夫婦別姓や事実婚、国際結婚、同性カップルなど、日本の「夫婦ダイバーシティ(多様性)」をテーマにお届けするオピニオン特集。

 

今回お話を伺ったのは、昨年事実婚という形を選んだという同性カップルYouTuberのぽっちさんとみち子さん。女性同士の「夫婦」ならぬ「婦婦」の関係について伺いました。

 

コロナ禍でのオンラインインタビューを実施。ハキハキと明るい受け答えが印象的なおふたり。

 

Profile ぽっちさん&みち子さん

レズビアンのカップルの日常を配信する『はぴLIFEチャンネル』を運営するYouTuber。チャンネル登録者は約2万8000人。2016年、職場で出会い交際がスタート。2019年7月に事実婚の関係に。同居しながら、仕事も一緒に行っている。

 

 

法律では認められない婚姻関係。それでも事実婚を選んだ理由

——YouTubeで結婚報告をされていましたね。おふたりがパートナーとして一緒に暮らすだけではなく、事実婚という形をとった理由を教えてください。

 

ぽっちさん:

男女のカップルと変わらない心境です。だらだら付き合っても…という気持ちもありましたし。付き合った当初から「3年くらい付き合ったら結婚したいね」と話していたので、ちょうど3年経ったころに結婚を決めました。

 

みち子さん:

私は学生時代から恋愛対象が女性で、以前は結婚するという未来は考えていませんでした。でも彼女と出会って、結婚して子どもがほしいと思うようになって。日本では同性婚がまだ認められていないので、結婚するなら私たちは「事実婚」を選ぶしかなかったという感じです。

 

 

——同性カップルを“婚姻に相当する関係”と認める「同性パートナーシップ証明制度」を発行している地方自治体もありますよね。そういった制度は利用していますか?

 

ぽっちさん:

今住んでいる場所にはその制度がなくて。でも、今のところ引越しは考えていません。というのも、証明書はその自治体でしか効力がないんです。申請した自治体以外の医療機関だと適応されないし、その市や区を出てしまうと、また新しい引越し先で制度に申し込む必要があるので…。住んでいる場所でそういう制度があれば、申請したいとは思います。

 

みち子さん:

制度があれば、入院した時に家族として面会が許可されたり、家族割引のサービスが受けられたりというメリットはあります。男女の夫婦と同じように生活していても、家族と認められないことは多い。住宅ローンを組むのも難しいといわれていて、家を買うハードルも高いです。

 

ぽっちさん:

法律で認められていない同性婚に対する世間の目も、まったく気にならないと言ったら嘘になります。

 

 

——制度上の問題はなかなか解決が難しそうですが…おふたりのYouTubeのコメント欄に、様々な立場の方が書き込んでいたのが印象的でした。

 

みち子さん:

YouTubeを始めたことで、たくさんの方がメッセージをくださるようになって。女性同士で家族関係を築かれている方や、同性カップルで子どもを持たれている方もいます。

 

実は私、YouTubeを始める前まで「LGBTQ」の社会的な特別性について考えたことがなかったんです。身近に同性カップルもいなかったので。でも、実際は本当にいろんな境遇の方がいるんだと知って驚きました。

 

最近、オンラインでファンの方とやりとりする機会があったのですが、50代のレズビアンの女性が「今は顔を出してこういった活動ができるけれど、私が若かったころは隠れて生活しなければならなかった」と苦労された経験を話してくださって。

 

今、私たちは普通に発信できるし、堂々と生きていられる。ときには批判もありますが、世の中の多様性が広がっていると感じています。

 

ぽっちさん:

私はみち子と付き合うまで男性としかお付き合いしたことがなくて。「LGBTQ」に否定的な感情はなかったけれど、正直よくわかっていませんでした。自分が当事者になってからも、同性カップルの数はすごく少ないんだろうなと思っていたし…。

 

YouTubeで発信しはじめたら、「私も同性のパートナーがいます」というコメントが思った以上に多く寄せられて、勇気をもらえましたね。同志がいるとポジティブに考えられるようになりました。

 

—— YouTubeでは、ふたりでみち子さんの実家へ行ったり、ぽっちさんの妹さんが登場したり、そのオープンな関係性に驚きました。おふたりの結婚について、家族はどんな反応を?

 

みち子さん:

付き合って1年ほど経ってから、両親と双子の姉に伝えました。家族の反応は「そうだと思ってた!」と(笑)。きちんと告白したことで、家族とざっくばらんに話しやすくなった面はあるかもしれません。

 

自分のセクシャリティのことは、学生時代は仲のいい友達にしか話さず、家族にも内緒にしていたんです。でも当時からさほど悩んではいなくて、自分が幸せでいられればいいやと。次第に“女の子好きキャラ”として周りに認知されたので、家族もなんとなくわかっていたと思います。

 

ぽっちさん:

みち子とはもともと同居していたし、仕事も一緒にしていて、親が家に遊びに来ることもあったので、うちの親は“すごく仲のいい人とは理解していたようです。

 

LINEで結婚したいと伝えたんですが、そのときも「仲良くね」という感じで(笑)。特に関係性も変わっていません。家族も察していたんでしょうね。

 

私たちの場合は、互いの親や兄弟がかなり理解のあるタイプですが、「はぴLIFEチャンネル」の視聴者には家族へのカミングアウトで悩んでいる方がとても多いです。その点は本当にありがたいですね。

 

ぽっちさんのお母さま、妹さんと4人で食事に出かけた際の1枚。和気あいあいとした様子に仲の良さがうかがえる。

働く時間も、収入も同じふたり。家での家事分担は?

——毎日の暮らしぶりについても聞かせてください。家計は基本的に折半とのことですが、家事はどう分担していますか?性差がないおふたりの家事分担の実情、気になります!

 

ぽっちさん:

確かに、男女の関係とは違うかも。家事の分担は特に決めていません。お互い自分でやりたい性格で、相手にやってもらいたいという期待が少ないのかな。世の中の旦那さんが奥さんに求めるほどの家事力を、みち子に求めたことはないですね(笑)。

 

みち子さん:

逆に、普通の奥さんほど「あれもこれもやらなきゃ!」という負担もないよね(笑)。「洗濯しないといけないから私がする」「じゃあ私はその間にご飯を作るね」みたいな感じです。料理に関しては、ポテトサラダはぽっちが作る、ステーキは私が焼くみたいな自然にできたルールもあったり。

 

どの家事も、どちらかが多く負担することはないので、そういう意味では対等かもしれません。お互いにできるときにできることをして、「やっておいてくれてありがとう」とお礼を言い合う感じです。

 

 

ぽっちさん:

結婚している友人から、「夫が帰ってくる前にご飯作らなきゃ」とか「家事があるから遊びに行けない」といった話を聞くことがあって。世の中の女性は夫のためにそんなにいろいろやらなきゃいけないのか…と感じます。

 

でも、私が男性と結婚したら、きっとそうなっていたと思うんです。過去に付き合っていた男性と結婚の話をしたことがあるのですが、「家事全部できる?」と聞かれて…正直重荷に感じました。

 

それまで私は実家暮らしだったので、「結婚したら家事を私が全部やるの?」とびっくりして(笑)。結婚ってそういうものなのかと思いつつ、それを受け入れようとしていた自分がいたのも事実です。

 

今はそういうストレスがなく、すごく気が楽です。男女にかかわらず、家事については平等で対等な社会になったらいいですよね。

 

みち子さん:

妻がバリバリ働いて、夫が家にいると、「ヒモ」と言われてしまったりしますよね。女性だったら専業主婦と呼ばれるのに、男性だと家事や育児を一生懸命やっても“ヒモ扱い”されてしまう。家族の形もいろいろあるから、そういう固定概念がなくなっていけばいいと思います。

 

 

——男女の夫婦でも、おふたりのような考え方を共有できたら夫婦喧嘩が減りそうです。最後に、今後の希望について教えてください。

 

ぽっちさん:

私たちは自分たちを「LGBTQ」のYouTuberだとは思っていないんです。家族YouTuberやカップルYouTuberのカテゴリの中の「はぴLIFEチャンネル」でありたいなと。

 

自分たちの生き方をネガティブには捉えていないし、むしろ悩む必要はないと思っています。好きな人と一緒に暮らしながら、いつか同性婚ができる制度を待つだけ。そんなに生きづらくもないし、世の中は多様化を受け入れてくれる社会に変わってくれていると、ポジティブに信じています。

 

みち子さん:

視聴者の方のなかには、既婚者で夫がいるけど実は女性が好きという人や、子どもが「LGBTQ」かもしれず、その思いを理解をしたいという親御さんもいます。表面上はわからないだけで、世の中には本当にいろんな思いを抱える人がいるんですよね。

 

私たちのことも「社会にはこういう夫婦もいて、普通に生きているんだ」と、家族の形の一例ととらえてもらえたら嬉しいですね。

 

 

特集TOPに戻る

 

取材・文/大野麻里