母乳育児の赤ちゃんとママ。授乳中は親子の絆を感じる幸せなひととき…のはずなのに、なぜか、絶望的な気持ちになったり、鳥肌の立つような不快感や吐き気などの身体症状を感じたりすることがあります。これは「D-MER(ディーマー)」、日本語で「不快性射乳反射」と呼ばれる生理的な反応で、子どもへの愛情度やママの性格などとは無関係に起こるといわれています。
今回は、ママたちへのアンケートも参考に、産後は誰にでも起こりうる「D-MER(ディーマー)不快性射乳反射」について、原因や対策を解説します。
「D-MER(ディーマー)不快性射乳反射」とは
「D-MER(ディーマー)=不快性射乳反射」は、おもに出産後数週間頃から数ヶ月にわたって起こる授乳中の不快な感覚のことをいいます。
人によって表れ方も程度もさまざまですが、次のようなネガティブな身体的・精神的感覚が起こる人が多いようです。
- 不安
- 焦り
- 不快感
- 動悸
- 眠気
- 鳥肌が立つ
- めまい
- 吐き気
- 倦怠感
- 喉の渇き など
上記の不快感は、母乳が射出(作られて出てくること)の直前からお乳が作られるピークタイムあたりまで続き、赤ちゃんがお乳を飲み終わると解消します。
複数のお子さんがいるママでは、1人目だけまたは2人目だけという人もいれば、「きょうだい3人とも症状が出た」という人も。
原因はまだ完全にはわかっていませんが、産後特有のホルモンの働きによる生理現象と考えられていて、授乳中以外も症状が続く「産後うつ」とは別のものです。
また、ママの性格や日頃の価値観、子どもへの愛情度、母乳育児に否定的かどうか…などとも関係がないということ。
ディーマーが起きるからといって「母親失格」などと思う必要はないということですね。
今回、独自アンケートで「授乳中に不安感や不快感などを感じたことがありますか?」と質問してみたところ、「ある」と答えたママは6%。
「ややある」4%と合わせ、10人に1人は何らかの不快な感覚を味わったことがあると分かりました。
NHKの育児番組でも、医師が「約9%の方にあるのではないかといわれています」と述べていて、割合は少ないものの決して稀なケースではなく、いつ誰に起こってもおかしくないといえます。
「ディーマー」は最近やっと認知されてきた
実は、この「ディーマー」という現象は、2007年頃に初めて名付けられたものだそう。
そのため、助産師さんや保健師さんでも知らない人がまだ多く、
「産後、あまりにも授乳中に気持ち悪いため助産師さんに相談したけど、なんでしょうねえ~と流されてしまいました」(Uさん・30歳・2歳児のママ)
という経験を持つママもいました。
まだ完全にメカニズムは解明されていませんが、ディーマーには次のようなホルモンが関係していると考えられています。
ドーパミンとプロラクチン
通常、赤ちゃんが乳頭を吸い始めると、その刺激で「プロラクチン」というホルモンが分泌され、母乳を作り始めます。
それと引き替えに、体内では「ドーパミン」の濃度が一時的に下がるそう。
ドーパミンはポジティブな気持ちをもたらすホルモンなので、それが下がってしまうと、上記のようなネガティブな精神状態が急激に襲ってくる可能性があるといいます。
オキシトシン
出産時に陣痛を起こしたり、産後、赤ちゃんが泣いたときにお乳の産生をうながす働きのあるホルモンが「オキシトシン」です。
多くの場合、オキシトシンが増えると幸福感や安心感などを感じるので、別名「愛情ホルモン」「幸せホルモン」と呼ばれるほど。
ところが、体質や体調などによって、なぜかオキシトシンが分泌されると不快感を感じてしまうことがあるのではないかと考えられています。
近年、ようやくディーマーについての認識が広がりつつあり、インターネットやSNSを通じて情報が手に入るようになりました。
しかし、世間では「母乳をあげるとママも赤ちゃんも幸せになれる」というのが通説。
実際に授乳中は幸福感で満たされているという人や、そこまでいかずとも「とくに不快ではない」という人のほうが多いと思われます。
私たちの母親世代やもっと昔の世代にも、誰にも分ってもらえないまま苦しんでいた女性は多いのかもしれません。
ディーマーの生理的な不快感、どうしたらいい?
ディーマーは生理的な反射とされているため、なかなか根本的な治療は難しいのが実情です。
一定の時期が過ぎれば消滅するものとはいえ、少なくとも数週間から時には1年以上、毎日何度も苦しむのは辛いですよね。
少しでも不快感を軽減するための方法はなにかあるのでしょうか?
今回アンケートに回答してくれたママのうち、「ディーマーの経験がある」と答えたママに、なにか対策はありましたか?と聞いてみたところ、次のような方法を教えてくれました。
「そういう生理的な反応があると知るだけでも気が楽になりました。それまで、自分がおかしいのではないか、本心では子どもを愛していないから不快になるのかと二重に心配だったので…」(Tさん・33歳・3歳児と1歳児のママ)
「ディーマーというのがあるんだと、夫など周囲の人に伝えておくといいと思います。私は薄暗い部屋で授乳しながら泣いていたことがあり、夫も両親教室で産後うつの話を聞いていたので心配してしまい…授乳後、ケロッとしている私を見て混乱していたので」(Kさん・30歳・1歳児のママ)
「私はたまたま、上の子がいるママ友が同じ状態になったそうで詳しく教えてもらえたんです。彼女によると、疲れやストレス、水分不足、カフェイン摂取などが重なると症状が強く出やすいそうで、私も自分なりの注意事項を知っておくようにしていました」(Eさん・34歳・4歳児と2歳児のママ)
「寝かしつけの前など、暗く静かな部屋にいると不快な感覚に意識が集中してしまうので、授乳は明るい部屋と割り切って、音楽をかけたりテレビを付けたりして気を紛らわせていました」(Hさん・35歳・3歳児のママ)
「産後1ヶ月あたりから、授乳を始めるとめまいや吐き気、背中に虫酸が走るようなゾワゾワした不快感などが数ヶ月も続き、まだ母乳は出たけどミルクに切り替えました。それまで授乳が恐怖とガマンの時間だったのに、子どもの顔を見ながらニコニコとミルクをあげられるようになって…この方が無理して母乳を続けるよりもずっといい親子の時間だ!と思いました」(Yさん・35歳・1歳児のママ)
「どうしても母乳を直接飲ませるのはダメで…もともと母乳育児を目指していたので、かなり挫折感がありましたね。搾乳なら症状が出なかったので、3ヶ月頃まで搾乳したものをほ乳びんで飲ませていました」(Fさん・29歳・2歳児のママ)
なお、とても症状がひどい場合は受診して薬を処方してもらうことも可能で、赤ちゃんがミルクを受け付けないときなどの選択肢として有効です。
おわりに
ディーマーについては、現在でもまだ広く知られていないことと、外から見えない症状ということもあり、母親・姉妹・ママ友などに相談しても不思議そうな顔をされるという声もありました。
不快感を訴えるママの周囲の人は、「変わったことを言うなぁ」という目で見たり、「母親なのに、なに言ってるの」「母乳は赤ちゃんのためだから」…などの言葉でママを追い詰めないようにしたいですね。
文/高谷みえこ
参考/母乳とミルクの悩み - NHK すくすく子育て情報 https://www.nhk.or.jp/sukusuku/p2020/811.html#q2