日本人と外国籍を持つパートナーとの「国際結婚」。
2006年をピークに国際結婚の件数は減ってきており、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響で国と国との人の移動が制限されたことで、今後ますます減少するのではないかとみられています。
しかしそんな中でも出産・育児している国際結婚カップルも国内外にたくさんいます。
今回は、彼らが国際結婚ならではの悩みや課題をどのように解決しているのかを追ってみました。
国際結婚カップル、家事育児の分担は?
2017年のデータによると、日本の6歳未満の子供がいる家庭の男性(夫)の家事育児時間は平均で1時間23分。
女性の7時間344分と比べておよそ5倍もの差があり、先進国中で最低の水準です。
国際結婚で夫の国籍としてもっとも多いのは「韓国」ですが、日本の夫の家事分担率が約18%なのに対し、韓国では約26%と多いことが分かります。
次に結婚相手として多い「米国」でも、夫の家事分担率は37.1%。
分担率の高い北欧スウェーデンでは47%と、ほぼ半々の割合で夫婦が家事育児を行っていることが分かります。
ただ、アメリカから日本に赴任してきた男性と結婚した妻からは「共働きなのに、休みの日は私に家事を任せてゴロゴロしている」とまるで日本の家庭かと思うような不満も聞かれます。
たまたまそういうタイプの男性だったのかもしれませんが、日本社会の「男性は長時間労働が評価され、家事育児に関わる時間が取れない」といった働き方や周囲の家庭のようすを見聞きするうち、いつのまにかジェンダーバイアス(男女の役割を固定する見方)に影響されている可能性もあります。
もちろんそうならないためにしっかりと分担を話し合うカップルも多く、中には「契約書を交わす」などの方法をとっている人もいます。
子どものアイデンティティをどうとらえる
国際結婚カップルの子どもは両親どちらかの国に住むことが多いですが、両親が同じ国出身の家庭と比べると、やはり見た目や生活習慣などで周囲の子どもとの違いを感じることもあります。
子どもは言葉さえ通じれば、出身国に関わらず気の合う子同士すぐに仲良くなることがほとんどですが、居住地によっては周囲の大人が差別的な扱いをすることも。
日本人の母親を持ちアメリカで育ったFさん(30歳)の子ども時代の体験です。
「アメリカの学校で友達から嫌な思いをさせられたことはありませんが、クラスの担任が授業中に日本人に偏見を持った内容を教えたことはありました。日本でも、夏休みにおばあちゃんの家に帰省したとき、町中で知らない大人に物珍しそうにジロジロ見られたりすることは頻繁にありました」
Fさんは現在、アメリカ人の夫と結婚して3歳のお子さんを育てていますが、
「息子には、アメリカと日本両方の文化や気質のよさを伝え、コンプレックスを抱かないよう、自分のアイデンティティに誇りを持つように育てていきたいです」
と話します。
離婚したときの子供への影響
日本では、小さい子のいる夫婦が離婚した場合、ほとんどのケースでは母親と子どもが暮らすことが優先されます。
しかし、国際結婚して海外で暮らしているカップルの多くは、離婚後は共同親権が原則。
日本人のママが子どもを連れて実家(日本)に帰りたい…と思っても、元夫が許可しない限り連れて行くことは許されないと国際的に法で定められています。
これを「ハーグ条約」といい、日本も2014年から加盟。2019年10月現在で世界101か国がこのハーグ条約を締結しています。
一時帰国をよそおって子どもを連れて帰国したものの、その後法によって強制的に連れ戻されることもあり、子どもと引き離されるのを恐れてやむをえず離婚を踏みとどまったり、条件の悪い仕事についたまま現地で暮らすシングルマザーも少なくないといわれています。
また、法律上は離婚が成立し帰国できた場合でも、子どもの年齢によっては突然の環境変化になじめず元いた国に戻るケースもあるそう。
日本国内でも離婚時に父母どちらが引き取るかでトラブルになることはもちろんありますが、国際結婚で海外在住の場合、離婚時には相当の覚悟が必要といえるでしょう。
子供の言語・教育について
国際結婚カップルの子どもは、両親の母国語でそれぞれが話しかけたり、両親の共通言語、居住地域の言語など、さまざまな環境で育つため、2か国語(バイリンガル)はもちろん、3カ国語(トライリンガル)以上の子も珍しくありません。
ただ母国語以外の言語をどの程度使えるようになるかは、小さい頃の環境や教育によってかなり違ってきます。
日本在住の場合
日本に住んでいる国際結婚カップルの子どもが、最寄りの公立学校に通う以外の選択肢としては、「インターナショナルスクール」を思い浮かべる人が多いと思います。
幼稚園のような位置づけの「プリスクール」から、高校まで一貫教育のスクールまで色々ですが、おもに英語で運営や授業が行われています。
ただ、インターナショナルスクールは基本的に両親の仕事の都合などで一時的に日本に滞在している子どもたちを受け入れるための施設であり、カリキュラムに日本の学校指導要領は反映されていません。
そのため、幼児期から高校までインターナショナルスクールに通った子は、漢字・日本文学や古典・歴史など日本固有の文化を学べないまま成長してしまう可能性があり、会話や価値観なども英語中心になる傾向が。
最終的に日本での就職を考えるならそれらのリスクも考慮する必要があります。
海外居住の子どもの日本語はどう学ぶ?
反対に、海外でその国に永住する可能性が高い場合、子どもの日本語学習をどこまでフォローしていくかも考えなくてはなりません。
多くの海外の国では、国際結婚カップルの子どもは現地の学校に通いつつ、補助的に「日本語補習校」などと呼ばれるスクールに通うかどうかを選択します。
判断基準はさまざまですが、通わせている家庭ではおもに次のような点を考慮して決めるようです。
「うちは家庭では母子が日本語で話しているので、このままでも日常会話はできると思います。ただ、日本語は欧米の各国言語とは根本的に違うので、本人が自主的に読み書きを修得したいと思ってからでは間に合わないと思い、通わせています」
「算数や数学は、日本と海外で解法や考え方が違うので、両方を身につけておけば、大学受験などにも有利だと聞いています」
いっぽう、スクールに通わない選択をする家庭では、
「通える範囲にある補習校は、短期赴任の帰国後に中学受験をする子がメイン対象だったので、うちとは事情が違い。少し通いましたがやめてしまいました」
「講師の質が大学生のバイトのような感じでいまひとつ…家庭で日本の図鑑や本を見せたり手紙を書いたり、比較的アカデミックな環境ならば事足りると思います」
「現地校と補習校、両方の課題をこなしていくのは大変。そこまで時間をかけるなら、現地校での友達と過ごす時間やスポーツを優先したい、と子ども本人が希望することもあります」
「日本のマンガや本・アニメなどはクオリティが高いうえ、日本で使われているリアルな日本語と近いので、この先日本の学校に通う時にも役立ちそう。オンラインでの日本語学習もいまは選択肢が豊富なので、それらで代用していくつもりです」
日本語のスクールに通うにしても通わないにしても、「どこまで日本語に習熟するか」「家族の時間をどのくらい持つか」など、両親で意見をすり合わせておくことが重要ですね。
おわりに
国際結婚カップルのもとに生まれた子どもは、単純に考えて2倍の文化・言語を学びつつ成長していくことになります。両方を極めるのは大変ですし、注げる時間にも限りがありますよね。
それでもママ・パパたちの工夫や、本人が努力した結果、豊かなバックグラウンドが身につくため、最近では「ハーフ」ではなく「ダブル」と呼ぶ人が増えています。
国際結婚カップルの育児は、そうでない人から見ても参考になる点がたくさんあると思います。ぜひ参考にして下さいね。
文/高谷みえこ
参考/厚生労働省「平成30年 日本における外国人の人口動態」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/dl/12_betu.pdf
内閣府 男女共同参画局「平成28年社会生活基本調査」の結果から~男性の育児・家事関連時間~http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_42/pdf/s1-2.pdf
ハーグ条約と国内実施法の概要|外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000843.html