SNSで「スーパーでポテトサラダを買おうとしていた子ども連れのママに、通りすがりの高齢男性が”母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ”と言い放った。ママは凍り付いていた」という投稿が話題になりました。
読んだ人たちのコメントも、もちろんこの心ない言葉への怒りや反論がほとんどでしたが、実はこの話には日本社会の根深い問題が3つもひそんでいます。
それぞれ解説していきましょう。
問題点その1:家事の大変さを知らずに批判すること
まず、「ポテトサラダくらい」という発言に対し、この男性はおそらく自分ではポテトサラダを手作りしたことがないのでは?という推測をする人が続出しました。
一般的なポテトサラダを作る手順といえば、
- 1.じゃがいもを洗って皮をむく
- 2.蒸す、または水からゆでて水分をとばす(焦げないように鍋をゆすっておく)
- 3.熱いうちにつぶし、お酢やマスタードで下味をつける
- 4.あら熱をとる
- 5.きゅうりをスライスして塩もみし、水けをしぼる
- 6.ハムを細切りにする
- 7.玉ねぎをスライスして水にさらし、水けをしぼる
- 8.にんじんを細切りにして塩ゆでし、さまして水けをとる
- 9.じゃがいもと具材を混ぜ合わせ、塩・こしょう、マヨネーズなどで味付けする
ざっとこれだけの手間がかかり、冷ます時間やボウルなどの器具を洗う時間も含めると1時間は必要かもしれません。
上記を知っていれば「ポテトサラダくらい」とは簡単に言えないのではないでしょうか。
2019年の時点でも、夫婦の家事分担に関する調査では、出勤のない休日で比較しても以下のように男女で約4倍もの差が見られ、世界的にもギャップを問題視されています。
【休日に家事に費やす平均時間】
- 男性…66分
- 女性…284分
ましてや、いま高齢の人たちが子育てしてきた時代は「会社勤めの夫と専業主婦の妻」という家庭が主流だったため、実際に料理をしたことがない男性は多いかもしれません。
しかし、やったことがない家事や難易度がわからない家事を、安易に判断して他人に「やれ」と押しつけるのはおかしいのでは?と、多くの人が疑問を投げかけた形です。
問題点その2:母親の手間暇=愛情度という呪縛
海外と日本を比較したときによく言われることの1つに、「料理や家事に主婦がとても手間暇をかける」というものがあります。
もちろんそれ自体は素晴らしいことですが、「料理や離乳食は必ず手作り」「和洋中バランスよく」などが暗黙の強制になってしまっては本末転倒ではないでしょうか。
それが行き過ぎれば「手間暇をかけない=愛情がない」「母親失格」といったプレッシャーとなり、ママの生きにくさにつながります。
今の子育て世代ではまだ母親が専業主婦だった家庭が多く、当時は家電も発展途上で高価だったため、母親が家事に手間暇をかけざるを得なかったという背景がありました。
そのため、高齢者の世代はもちろん、夫だけでなく妻自身の中にさえ「母親は家事に手間暇をかけるもの」という価値観が無意識に刷り込まれていることがとても多いのです。
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この価値観に縛られて、女性が睡眠時間やゆとりの時間を削ったり、思うように家事が進まずイライラして子どもと楽しく過ごせなかったり、仕事を減らしてキャリアを断念したり…。
それが令和の時代にもいぜん大きな問題として存在しています。
問題点その3:反論できない相手を攻撃する社会
ここ数年、子連れの女性や妊婦さんに限定して嫌がらせしたり、攻撃的な言葉を投げたりする行為がたびたびニュースになっています。
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子連れのママや妊婦さんは、女性で一般的に力が弱いことに加え、子どもを守らなければならない立場。
男性相手とは違い、公共の場所で殴り合いのケンカなどに発展する可能性が低く「反撃してこない」と見なしてあえて攻撃対象にする人が一定数いるといわれます。
今回も、子どもを連れたママを「母親のくせに」「子どもがかわいそう」という論調で攻撃すれば、なかなか即座には言い返せないことが予想できます。
SNS上でも、
「そもそも赤の他人の買い物に上から口を出すことが失礼。平気でこんなことが言えるのは、女性や主婦を下に見ている証拠では」
「パパ相手だったらどうせ何も言えないだろうに、ママだから反撃されないと思ったのかな?卑怯だよね」
などの批判が集まりました。
この高齢男性がはたしてそうだったのかどうかは分かりませんが、ストレスのはけ口を自分より弱い(と見える)相手にぶつけるような行為は一刻も早く改めたいものです。
おわりに
SNSにこの投稿をした人は、その後、うつむいているそのママの前でお子さんと一緒にポテトサラダを2パック購入したそうです。きっと励ましの気持ちはしっかりと通じたのではないでしょうか。
また、コメント欄にはおそらく若い男性からと見られる
「自分たちの世代からはこういう男性を1人も出さないようにしたい」
という声もあり、多くの賛同が寄せられていました。
まだまだこういった出来事は続くかもしれませんが、こうして少しずつでも「母親」にかかる重圧が取り除かれていくことを願っています。
文/高谷みえこ
参考/「共同参画」2019年12月号 | 内閣府男女共同参画局 http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2019/201912/201912_04.html