勤め先の関係上、首都圏や大都市に住んでいる子育て世代のママやパパ。

 

「満員電車での通勤や保育園の激戦ぶりにうんざり。もっとのんびりした環境で子育てできたらな…」と考えてしまうことはありませんか?

 

実は近年、様々な理由から若い世代の地方移住希望者が増えているそうです。

 

今回は、地方移住を決断したファミリーに、きっかけやメリットデメリットを聞いてみました。子育て世代が利用できる支援制度も紹介します。

 

子育て世代が地方移住を考えるきっかけ

「NPOふるさと回帰支援センター」が毎年公開している利用者データによると、2008年からの12年間で地方移住についての問い合わせ件数は約20倍も増えているそう。

 

当初は定年でリタイアした後の「田舎暮らし」として地方移住を検討する40代以上の相談が大半で、20~30代の利用者はわずか16%だったのが、2019年には44.8%と半数近くまで伸びています。

 

その背景には、次のような要因があると考えられています。

 

価値観の変化

平成の長い不況の中で育った現在の若い世代は、高度成長期やバブル経済を経験した世代とは価値観が異なり、お金やモノよりも、自分の時間や気の合う仲間とのつながり、心の安定などを求める傾向があるといわれます。

 

連日の残業や接待をバリバリこなして都心に家を買う…といったハードな働き方は人気がなくなり、時間のゆとりを得られる地方で働くことの魅力が高まっているといえます。

 

人口過密による暮らしにくさ

首都圏では満員電車の長時間通勤を強いられる人が大多数。

 

また待機児童も多く保活は激戦で、ママが仕事復帰に苦労する状況も続いています。

 

人口の多い都会で暮らすメリットをデメリットが上回ったとき、人は地方移住を考えるのではないでしょうか。

 

社会情勢の変化

2008年、リーマンショックをきっかけに経済が悪化。首都圏での高い生活費が暮らしを圧迫しはじめたところに、2011年の東日本大震災(3.11)が起き、大都市での生活を見直す人が増えました。

 

そして2020年には、新型コロナウイルスの世界的流行により経済はさらなる打撃を受け、家計がますます苦しくなる人が増えると予想されます。

 

テレワーク・リモートワークが普及し、地方移住してリモートで働く可能性に気づく人も出てくるでしょう。

 

地方移住、子育てのメリットは多い

転職する・フルリモートで働くなど、仕事面の課題をクリアして移住を本格的に検討する場合、次に気になるのは子育てのことではないでしょうか。

 

東京から山梨県に移住し、一軒家を借りて4歳と2歳のお子さんを育てているHさん(37歳)ご夫婦に、移住して「ここが良かった!」という点を教えてもらいました。

 

「東京では幹線道路沿いのマンションの12階に住んでいたので、こっちに来てからあきらかに自然と触れあう機会が増えました。長男はもともと生き物に興味があったのか、喜んで虫取りやザリガニ釣りをしています」

 

「近所のお店に行くのに少し距離がありますが、自然と歩く距離も増え、体も強くなってきた気がします。下の子は少しぜんそく気味だったのですが、こっちに来てから空気もいいせいか、発作を起こしていないんですよ」

 

そのほか、山・森・畑や田んぼが身の回りにあるので四季の移り変わりを感じられる、食材が新鮮で安い、一戸建てが多いので階下への騒音を気にしなくてよいなどのメリットも。

 

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「環境がいいのは分かるけど、私も子どもも虫が苦手だし、スーパーや病院までバスで長時間というのはちょっと…」

 

という人もいるかと思いますが、実は「地方移住=田舎暮らし」とは限りません。

 

日本には人口20万人以上または10~20万人かつ人口密度200人/平方メートル以上の、いわゆる「地方都市」が170以上も存在します。

 

地方都市は病院や学校といった生活に必要な施設や経済圏がコンパクトにまとまっていて暮らしやすく、便利ながら東京とくらべて生活費が安いというメリットがあります。

 

大阪市内から中国地方の政令指定都市へ、第1子の妊娠中に夫婦で移住したSさん(32歳)は、

 

「赤ちゃんを育てながらでもほとんど不便を感じずに過ごせるのに、家賃は前の3分の2くらい。しかも保育園の待機がなく、求職中の状態でも預かってもらえるので安心して仕事を探せますし、2人目も考えています」

 

と地方移住のメリットを実感しているそうです。

 

地方で子育てをするデメリットはある?

いっぽう、地方移住で子育てに関するデメリットとしては、以下のようなものが考えられます。

 

地方移住で暮らしている人に対策もあわせて教えてもらいました。

 

学びの選択肢が少ない?

都市圏や人口の多い地域では、保育園・幼稚園から大学まで数多くの保育・教育機関がありますが、地方では選択肢が限られてしまうという声も聞きます。

 

これについて、近畿地方の山間部に移住して中学生と小学生のお子さんを育てているWさん(45歳)に話を聞いてみると、

 

「たしかに、小中一貫校や私立などの選択肢はないですが、私たち夫婦はもともと中学校までは公立で、高校からは本人の意志を尊重して決めようという方針だったので、大きく困っていることはないです。ただ人数が少ないだけに学校でトラブルになった時の逃げ場はないと思います。先生とのコミュニケーションを取り、何かあったらケアする体制は整えておかないといけないでしょうね」

公共交通機関がない・少ない

地方では、中心部以外は車社会でバスや電車の本数が少ないのは事実。

 

「小さい子は突然熱を出したりするので、通院のためにも車は絶対にあった方がいいです。私は東京にいるときは免許を持っていなかったのですが、移住が決まってから、週末に夫が子どもの世話をして私が教習所に通いました」(Yさん・36歳・5歳児と4歳児のママ)

 

人と人との関わりが濃厚すぎる

よく、UターンやIターンで憧れの田舎暮らしを始めたものの、

 

「玄関に鍵をかけたら近所から非難された」

 

「寄り合いやお酒の席に参加しないと村八分にされる」

 

など、濃厚すぎる人付き合いが負担になってけっきょくあきらめてしまったという話も見かけます。

 

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しかし、そういった地域もまだ存在するものの、少しずつ世代交代がすすみ、移住受け入れに積極的な自治体を中心に意識が変わってきているのも事実。

 

「うちの周りでは外で会えば必ず挨拶するしおしゃべりもしますが、プライバシーに踏み込んでくるような方はいないですね。すでに移住してきた人たちが点在しているのも理由かもしれません」(Nさん・30歳・6歳児と2歳児のママ)

 

子連れ地方移住の支援制度

少子化が進み、東京への人口一極集中と地方の人口減少を懸念した国は、2015年から「地方創生関係交付金」制度を実施。

 

その予算を利用して各自治体も移住の促進に力を入れ始め、2018年には39の道府県が専属の移住相談員を配置しました。

 

市町村独自の支援制度にはさまざまなものがあります。

 

  • 転入時の費用を助成(100万円など)
  • 移住して開業すると助成金(300万~500万円)
  • 出産助成金(50万円~100万円)
  • 保育料の減免
  • ひとり親世帯の医療費無料 など

 

上記は移住者向けではなく、もともと住民への福祉として行われている制度もありますが、気になる移住先にはどんな制度があるか確認しておくと、予想外のメリットが見つかるかもしれません。

 

おわりに

アフターコロナ・ウィズコロナの社会では、人の密集する都会からゆとりのある地方へと、ますます人々の関心が高まることが予想されます。

 

「いいなとは思うけど、現実にはちょっとね…」と今まで考えていた人も、この機会に一度、地方移住してみたらどんな暮らしになるかシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。

 

文/高谷みえこ

参考/内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地方移住ガイドブック」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/panf_iju.pdf

日本不動産学会誌/第32巻第2号「地方移住を巡る現状と移住者ニーズの変化」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares/32/2/32_91/_pdf/-char/ja

ふるさと回帰支援センター ニュースリリース「2019年の移住相談の傾向、移住希望地ランキング公開」https://www.furusatokaiki.net/wp/wp-content/uploads/2020/02/furusato_ranking2019.pdf

地方創生関係交付金 - まち・ひと・しごと創生本部 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/kouhukin/