2020年、新型コロナウイルス感染症による行動自粛の影響で多くの店舗が閉店や休業・規模縮小をやむなくされました。
そしてこれらのお店や企業でアルバイトとして働く学生たちもまた、収入が途絶え、学費以外に下宿の家賃など生活費が払えなくなるという状況が起こりはじめています。
そこで5月19日、文部科学省は「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』制度を創設すると発表しました。
今回は、この給金は誰がどのように受け取れるのか、大学生をはじめとした学生には年間どのくらいのお金が必要なのかなど、データをもとに解説します。
緊急給付の対象・金額・給付までの流れ
今回発表された緊急給付は”「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』”といい、以下の文部科学省のホームページに概要の説明があります。
文部科学省ホームページ 「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』
5月20日時点では、学生向けの手続きの説明や「よくある質問」は近日公開予定とのこと。
給付金の対象は?
給付金を申請できるのは、以下の学校に在籍する学生となります。
- 国公私立大学(大学院・留学生を含む)
- 短期大学
- 高専(高等専門学校)
- 専門学校(日本語学校を含む)
さらに、以下の条件にあてはまる学生が対象ということです。
家庭から自立してアルバイト収入により学費等を賄っている学生等で、今回の 新型コロナウイルス感染症拡大による影響で当該アルバイト収入が大幅に減 少し、大学等での修学の継続が困難になっているもの
これをみると、「家庭から自立して」とあります。
「自立」とは、実家を離れて一人暮らししている学生を指すのか、実家にいても生活費を全額または一部負担している学生も含まれるのか…明記されていませんが、おおむね下宿の学生を指すとみられています。
また、「アルバイト収入により学費等を賄っている」についても、生活費は親が全額仕送りしていて学費を本人が払っているケースや、学費は親が払い生活費をアルバイトで稼いでいるケースなど、どのように分けて認定するのかも明記されていません。
5月19日の会見で文科相は、
「国として対象について一定の要件は示すものの、最終的には一番身近で学生等を見ている大学等が実情に沿って総合的に判断」
と話しており、厳密な審査よりもスピードを重視する方針のようです。
ただ、一部の大学で学生に配布された資料には「下宿でも学費や生活費を親に援助してもらっている場合は対象外」「一定以上の出席と成績をおさめている学生に限る」などの記載が。
やはり学校ごとに基準があり、申請すれば誰にでも給付されるわけではないようです。
金額はいくら?
今回の給付金は、上記に当てはまる学生約43万人を想定し、計530億円が予定されています。
給付金額は住民税非課税世帯の学生には20万円、それ以外の学生には10万円です。
給付の流れ
この給付金は基本的に保護者ではなく学生自身が申請する形となっています。
学生が大学等に書類で申請すると、学校側が審査して該当する学生をリストにし、日本学生支援機構に提出。
リストをもとに日本学生支援機構から学生に振り込まれる…という仕組みです。
そもそも、学生ってどのくらいお金がかかる?
ところで、大学や短大・専門学校などの学費や生活費は、一年にどのくらいかかるものでしょうか?
日本学生支援機構が発表したデータによると、2016年度の大学生の年間学費と生活費の合計金額の平均は188万4,200円でした。
年間の学費(入学金は除く)でみると、
- 私立大 136万円
- 国公立大 65万円
- 私立短大 98万円
となっていて、私立大学が最も高いことが分かります。
専門学校は分野によって大きく差がありますが、およそ年間80万円~120万円かかる学校が多いようです。
親元を離れた大学生の生活費は、首都圏の平均で年間約127万円。
大学生がアルバイトで稼ぐお金の平均は年40万円程度なので、学費以外に80万円以上の仕送りをしている家庭が多いということですね。
ちなみに、大学生の子どもがいる家庭の世帯平均収入は約830万円、短大では約619万円とのこと。
CHANTO世代ではまだお子さんが保育園や赤ちゃんという家庭も多いと思いますが、2人、3人と子どもがいればそれだけ学費もかかるため、やはり早い時期からのマネープランは必須といえますね。
「助かった」「全然足りない」…現場の声は
東北に住むTさん(46歳)は、東京で下宿して私立大学に通う長女がいます。
「夫の会社もコロナのあおりで業績が低下し、今年のボーナスは出ない可能性が高くなってきました。私のパートも交代勤務になり収入減。娘は生活費の半分ほどを自分のアルバイト代で払っています。アルバイトがなくなり、急遽奨学金と大学独自の学費減免制度に申し込みましたが、それまで持ちこたえられるか…と心配していたところなので、特別定額給付金の10万円と、今回の学生10万円で助かりました」
と、合計20万円の給付に少しホッとしたと話します。
しかし、現在親元を離れている大学2年生のHさんは、
「もしコロナウイルスの流行が収束しても、社会が不景気になっている中で新しいバイト先が見つかるかどうか分かりません。それでもまた春には学費の納入時期がやってきます。なんとか学費を延期してもらえても、アパートの家賃と食費などを考えると、バイトできなければ生活が維持できずに中退…という可能性はぬぐえません。ああ、これで大学をやめずにすむ!と思えるまではまったく安心できないです」
と、この先を考えると不安は消えないといいます。
そのほかにも、SNSなどでは
「自分は専門学校の新1年生です。これから始める予定だったバイト先が閉店になってしまったため、以前より収入が減少したということを証明する書類(給与明細など)が存在しません。どうすれば…」
「いま職業訓練校に通っています。まだ職に就いていないのでアルバイトで生活費を稼いできましたが、今回の給付対象にはならないのですか?」
「家計が苦しいから家から通える学校で…と親に言われ、朝早くから通学しています。学費も一部自分で払っていますが、コロナの影響で家庭教師のバイトがなくなってしまいました。自宅生はまったく対象にならないのですか?」
など、戸惑いや疑問を投げかける人がみられます。
おわりに
今回のような、困窮する学生への支援はもちろんないよりあった方がいいに決まっていますが、金額や対象範囲をよくみると十分とはいえない…という意見もあります。
新型コロナウイルス感染症という、学生自身にはどうしようもない理由で学びの継続をあきらめるような事態にならないよう、制度の今後を注意深く見守っていきたいと思います。
文/高谷みえこ
参考/文部科学省「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』の創設 https://www.mext.go.jp/content/20200520_mxt_gakushi01_000007254_01.pdf
独立行政法人日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査報告」 https://www.jasso.go.jp/about/statistics/gakusei_chosa/__icsFiles/afieldfile/2018/08/30/houkoku16_all.pdf