男は黒、女は赤。一律でそう決まっていた時代と比べると、最近のランドセルは色もデザインも豊富で羨ましい。数年前までは単純にそう思っていましたが、長女が小学生になってあることに気づきました。赤、キャメル、ラベンダー、ピンク、パステルブルーなど、色とりどりのランドセルを背負っているのはほとんどが女子。男の子は「黒」が圧倒的多数派だったのです。
長女のクラスはどうかと聞いてみると、18人いる男子の中でなんと17人が黒のランドセル、残りの1人は青とのこと。
こんなに選択肢があるのに、ほとんどの男子が黒を選ぶのはなぜ? うっすら抱いていた違和感と謎は、男の子のラン活体験を通してようやく解けたのです。
男の子にはパステルカラーの選択肢がない?
「ランドセルは水色がいい! それか金か銀か虹色!」
きっかけは、来春の小学校入学を控える長男のこんな言葉でした。
妖怪やウルトラマンと同じくらい、かわいいものも大好きな息子。水筒売り場で好きなものを選ばせたら、パステルピンクの「すみっコぐらし」水筒を迷うことなく手に取った5歳児です。
そこでデパートのランドセル売り場を訪れると、水色のランドセルは確かにありました。
ただし、いずれもリボンやハートの刺繍、花柄の内装が施されて「女の子向け」コーナーに並ぶものばかり。「男の子向け」コーナーには水色のランドセルが一切見当たらず、ほとんどが黒で、わずかにネイビー、ブラウン、カーキが続きます。
大手専門メーカーに問い合わせてみた
たまたまこのデパートでは取り扱っていないのかも。そう思って大手専門メーカー各社の公式サイトやカタログを確認しましたが、やはり水色のランドセルはガーリーな趣向を凝らしたものしか見当たらず…。
そこで複数のランドセル専門メーカーの窓口に、「リボンやハートのデザインが施されていない、パステルブルーのランドセルは取り扱っていませんか?」と問い合わせたところ、次のような返事が届きました。
「パステルカラーでの男の子様向け展開がなく誠に申し訳ございません。商品のカラー展開につきましては、ランドセル業界の人気動向、ならびにトレンド情報等からカラー展開を決定しております」
「(パステルブルーがない理由は)毎年、ご要望の多いお色から生産をしております。男の子に人気のカラーは黒、それに次いでブルー(青系)が人気のカラーになっております。男の子はネイビーや紺などのダーク系のブルーが好まれ、女の子は淡いトーンのブルーやパール系のブルーが好まれております」
「数量限定ですがオーダーメイドであればご対応可能です」
大手メーカー各社の回答をまとめるとこうです。
男の子向けとして売り出しているランドセルは、黒かダークカラーがほとんどである。なぜならそれが男の子に人気の色だから。(欲しい人はオーダーメイドでどうぞ)
ここでようやく現実が見えてきました。男の子たちはパステルカラーを「選ばなかった」のではありません。最初から黒やダークカラー以外のランドセルが選択肢として提示されていなかったのです。
半数以上の男の子は「黒」を選ぶ
最新のアンケート調査を見てみましょう。ランドセルの色が分散化している女の子に対して、男の子は7割近くが黒を購入予定という結果が出ています。
「でもパステルカラー好きの男の子なんて少数派なんだから、メーカーが製造しないのは仕方ないのでは?」と考える人もいるでしょう。
ですが、男の子はダークカラーを、女の子はパステルカラーを選ぶのは、“本能”ではないはずです。子どもは社会の中で、その社会通念を取り込みながら成長するもの。服の色やおもちゃの種類など無数のメッセージを通して、子どもたちは「性別らしさ」を感じとっていくのではないでしょうか。
黒・青・緑などが「カッコいい」「男の子の色」とされる環境で育った男の子たちが、それらを好むようになるのは自然な成り行き。
さらにもうひとつ、男の子のランドセルの多くが「黒」であることには決定的な理由があります。
親世代が影響を与える「男の子らしさ」
ランドセル選びは、実は両親や祖父母のジェンダー観が出てくる場でもあります。女の子は多色化しているにも関わらず、男の子に黒が多いのは、購入権が親にあるということも無関係ではないはず。
正直、筆者もいざ自分の息子が「水色がいい!」と言い出したときは一抹の不安が胸をよぎりました。「…絶対少数派になるけど、大丈夫かな?」と。
もちろん、自分の意思で「黒」を選ぶ/選んだ男の子を否定したいわけではありません。純粋に黒が好き、黒の凛々しさに惹かれて選んだ男の子も当然いるはず。「長く使うから傷や汚れが目立たない濃い色がいい」と実用性で黒を選んだ、という保護者の声も聞きます。
ただ、女の子と男の子、両方のラン活体験を通して筆者が感じたのは、「男の子にももっと色の選択肢があっていいのに」というもどかしさ。せめて、メーカー側は「性別」で入り口を分けないでほしい。その時点で、男の子はダークカラー寄りに、女の子はパステルカラー寄りにと、どちらの選択肢も狭まってしまうのですから。
では、メーカー側は「ランドセルの性差」をどう捉えているのでしょう? 次回は「人気ブランド「土屋鞄」はなぜランドセルを性別で分けないのか?」と題し、ランドセル業界で絶大な人気を誇るブランド「土屋鞄」にお話を伺います。
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文/阿部 花恵
出典/ランドセルの通知表 https://www.randoseru-report.com/