スマートフォンの普及にともない、誰もが手元にある小さな機器でインターネットを利用できるようになりました。

 

疑問があったら世界中から発信されている情報を検索することができ、地図や天気、路線もアプリで調べられます。SNSでは遠く離れた友人とリアルタイムでやり取りできます。あまりに生活に密着しているため、もはや「いま私はネットを使っている」と意識することなく利用しているのではないでしょうか。

 

しかし、インターネットには危ない側面もあります。自分が世界中の情報に触れられるということは、自分の情報も世界に流出しかねないということ。そして、普段なら出会わないような危ない人物や情報に遭遇したり、ネット決済によるミスを起こしたりする可能性もあります。

 

そこで注目されているのが「ネットリテラシー」です。インターネットが常に身近にある世界で、親はどう子どもを守っていけばいいのでしょうか。インターネット利用者が低年齢化しているからこそ、親子できちんと向き合いたい問題です。

 

そもそもネットリテラシーって何?

ネットリテラシーとは、インターネットにおけるリテラシー(適切に理解し、活用する能力)のこと。「情報モラル」と表現されることもあり、インターネットでの正しい振る舞い方を表す言葉です。

 

ネットリテラシーは、スマホやパソコンでネットを利用する人たちすべてが身につけるべき力です。大人だけでなく、親のスマホやパソコンでネットを利用する子どもたちにも必要です。

 

特に物心ついたときからインターネットが身近にある子どもたちは、ネットリテラシーがないままネットに触れることが多く、トラブルに巻き込まれがちです。

 

子どもがネットトラブルに巻き込まれるのは、自分のスマホを持ったときからと言われていますが、子どもがスマホを持ち始める年齢はどんどん低年齢化してきています。お子さんのスマホデビューは想像しているより早いかもしれません。子どもが自分のスマホを持つときのために、今から少しずつ「ネットリテラシー」を学ばせましょう。

 

ネットリテラシーが低いとどんな問題が?

そうはいっても、ネットトラブルに合ったことがない人はどんなことが起きるのか、想像することが難しいですよね。ネットリテラシーが低いと起きるトラブルには大きくわけて以下の5つのポイントがあります。

 

  1. 1.SNSトラブルの加害者被害者になってしまう
  2. 2.知らない人と不用意につながってしまう
  3. 3.過激な情報を求めてしまう
  4. 4.個人情報を流出させてしまう
  5. 5.情報の正しさを判断できない 

 

ネットリテラシーを身につけることの重要性を知るために、まずは5つのポイントに沿ってネットトラブルの事例を紹介していきます。

 

1.SNSトラブルの加害者被害者になってしまう

スマホの普及に伴って、LINEやTwitter、InstagramなどのSNSを利用する人が増えました。平成29年版情報通信白書(総務省)によると、LINEやFacebookなどのSNSのいずれかを利用している人は全体で71.2%ですが、20代、30代では90%以上と高い数値になっています。これは2016年での調査なので、現在はもっと増加しているはずです。

 

スマホを持つほとんどの人がSNSを利用するようになり、連絡もSNSで行うことが自然になりました。SNSで繋がっているからお互いの電話番号を知らないという人も多いでしょう。しかし、これだけ生活に定着していても、SNSならではのトラブルがあとを絶ちません。

 

最近はLINEだけでなく、InstagramやTwitterのDM(ダイレクトメッセージ)で連絡を取る人も増えました。短い文章をやり取りすることで生まれる誤解もあります。A子さんが「どっちがいい?」と尋ねた返答にB子さんが「なんでもいいよ」と送った場合、B子さんはA子さんの好きな方に合わせるという意味だったのに、A子さんは「どうでもいいってこと?」と苛立ってしまうといったケースです。文字では相手の表情や言葉の抑揚が掴めないため、こうしたトラブルが起きがちです。

 

子どもたちは感情を抑えられないため、メッセージで起きたトラブルをSNSに投稿してしまいます。会話のスクリーンショットをInstagramに投稿し、「この人にこんなことを言われた」と本人以外に公開するのです。発言した本人はそんな意図ではなかったのに、スクリーンショットを都合良く切り取られてしまえば、言い返すこともできません。

 

SNSは、それが消せないものであることを理解した上で、「嫌な気持ちになる人がいないか」を常に考えて発信するよう習慣づけたいものです。

 

2.知らない人と不用意につながってしまう

SNSは、知らない人と出会う危険性もあります。2019年11月、大阪に住む小学6年生女児が誘拐され、栃木県で保護されるという事件がありました。女児と犯人の30代男はTwitterかオンラインゲームで知り合ったと言われています。しかも、その家にはもう一人、行方不明の女子中学生がいたのです。

 

知らない人に会いに行くなんて、大人は驚きますね。でもSNSで何度もメッセージを交わしていれば、その人は子どもにとって「知り合い」になってしまいます。しかも自分の周囲には、親や友人の親、学校の先生など、良い大人しかいません。ネット越しに知り合った人が悪い人だと想像していないのです。

 

また、自分の裸画像を知らない人に送ってしまう子どももたくさんいます。「自画撮り被害」と呼ばれるこの被害は、警察庁が発表した「平成30年における子供の性被害の状況」によると、児童ポルノ事件の約4割を占めています。東京都青少年・治安対策本部によると、女性のふりをした男性に「体の悩みの相談にのるから」と裸画像を送るように言われた、「裸を見せないと殺すよ」と脅迫されたといった事例があるそうです。

 

デジタルアーツが2018年3月に発表した「未成年の携帯電話・スマートフォン利用実態調査」によると、小学校4年生から高校生までの子どものうち、ネットで知り合った友達と実際に会ってみたい、または会ったことがある人は50.4%もいるのです。

 

SNSで見つけた「闇バイト」募集に応募し、特殊詐欺の受け子として逮捕された高校生もいます。ネットは世界を広げてくれるとても便利な道具ですが、犯罪に巻き込まれる可能性が増えたともいえます。

 

相手のことがよくわからないうちは、「ネットで知り合った人には会いに行かない」というリテラシーを身につけることが先決です。

 

3.過激な情報を求めてしまう

2019年初めにネットに踊った「バカスタグラム」をご存じでしょうか。

 

「バイトテロ」とも呼ばれるこの行為は、アルバイト中の学生たちが店舗で不衛生なことをしている様子をSNSにアップすることを指します。2013年にはコンビニのアイスクリームを入れるケースに入ったり、そば屋の厨房で洗浄機に入ったりする様子を写真に撮り、Twitterに投稿する「バカッター」が話題になりました。

 

時代とともに、その様子を動画で撮影してInstagramに投稿するように変化したのです。

 

こうした不適切動画は、舞台となった店舗にとっては大問題です。バカスタグラムが行われた回転寿司チェーンは、当事者への対応含め法的に厳粛な対応を進めると公式サイトで発表しました。また、股間に調理器具をあてるなどした様子を投稿された牛丼チェーンでは、その従業員二人を退職処分にしています。

 

過激な情報は反響が大きく、エスカレートしがちです。子どもには社会的道徳的観念をしっかり教えることが、ネットリテラシーの観点からも改めて必要です。

 

4.個人情報を流出してしまう

個人情報の流出は“意図せず”の場合がほとんどです。またその多くはSNSがきっかけとなっています。

 

子どもたちのSNSは実生活と密着しているため、校内での様子をSNSに公開することは日常茶飯事です。

 

身内だけのおふざけのつもりでも、他人から見ればいじめにあたるため、ネットに公開したことで炎上した事例がありました。

 

2018年1月に起きたとある高校での話です。女子生徒が男子生徒の顔に生理用品を貼り付けてからかい、その様子をInstagramのストーリーズで公開したのです。動画を見た友人がそれを保存してTwitterに投稿、TwitterユーザーがYouTubeへ転載、という流れであっという間に拡散していきました。こうして、学校名や女子生徒の本名が特定されて「まとめサイト」に載せられ、消すことができなくなってしまいました。

 

先ほどのバイトテロといい、なぜわざわざいたずらを投稿するのかと大人は不思議に感じるかもしれません。それは、彼らのSNSが知り合いしか繋がっていないため、仲間うちしか見ていないように錯覚してしまうためと考えられます。しかし実際は、世界中の誰もが見られるネットにその情報はあります。公開範囲を閉じていても、いつ流出してもおかしくないのです。

 

グループ内であっても、デリケートな内容はネットに載せないことが大切です。

 

5.情報の正しさを判断できない

ネットには誰でも情報が発信できるため、正しい情報が載っているとは限りません。特に災害が起きたときなど、人々が不安になったときこそ、デマやフェイクニュースが流れます。

  

新型コロナウイルスに関しては、「新型コロナウイルスは摂氏26~27度の温度で死滅するのでお湯を飲むとよい」「4月1日からロックダウン(都市封鎖)になる」などのデマが流れました。また、病院関係者を名乗る「現場では医療崩壊のシナリオも想定されている」と記載された注意喚起も、LINEのメッセージを中心に拡散されました。読者の皆さんにも受け取った人がいるのではないでしょうか。

 

こうしたデマやフェイクニュースは、悪意を持って流されると考えがちですが、実際には知り合いから善意で拡散されてくることが多いのです。間違った情報でも、知り合いからメッセージされると正しいと勘違いしてしまいますよね。しかし、ここできちんと判断して、拡散する側にならないようにしなければなりません。

 

また、ネット検索の上位に表示されるWebサイトも、個人が広告収入目当てで作成していたり、偏った知識を持つ人の意見だったりと、正しい情報とは限りません。こうした情報の精査は大人でも難しいため、子どもと一緒に正しい情報なのかを判断するようにしましょう。

 

その際には、サイト名や著者名のチェック、複数のサイトでの情報確認を判断材料にします。SNSにまん延するデマに関しては、数日経つと真偽がわかることが多いので、反射的なシェアは避けておいた方が無難です。

 

ネットリテラシーが低いと起こるトラブルを具体的に見てきました。次回は、子どもがスマホデビューする際に必要な対策について解説します。

 

特集TOPに戻る

 

文/鈴木朋子

参考/総務省「平成29年版情報通信白書」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc111130.html

警察庁「平成30年における子供の性被害の状況」https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/no_cp/newsrelease/kodomonoseihigaih30.pdf

デジタルアーツ「未成年の携帯電話・スマートフォン利用実態調査/2018年3月」https://www.daj.jp/company/release/2018/0307_01/