アメリカをはじめとした海外諸国では歯並びのよさが非常に重視され、子どもが小さいうちに歯列矯正させる親が圧倒的多数ですが、日本ではまだまだ一般的とまでは言えません。
しかし、技術が進歩したこともあり、小学校入学前後から歯列矯正を始める家庭も以前よりは増えている印象です。
そこで今回は、実際にお子さんの歯列矯正をしているママたちに、必要だと判断した理由やきっかけ・気になる費用などについて話を聞いてみました。
子どもの歯列矯正…必要性はある?
歯列矯正と聞くと、「痛い」「高額な費用」「歯に金属の器具をつけるので、見た目をからかわれる」といったマイナスのイメージが浮かぶ人も多いのではないでしょうか。
子どもに負担をかけてまで小さい時期から行う必要性はあるのか、実際にお子さんの歯列矯正を行っているママの体験談もまじえて考えてみたいと思います。
そもそも、なぜ歯並びが悪くなるのか
あるアンケート調査によれば、日本人で歯列矯正が必要な人…つまり生まれつき歯並びがよくない人は約50~60%にも上るそうです。
歯並びが悪くなる原因はいくつかあり、複数重なっていることも。
- 生まれつきの骨格であごの幅が狭く、すべての歯がきれいに並ぶスペースがないため、歯と歯が重なったり前後に押し出されたりして生える
- あごの骨のかみ合わせ(咬合)に異常があり、前歯が前面に出てしまったり、奥歯が上下正しく対応していない
- 指しゃぶりや虫歯を放置したために、乳歯や永久歯が本来の向き・位置に伸びられない
なかでも、かみ合わせに問題がある場合は小さいうちからの治療が必要だと言われています。
「娘は1歳半検診で受け口になっていると指摘が。少しだけ様子を見ていたのですが、受け口は成長すると治療が困難になりやすく、歯や歯茎を傷つけることもあるので、早めに開始した方がいいとすすめられて決めました」(Nさん・30歳・2歳児のママ)
歯列矯正を小さいうちに始めるメリット
あごの幅が狭く、歯が重なってしまっているケースの歯列矯正では、大人は多くの場合で歯を何本か抜いてスペースを作ります。
しかし子どもは成長とともにあごの骨が動き、形が変わっていくので、その時期に合わせて上下のあごの骨のバランスや位置を調整し歯が生えてくる土台を作っておけば、成長後も歯を抜かずに治療できる可能性が高まります。
また治療の過程で、指しゃぶりや口呼吸などよくない習慣が改善されたり、埋伏歯や欠損などを見つけて対策したり、定期的なチェックで虫歯や歯周病予防につながるなど、副次的なメリットもあります。
子どもの歯列矯正にかかる費用
海外のおもに先進国では、歯並びが悪いと経済力や自己管理能力に欠けると見られ就職や結婚などに影響する国が多くあります。
そのためアメリカでは赤ちゃんが生まれると将来の歯列矯正費用に備え、積立保険に入る人も。
またイギリスやフランス、オーストラリアなど、国や自治体が治療費の一部を負担し、日本の半額程度で治療が受けられる国もあります。
しかし日本では、歯列矯正は、あごや口腔に影響のある先天性疾患や「顎変形症(がくへんけいしょう)」などをのぞいては自由診療となり健康保険は適用されません。
自由診療は国が価格を決めることはできずクリニックによって歯列矯正にかかる費用は色々ですが、総額で100万円を超えることも珍しくなく、家計の大きな負担となりがちです。
日本人で歯列矯正が必要と思われる人は60%を超えているのに、実際に治療を受けた人は20%程度…というアンケート結果もあり、高額な治療費はその一因と考えられます。
ママたちに聞く「いくらかかった?」
子どもの歯列矯正は大きく次の3つまたは2つの時期に分けられます。
- 「乳歯列期」「混合歯列期」「永久歯列期」
- 「一期治療(乳歯~混合歯列期)」と「二期治療(永久歯列期)」
ママたちに相場を聞いてみると、
「1期のみで終わったので25万円で済みました」
「1期で35万円、2期がはじまるまでの定期検診が5000円、2期は様子を見ながら60万円くらいになりそうです」
「いま途中ですが、トータルで80万円前後といわれています」
「けっきょく120万円かかりました」
などかなり幅があることが分かります。
その子の性格によっても、歯列矯正にかかる期間や成功率は変わってくるといいます。
お子さんが2人とも歯列矯正治療をしたKさん(40歳)は、
「長男は、乳歯が数本抜けた時点で永久歯の生えてくるスペースが足りないのが見て取れると言われ、あごを広くする治療を開始しました。さいわいそれだけでうまく永久歯が重ならずに生えそろったので終了。次男も同様だったのですが、マウスピースを嫌がって夜寝ている間に吐き出してしまい、なかなか成果が出ません…」
と話します。
クリニック選びで費用が変わる
子どもの歯列矯正は段階があるため、通算して価格を決めるクリニックもあります。
「3歳健診で受け口になっていると指摘されて、小児矯正に通うことに。治療は幼児期向けと成長後の2段階あって、同じ歯科でお願いすれば1回目の費用分を2回目から割り引いてもらえるんです。虫歯の発見(虫歯治療は別医院ですが)など、総合的にお願いできてスムーズなので良かったと思っています」(Fさん・35歳・5歳児のママ)
という声も。
ただ、治療中に転勤などで引っ越したり、途中でクリニックをかわったりすると割引が効かず全額を支払わなくてはならない場合もあるので、ずっと1つのクリニックに通えるのかも考えあわせて決めると良いですね。
初回の相談は無料または3000~5000円程度で受けられることがほとんど。
子どもとの相性や通いやすさなども確認できるので、いくつかクリニックの候補があるなら相談してから決めるのも良い方法です。
なお、歯列矯正には基本的に健康保険は適用されませんが、健全な発育のためにかみ合わせの矯正が必要であると診断された場合は、確定申告の「医療費控除」の対象になり、所得税が一部戻ってくる可能性があります。
歯列矯正の治療費だけでなく、通院の交通費なども合わせて年間10万円以上かかった場合に申請できますので、領収書はまとめて保管しておきましょう。
おわりに
世界的には美しい歯並びが重視されている国が多い一方で、近年は「人を見た目だけで判断すること」の是非も問われるようになってきています。
かみ合わせや歯並びのせいで健康を害するような場合はもちろん治療が必要ですが、経済的な理由や発達障害の影響で治療が難しいお子さんもいます。
治療をするにせよ見送るにせよ、その理由をしっかり子どもに伝えられるよう、親自身の考え方をしっかりと持っておきたいですね。
文/高谷みえこ
参考/日本矯正歯科学会|「厚生労働大臣が定める疾患」と保険適用の矯正歯科治療について http://www.jos.gr.jp/facility/file/start_treatment.pdf