がぐっと増えたといわれています。

 

大学生向けのレポート作成代行なども請け負う会社がありますが、メインはやはり小学生から中学生の親が依頼するサービスです。

 

しかし、理由は子どもが夏休みの宿題をさぼっていて親に泣きついたから…ではなく、

 

  • 中学受験に向けて塾のカリキュラムで勉強を進めたい
  • 学校の宿題のレベルが易しすぎる
  • 絵や自由研究で賞を取れば、中学受験時に有利になる

 

と、おもに中学受験対策として「貴重な夏休みの時間をお金で買う」という理由がメインのようです。

 

なお、宿題代行作業をフリマアプリやインターネットの各ショッピングサイトに出品することは2018年に禁止されましたが、独自サイトなどで代行を請け負う会社は今も存在します。

 

小学生のママ・パパに聞いてみた「宿題代行」どう思う?

今回、現在、小学生のお子さんがいるママ・パパ50人に「宿題代行はあり?なし?」とアンケートをとってみたところ、結果は

 

  • あり…31%
  • なし…69%

 

と、3人に1人は「場合によっては宿題代行を頼んでもいいのでは」と考えていることが分りました。

 

理由を聞いてみると、次のような場合にはアリではないか…という意見が。

 

「わが子には宿題代行の必要性を感じませんが…もし、よそのお子さんが受験や特殊な資格取得など目標に向けて時間を使いたいので、簡単すぎて苦痛に感じるようなドリルは業者にお願いしたいと親子で話し合って決めたなら、別にそれをずるいとは思いませんね」(Wさん・35歳・4年生と3年生のママ)

 

「基本的には、いまの小中学校の通知表(内申・評定)は、その子自身がどのレベルに達しているかを見る”絶対評価”ですよね。相対評価で、自力で宿題を仕上げた子の成績・順位が落ちるのなら、ちょっと問題だと思いますが」(Yさん・39歳・6年生のママ)

 

「自力でやるにせよ、やらないにせよ、どこかで本人の実力が試される時がきますよね。何も考えず…というのはよくないと思いますが、十分に実力のある子がほかに力を注ぎたいからという判断の上でほかに頼むならいいのかな?と思います」(Kさん・33歳・2年生のパパ)

 

いっぽう、「宿題代行はやはり良くない」と考える人は、次のような理由を挙げています。

 

「芸能とかスポーツのために、宿題は代行で…というのは、小学生のうちからリスクが高いのでは?もしその道に進まなかった場合、基礎学力がついていないことになり、困ると思います」(Nさん・34歳・1年生のママ)

 

「善悪もさることながら、子どもがどう感じるかが気になりますね。美大生にあえて小学生ぽいタッチで描いてもらった絵でコンクールに入賞して表彰されたとして…いやな気持ちにならないのかな?親は、名門中学に合格する材料が増えた!と喜ぶかもしれないけど。多くの子にとってウソをつき続けるという行為は、かなり心を蝕むと思います」(Jさん・38歳・5年生と2年生のパパ)

 

「できないならできないで、正直に言って、成績を下げられるなり叱られるなりすればいいと思います。それが子どもに”責任を取ること”を教える方法では?」(Fさん・40歳・4年生のパパ)

 

「将来ろくな大人にならない」との声に、20代社会人の意外な反応

ところで、SNSなどで宿題代行に否定的な人たちが理由として挙げたもののうち、とても多いのが

 

「社会に出れば、やりたくないことでも必ずやらないといけない。宿題はその練習なのに、やらずに済ませていたら将来ろくな大人にならない」

 

というもの。

 

そこで、新社会人世代となる20代の男女にも、宿題代行についてどう思うか意見を聞いてみました。

 

すると、返ってきたのは意外な答えでした。

 

「社会人に求められるのって、別に”イヤなことに耐える力”じゃないと思いますよ。こんなのおかしいと思ったら対応を考え、データを示して交渉・改善する能力じゃないでしょうか。だから、子どもが自分で先生に”塾の宿題で可”としてもらうとか、考えて交渉してみればいいと思います。まあ、それを受け止められる学校はまだ少ないと思いますけどね」(Uさん・26歳男性・IT関連)

 

「私の職場では、与えられた課題を素直にやりとげる…という姿勢ではあまり評価されません。もちろん自己研鑽やスキルアップは必要ですが、内容によっては外注して早くクオリティの高い成果物を出した方が喜ばれます。とはいえ、小学生でその状態になるのは、ちょっと無理させすぎじゃないのかな?」(Sさん・28歳・シンクタンク)

 

「働き始めて思うのは、目的が明確ならばちょっときつい作業もがんばれるということ。部活でも、試合に勝ちたいから、ハードな走り込みなんかもできましたよね。宿題をする意味みたいなのをうまく子どもに伝えてあげられないのは大人の責任かも。子どもが納得できないなら、その宿題の存在意義を見直すべきだと思います」(Hさん・25歳女性・運輸業)

 

社会人になったら、必ずしも盲目的に「与えられた課題を期間内にやりきること」が至上命題ではなく、それにどのような意義や目的があるかを考えるべき、という考えの20代が多いことがわかります。

 

外資系企業では、以前からこういう考え方は珍しくありませんでしたが、日本もだんだんとそれに近づいているのかもしれません。

 

おわりに

2020年は、全国の90%以上の小学校で、休校期間の代替として夏休みが短縮されました。

 

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それに伴って宿題の量が減ったり、工作・自由研究・読書感想文などは任意になった学校も多くあります。

 

しかし、いくら短縮になっても、宿題ゼロという小学校は少数派。

 

夏休みの宿題は「限られた時間で与えられた課題をどう進めるのか」「完成できそうにないときはどうするのか?」を、子どもが考える機会でもあります。

 

親としても「とにかくやらせる」「代行を頼んであげる」の二択ではなく、一緒に計画を立てる練習をしたり、宿題の意義を話し合ったり…これからの時代を生きる子どもたちにどんな選択肢を示せるのか、フラットな視点で考えてみる必要がありそうですね。

 

文/高谷みえこ

参考/文部科学省「学習評価に関する資料」

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/061/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/02/01/1366444_6_2.pdf

宿題代行への対応について(株式会社メルカリ・文部科学省合意) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/syukudai/__icsFiles/afieldfile/2018/08/29/1408644_1_1.pdf