2020年5月25日、全国で緊急事態宣言がいったん解除されたのに合わせて、各地で休校していた多くの小・中・高校が「分散登校」という形で再開されはじめました。

 

地域ごとに感染者数などが異なる中、それぞれの学校ではどんな対策を取っているのか、今までにないこの取り組みでどのような点が心配されているのか…そして、同じ学校に通う子どもの保護者同士でも話しづらいホンネを、実際に分散登校しているお子さんのママたちに聞かせてもらいました。

 

各学校ではどんな対策をとっている?

ひとことで「分散登校」といっても、午前と午後・一日おき・週1回など登校パターンは学校によっていろいろ。

 

奇数クラスと偶数クラスで分かれるケース、1クラスを出席番号で半分に分けるケースもあります。

 

例えば、大阪府寝屋川市では1クラスあたりの人数を20人以下として日を分けて登校としたうえで、登校を希望しない子どもにも次のような「選択登校制」を用意しています。

 

【選択登校制について】 本市では、自覚症状等による欠席だけでなく、保護者の判断による欠席についても、欠席扱いとしません。登校するか、自宅での学習とするかを選択することができます。 欠席した場合も、インターネット授業動画の視聴や学校から配布の学習課題とともに、個々の学習の進度に遅れが出ないよう、進捗状況等について、引き続き電話連絡により、きめ細やかな対策を実施してまいります

 

ただ、3月上旬に一斉休校が始まってから3ヶ月が経とうとしているのに、オンライン授業の対応はいまだに自治体・学校によってバラバラ。

 

「登校かオンラインか」が選べるのは一部にとどまっています。

 

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いっぽう、感染対策としては、埼玉県鶴ヶ島市では次のような対策を発表しています。

 

 飛沫拡散防止パネルの使用  マスクの着用  フェイスシールドの使用  非接触体温計の使用  ハンドソープの使用 など

 

ただ、全国では、集団でうがいをさせる、鉛筆を消毒せずに共用させる…など感染が本当に防げるのかと指摘される学校も見られました。

 

「分散登校」こんなことが心配です

5月末から6月上旬にかけて分散登校がスタートした子どもたちのママに、気になっていることをたずねてみました。

 

子ども自身の不安

Sさん(33歳・小学2年生のママ)は、久しぶりの登校前日にこんな出来事があったそうです。

 

「テレビをよくつけていた私も悪いのですが、不安をあおるような報道を見すぎたせいか、すっかり外が怖くなってしまった息子。登校の前日になって、行きたいけどコロナが怖いといって泣きだしました。結局、1日登校してみたら友達や先生の顔を見て安心したのか、今は平気ですが…はっきりした安全・危険の基準が分からないので、こんなとき、どう子どもに話せばいいのか」

 

また、中学校の新1年生のお子さんがいるMさん(40歳)はこう話します。

 

「毎年、中学校1年生では、小学校時代に仲の良かった子を数人ずつ同じクラスに振り分けてくれます。娘は人見知りの強い子なので助かると思っていたら、分散登校で運悪く仲良しの子と出席番号で分かれてしまい…知っている子がいないと不安がっています」

 

登下校中の安全

分散登校では、午前午後それぞれの登下校が時間差で続くため、交通事故や不審者への警戒も強まっています。

 

「長女がこの春から高校に電車通学です。ほぼ初めての登校、満員電車での通学が心配なのでかなり早い時間に家を出なくてはなりません」(Kさん・42歳)

 

またこれからの季節は熱中症にも注意が必要。

 

暑い時期は、マスクによって顔周辺の温度が上がったり喉の渇きに気づきにくくなったりします。

 

厚生労働省の通知によると、暑くなれば通学中マスクを外してよいとされていますが、まだ周知しきれずマスクをつけて通学させている地域もあるといいます。

 

「接触冷感素材のマスクを買いましたが、果たしてどこまで暑さ対策になるのか…かといって、マスクを外して友達と登下校すればおしゃべりで飛沫が飛びそうですよね」(Nさん・39歳・3年生のママ)

 

愛知県のある小学校では、登下校でマスクをつけないかわりに、晴れた日でも傘をさして登校すると決めたそうです。

 

一定以上の距離を保てるうえ直射日光を遮る日傘効果もありそうですね。

 

感染そのもの+周囲の反応も心配

「九州の小学校でクラスター感染が発生したとニュースを見ました。さいわいどの子も無症状ということなのでよかったですが…わが子も、無症状でも感染したことが分かれば、クラスや名前を特定されたり嫌がらせの対象になったりしないかが心配です」(Uさん・38歳・小学5年生のママ)

 

先生の負担増をどうする

登校を再開するにあたり、各学校にはいくつもの感染対策が伝えられているとのこと。

 

机や椅子・道具類の消毒、給食の配膳、トイレ掃除など、ウイルスに触れてしまう可能性がある作業は子どもにさせないように決まったそうですが、それを実行するための予算不足・人員不足も問題となっています。

 

小学校6年生のお子さんがいるFさん(38歳)も、

 

「消毒まですべて先生たちに任せるのは、午前午後と慌ただしいスケジュールのなか、休校で遅れている学習を進め、登校を希望しない子へのフォローも行っている先生たちに負担が大きすぎると思います…回り回って子どもにも悪影響では?」

 

と心配しています。

 

現在は、消毒やトイレ掃除などを民間業者に委託したり、給食時のサポート係を臨時で雇用するなどの調整が進められている地域も増えていますが、まだ十分ではないようです。

 

「率直に助かる」というママを責められない理由

そして、実は、感染はもちろん心配だけど、正直「助かる」「もう限界だった」とホッとするママもたくさんいます。

 

「はっきりいって、私が倒れる一歩手前でした」

 

というのは、小学校3年生と1年生・2歳の3人のお子さんを休校中自宅で見ながらリモートワークも行っていたJさん(37歳)。

 

「職場とのやりとりの合間に、3食作って食べさせて片付けて、上2人の課題も見て教えて、分からないやりたくないというのをなだめ、掃除洗濯しながらケンカの仲裁。一番下の子はとにかく外に出たい盛りで、だましだまし相手して、仕事してまたケンカの仲裁。夫は大きなスーパーで働いているので、いつもより帰りが遅く忙しい…全員寝かしつけて、残った仕事を片付けていたら毎日寝るのは2時頃でした」

 

実際、筆者の知人でも、在宅で仕事をしながら休校休園のお子さんたちをみていたママが何人も体調を崩しています。

 

Wさん(40歳・小学校5年生と4年生のママ)も、休校中の育児と仕事の両立ストレスでそうとう疲弊しており、

 

「正直、分散登校で少しでも学校に行けるようになって、私の精神がやっと保たれたと思っています」

 

と言いますが、小学校のママ友にはなかなかその本音は言えないそう。

 

「みんな怖いからずっと休校がいい、行かせたくないという人ばかりなので…」

 

共働きが半分を超えるにもかかわらず、男性は子どもが小さくても残業が当たり前で、女性は家事育児の大部分を担当する…という日本社会の構造。

 

今回の休校でもそれがひずみを生んでおり、お子さんの人数や年齢・働き方などにより、限界を超えて動かざるを得ない人、特にママがたくさん出てしまったと考えられます。

 

おわりに

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、今はいろいろな立場の人たちが負担を強いられている時とはいえ、「母親」にかかっている負担は本当に大きいもの。

 

「分散登校、率直にいって助かる!」というホンネはもっともではないでしょうか。

 

ママたちに過剰な負担をかけることなく子どもたちの安全や学びを守れるよう、学校や授業のありかた、男性も含めた働き方などを、社会全体で見直していく機会にしたいですね。

 

文/高谷みえこ

参考/文部科学省「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について」 https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html

寝屋川市「選択登校制による学校再開について https://www.city.neyagawa.osaka.jp/topics/1590137770030.html

毎日新聞|登下校中のマスク、文科省「暑い日はむしろ危険」児童間距離確保に「傘」利用も https://mainichi.jp/articles/20200528/k00/00m/040/238000c