2020年5月のゴールデンウイーク終了後。緊急事態宣言は延長されたものの、店舗・企業の営業や学校の再開は都道府県ごとに対応が分かれる形となりました。

 

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この先も、夏に向かって感染者が減ったりワクチンや治療薬が普及したりして、全国的に学校が始まるのか、引き続き感染者が増え続けて休校が続くのか…誰にも分からない状況が続きます。

 

この状態のまま、子どもたちは年末から年明けにかけて入試を迎え、3月に進級・卒業となるのでしょうか?

 

休校による学習の遅れや、行事や部活などの機会損失を解決する案として、いま急速に浮上しているのが「9月入学(新学期)」です。

 

しかし、9月入学については過去にも何度も案が出ては、さまざまな壁にぶつかって見送られてきたという経緯があります。

 

そこで今回は、新型コロナウイルスの影響でにわかに現実味を帯びてきた「9月入学」について、子育て中のCHANTO世代からみたメリットとデメリットを整理してみます。

 

いま学校はどうなっている?

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の発表によると、2020年5月11日の時点で、168カ国で全国規模の学校閉鎖、世界中の子どもの約7割にあたる12.3億人以上の子どもたちが学校に通えていないことが分かっています。

 

海外の子どもたちはどのような状況でしょうか。

 

現在、イギリスでは全国的に休校中ですが、医療関係者など「エッセンシャルワーカー」の子どもたちは引き続き登校しているほか、DVやネグレクト(育児放棄)などで家庭にいづらい子どもたちも受け入れています。

 

また、政府負担で給食の自宅配達やスーパーで受け取れるような制度もできていて、子どものセーフティネットとなっているそう。

 

オランダでは、公立小学校の休校が決まってから数日のうちに、すべての家庭に向けてオンライン授業の段取りが整えられました。

 

きょうだいがいる家庭には複数台のパソコンやタブレットなど機器も貸し出し、毎日午前中は子どもが担任の先生にオンラインで質問できるといった体制で学習が進められています。

 

スウェーデンでは、国民の合意のもと、休校しない方針をとっています。

 

子どもは比較的感染リスクが低いことや、保護者が働けて経済的に困窮しなくてすむ、登校することで家庭内暴力や貧困から子どもが守られる、などが理由ということです。

 

しかし、すべての子どもにオンライン学習環境が整っている国や地域はごく一部で、格差のある国や地域が圧倒的に多いのが現状。

 

日本でも、登校しないことで子どもの感染リスクが下げられる反面、オンラインで学ぶ環境が整っていない・家庭の経済状況で塾のオンライン授業も受けられないなど、憲法26条の「教育を受ける権利」が守られていない状況があちこちで起きています。

 

いま出されているのはこんな案

日本では、今後どのように学習を進めるかは自治体ごとの判断に委ねられている状況ですが、すでに分散登校やオンライン授業を組み合わせて授業が進んでいる学校と、プリントを家で解く程度にとどまっている学校のあいだで学力の格差が開きつつあります。

 

この状態で学年末の3月を迎えるとなると、もっとも心配されるのは、現在受験を控えている高校3年生と中学3年生、中学校受験を予定している小学6年生の子どもたち。

 

そこで現在、学びが不平等なままで子どもたちを進学進級させることのないように…と、以下のような案が出ています。

 

  • 今年(2020年)9月に新学年をスタート(4~8月は猶予期間とする)
  • 来年(2021年)4月に新学年をスタート(1年間猶予期間とする)
  • 来年(2021年)9月に新学年をスタート(1年5ヶ月猶予期間とする)
  • 学年や学期は変えず、学習内容を変えて対応する(重点的でない部分は省略するなど)
  • 年2回入学・飛び級制度など、発達に応じて入学や進級の時期を選べるようにする

 

上記のうち、「2020年の9月を入学進級時期とする」案については、首相が「前広(※時間に余裕を持ってという意味合い)に検討したい」と述べたり、文科相が「検討の余地は十分ある」と記者会見で語ったほか、東京都や大阪府を含めた複数の都道府県知事が賛成しています。

 

9月入学でわが子はどうなる?【メリット編】

「状況はわかったけど、結局、9月入学になるとうちの子はどうなるの?」

 

ママ・パパはやはりそれが一番気になることと思います。

 

まず「メリット」と考えられるのは次のような点。

 

「夏休みなし」「土日登校」などの負担が減る

すでに2020年3月から、通算で3ヶ月近く普通の授業ができていない学校・地域も少なくありません。

 

この間の学習の遅れを取り戻すには、夏休み期間に登校したり、秋以降の土日祝日を授業にあてなければ間に合わない…という可能性も高くなってきました。

 

そこで9月から新学年をスタートし、来年の8月までにカリキュラムを終えるように組み直せば、真夏に毎日登校して授業を受けなくても適切なスピードで学習を進められるのではないかとみられています。

 

受験の準備ができる

現在、大学受験のスケジュールは以下のようになっています。

 

  • 9月~ 総合型選抜(旧AO入試)
  • 11月~ 学校推薦型選抜(旧推薦入試)
  • 1月 共通テスト(旧センター試験)

 

総合型や推薦型選抜を受ける場合、学校の成績(評定)が合否に大きなウエイトを占めますが、現状では登校できていないため成績がつけられないという困った点があります。

 

また、判定に必要な英語の外部検定を受けておきたくても、新型コロナウイルスの影響で実施されていないという問題もあります。

 

これを解消するために「推薦入試の時期を遅らせる」という対策もあがっていますが、これまでは秋の推薦が不合格でも、そこから1月の一般入試の対策をする時間があったのが、同時に勉強をすすめなければいけないという問題も出てきます。

 

同じく、2月から3月に行われる中・高の入試も評定がつけられないままで、また学力差のある状態で挑んでいいのかという心配があります。

 

そこで、9月入学、6~7月に入試とすれば十分な準備期間がとれるのではないか…と考えられているわけです。

 

これまでも、冬場の入試はインフルエンザ感染や雪による交通網の乱れなどがあったため、そのリスク軽減効果も期待されています。

 

行事や体験の機会が持てる

今後各地で学校が再開できたとしても、感染拡大を防ぐには、スペースを広く取り密着するような活動をしないなどの対策が必要。

 

接触を減らすための分散登校などを取り入れつつ、3月までに学年を終えるには、学習時間の確保が最優先となり、行事や部活などの時間が削られる可能性が高いでしょう。

 

しかし、9月から1年間の時間があれば、感染しないよう工夫しながら運動会などの行事を行える可能性も出てきます。

 

留学・海外進学しやすくなる

海外の大学をはじめ学校は9月入学が主流のため、これまで、海外留学するには数ヶ月の待機期間が発生したり、帰国後に1年下の学年に入る形になったり…という問題がありました。

 

9月入学になれば、コロナ終息後は、タイムラグなく海外の学校へ留学・進学したり、海外からの留学生を受け入れたりできるようになり、グローバル化がかなうと言われています。

 

9月入学でわが子はどうなる?【デメリット編】

いっぽう、問題点や課題としては次のような点が挙げられます。

 

手続きに時間や費用が割かれる

すべての学校を9月入学にする場合、法規則の改正にはじまり、年間カリキュラムの組み直しやさまざまな予定変更に多くの時間と人手・費用がかかります。

 

その時間とお金を、全国の子どもが平等にオンライン授業が受けられるように、機器の支給やレンタル、通信網の整備などに回した方がよいのではないかという声もあります。

 

9月以降も終息するとは限らない

9月に入学時期を移動させるのはとても大きな改革ですが、仮に実施したとしても、秋以降に感染の第2波・第3波が来る可能性があります。

 

そこで再び休校をくりかえすなら、多大なコストを払って9月入学にする意味がないのではないか、無駄なエネルギーを使わず、現行の制度で困っている部分に補償する方がよいのではないか…という考え方もあります。

 

2021年7月はオリンピックと入試が重なる?!

9月入学に向けて入試を7月に実施するとしても、2021年の7月は1年延期されたオリンピック開催時期直前でもあります。

 

首都圏の大学を受ける学生に交通や宿泊を十分に供給できるのかという点も心配されています。

 

受験のモチベーションが下がる可能性

現在受験生の子どもたちは、9月入学・6~7月入試になれば、受験時期が1年数ヶ月先まで延びる形になります。

 

それを「勉強時間ができた」と捉える子もいる一方で「2月ならまだしも、そこまでモチベーションが続かない」と感じる子もいます。

 

新1年生が1.4倍の人数に!?

「9月入学に移行する」といっても、現在の学年がそのまま4月始まりから9月始まりにスライドする形とみられており、9月1日で学年が分断されるという可能性は低いでしょう。

 

海外でも、9月入学とはいえ学年の区切りは1月だったり3月だったり9月だったりとさまざまです。

 

ただ日本の場合、次に小学校の新1年生として入学する子どもたちが、どこで学年を分けるかはまだ示されていません。

 

もし9月生まれを学年の区切りとする場合、現行とのずれを一年で吸収しようとすれば、新1年生に限っては、4月から8月生まれの子たちは1学年上の子と同時に入学する形になります。

 

すると、1つの学年で最大17ヶ月間の月齢の開きができることになります。

 

このことで、学習や運動の発達に大きな差が出てしまい、のちのちまで影響するのではないかと懸念するママ・パパがいま増えています。

 

また、人数が1.4~1.5倍になることで、教室や教師の不足、受験期・就職期の競争率増なども心配されています。

 

その他にも、会計年度や企業の新卒採用・国家試験とのずれ、就職が遅れることで生涯年収が減る、半年分の学費や仕送りは誰が負担するのか、浪人生の予備校の学費はどうなるのか…といったさまざまな懸念があり、1つ1つに丁寧な検討が必要です。

 

おわりに

9月入学の是非については、対象が非常に幅広いため簡単に「YES」「NO」で答えが出せない問題です。

 

ただ、現在、ずっと検討されつつ見送られてきた「9月入学」について、専門家だけでなくいろいろな立場の人が意見を出し、議論が盛んになってきたことは確か。

 

現状維持するにしても、9月入学を検討するにしても、100%問題のない仕組みは存在しないことをふまえて考える必要があります。

 

最優先すべきは、困っている側を支援し、特定の年代や子どもたちに不利益が出ないよう、スピード感を持って全体の水準を上げることではないでしょうか。

 

ママ・パパとしても、子どもたちに直接関わることだけに、引き続き情報をチェックしておきたいですね。

 

文/高谷みえこ

参考/ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)「School closures caused by Coronavirus (Covid-19)/コロナウイルスの影響による世界の休校状況」https://en.unesco.org/covid19/educationresponse

Change.org「文部科学省: Spring Once Again 〜日本全ての学校の入学時期を4月から9月へ!〜」

https://www.change.org/p/%E6%96%87%E9%83%A8%E7%A7%91%E5%AD%A6%E7%9C%81-spring-once-again-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E3%81%AE%E5%85%A5%E5%AD%A6%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%82%924%E6%9C%88%E3%81%8B%E3%82%899%E6%9C%88%E3%81%B8