現在子育て中のママ・パパの多くは過去に婚姻届けを出して、夫婦どちらかの姓(名字)を選んだ経験があると思います。

 

そしてその多くは夫側の姓ではないでしょうか。

 

いま、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することができる制度「選択的夫婦別姓」について、いよいよ日本社会でも議論が高まっています。

 

そこで今回は、とくに「育児」や「子供への影響」にスポットを当てて、選択的夫婦別姓を考えてみたいと思います。

 

選択的夫婦別姓とはどんな制度?

この制度の正式な名称は、「選択的夫婦別氏(べつうじ)制度」。

 

そもそも、江戸時代までは一般庶民には氏(姓や名字)がありませんでした。

 

法務省サイトの説明によれば、明治になって国民が姓を名乗るようになり、当初は結婚後も別々(実家)の姓を名乗るはずだったのが、民間では夫の姓に変えることがいつのまにか慣習化していったそうです。

 

そこで明治の後期には結婚時の夫婦同姓が民法で定められ、現在は昭和22年に成立した民法750条に基づいて、

 

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する

 

と決められています。

 

この法律では夫婦どちらの氏を選んでもよいことになっていますが、実際には、約96%のカップルで夫の姓を選んでいます。

 

昭和22年からすでに70年以上が過ぎ、女性の働き方・きょうだいや子どもの人数・家制度に対する意識などが大きく変わりました。

 

 

その中で、ほぼすべての女性が姓を変えるような法律が果たして実情に合っているのかという議論が高まり、改正が提案されましたが「家族の一体感がなくなる」などの反対意見により、まだ改正に至ってはいません。

 

実はいま、世界で、夫婦の姓を同姓とするように法律で義務づけている国は日本だけ。

 

国連の「女子差別撤廃委員会」は、2003年から、夫婦同姓は差別的な規定だとして民法改正を何度も日本に勧告しています。

 

そこで現在は、新しい制度はどうあるべきなのか検討が進んでいる段階です。

 

案として出ているのは、

 

  • 希望により、夫婦どちらかが姓を変えて相手の姓を名乗る
  • 希望により、どちらも姓を変えずに別々の姓を名乗る
  • 原則はこれまで通りで、特別な場合に別々の姓を名乗ることができる

 

など。上の2つが選択的夫婦別姓で、3つめは「例外的夫婦別氏制度」と呼ばれています。

 

考えられるメリット・デメリット

現在の法律では、夫婦が別々の姓を名乗りたい場合、婚姻届を出すことができない(入籍できない)ため、「事実婚」という扱いになります。(※法的には「内縁関係」と呼びます)

 

事実婚のデメリットはつぎのようなもの。

 

  • パートナーの配偶者控除が受けられない
  • パートナーが死亡したときに遺産を相続できない
  • 子どもは母親の戸籍に入り、父親に共同親権が付与されない
  • 賃貸・購入ローン契約や入院・手術時の保証人になれない

 

夫婦別姓での入籍が認められるようになれば、今後はこういったデメリットが解消されます。

 

また、法律に従ってパートナーの姓に変えた場合、おもに女性側には以下のような名前変更手続きの負担が発生します。

 

  • 社会保険
  • 銀行口座
  • クレジットカード
  • 携帯電話
  • 運転免許証
  • パスポート
  • 生命保険
  • 勤め先
  • 名刺
  • 印鑑
  • 診察券
  • 各会員登録
  • ポイントカード など

 

忙しく働いている人にとって、上記の負担は決して軽いものではありません。

 

さらに離婚して元の姓に戻る場合、仕事上の相手にプライベートな事情を伝えなくてはならない場面もあり、ここでもなぜ女性だけが?という疑問があります。

 

ママが子どもを引き取る場合、子どもの姓も変えなくてはならず、子どもに負担をかけたくないという理由で離婚後も元の夫の姓を使い続ける人もいますが、姓が家ではなく一人一人に属するようになれば、こういったデメリットも減ると考えられます。

 

いっぽう、制度が導入された後にも問題はいろいろ予想されています。

 

たとえば、妻は別姓を選択したくても、夫が「自分の姓に変えてほしい」と望んでいる場合、お互いが納得するには十分な話し合いが必要です。

 

しかし、夫の親族が「孫が母側の名字を名乗れば跡取りがいなくなる」と言い出して譲らなかったり、やりとりが感情的になってしまったりすると、最悪の場合、結婚そのものが成り立たなくなるおそれも。

 

夫婦別姓で、子どもの姓はどうなるの?

選択的夫婦別姓で、ママとパパが別の姓を名乗った場合、子どもはどちらの姓を名乗るのか?と疑問に思う人もいると思います。

 

生まれたばかりの赤ちゃんが、自分で選ぶことはできないですもんね。

 

これについてもまだ検討中とのことですが、過去の案としては、平成8年の法制審議会の答申で以下のような考え方が採用されています。

 

  • 婚姻の際にあらかじめ子どもが名乗るべき氏を決めておく
  • きょうだいは全員同じ氏を名乗る
  • 未成年の子どもは特別の事情と家庭裁判所の許可がある場合のみ、姓を変えられる
  • 成年になった子どもは特別の事情がなくても家庭裁判所の許可を得れば氏を変更することができる

 

平成29年の調査では、「夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、法律を改める必要はない」と考える人は、子どものいない夫婦では19.6%だったのに対し、子どものいる夫婦では32.2%と、かなりの差が見られます。

 

とはいえ、子どものいる夫婦でも「法律を改めても構わない」と考える人は40%にのぼり、大切なのは姓そのものではなく、家族の心に一体感があること…と考えている人は年々増えているのではないでしょうか。

 

おわりに

選択的夫婦別姓が実施されたときに予想されることとして、例えば「(男性側の)姓の跡継ぎがいなくなる」といった問題は、過去には女性側の家ではほぼ強制的に受け入れざるを得なかったものです。

 

この制度を通じて、多くの人が、これまで「女性だから当たり前」とされてきたことを洗い出し、男女共通の問題だととらえ直すきっかけになるといいですね。

 

それが子どもたちの未来をよりよいものにする助けになるのではないでしょうか。

 

文/高谷みえこ
参考/法務省:選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について http://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html
法務省:「家族の法制に関する世論調査(子どもの有無別)」平成29年調査結果 http://www.moj.go.jp/content/001271418.pdf