銀行に勤めていたころは、仕事と子育てに追われていつも寝不足。ミスが多く、締め切りにも間に合わない散々な日々を送っていた石崎舞子さん。

 

そんな状況を変えたのが、職場の研修で出会った「コーチング(コーチによる問いかけをベースとした対話によって、相談者が自発的に最も効果的な方法で目標達成できるようサポートする方法)」です。

 

前回は、コーチングを学ぶことで自分がどう変化し、仕事がどのように改善されたのかを石崎さんの体験を振り返りながら教えていただきました。

 

最終回となる今回は、その後経験した夫婦間のトラブルによって気づいた〝仕事の成果と夫婦仲の相関関係〟と、夫婦仲を改善するための方法について伺います。

 

 

profile 石崎舞子さん

プロコーチ。みずほ銀行の総合職に従事するかたわら、コーチングの資格を取得し、2012年に独立。一人ひとりと丁寧に向き合い目標達成にコミットするため、1対1のパーソナルコーチングを行うという熱血ぶり。長女(17歳)と長男(15歳)の母。http://w-flex.com

 

夫婦関係が悪いと気になって仕事に集中できず、本領発揮できない!

——夫婦の関係性が仕事のパフォーマンスにどうして影響するのでしょうか?

 

石崎さん:

これまで約200名のワーママを見てきましたが、夫婦仲がよい人は、仕事の進め方や職場でのコミュニケーションを見直すだけで業績がパッと伸びていくんです。

 

でも、夫婦仲が悪いと、ある程度仕事がうまくいってもそこから伸び悩む人が多いんですよね。残業や昇格試験のために勉強したいからと、夫に子どもの面倒をお願いしても引き受けてもらえないんです。もう少し時間があれば成果が出せるようなことも、夫が非協力的で時間がつくれないから結果に繋がりません。

 

夫婦仲が上手くいっていないと、心理的にもマイナスに作用します。人間関係がよくないと、それがいつも気になってしまって、知らないうちにやる気がそがれてしまうんです。集中できないから本領を発揮することができなくなる。本来はもっとパフォーマンスを高めることができるのに、それができないのはすごくもったいないなぁ、と思います。

 

——そんなに深刻な問題なんですね。どうしたら夫婦が不仲な状況を改善できるのでしょうか。

 

石崎さん:

コーチングでは「エネルギーマネジメント」を行います。いつも気になることや、先延ばしにしていた未完了事項をすべて書き出し、終わらせることで心をすっきりさせるんです。これをやると、大事なことに集中するエネルギーが生まれます。

 

未完了事項は、緊急度も重要度も低い案件が多いので、空いている時間にまとめて終わらせるのがおすすめです。でも、人間関係だけは別。人間関係で未完了なことがあると、心にずっと引っかかって常にモヤモヤした気持ちになります。真っ先に見直すのが理想です。

 

人間関係の中でも夫婦関係はその人の基盤をつくるもの。毎日顔を合わせるし、長い時間を一緒に過ごすからこそ、早めに解決するのがいいと思いますね。

 

——石崎さん自身、夫婦仲が悪かったことはありますか?

 

石崎さん:

ありますよ!あまりにも悪化して「もう離婚だな」と、思ったくらい(笑)。時期的にはスクールでコーチングを受けながら学び始めて約1年経ったころです。

 

仕事が回るようになり、業績も上がり、コーチングが楽しくて仕方なかったんです。コーチになる資格を取るために、自分がコーチをする授業も加わり、平日も土日もバタバタしていました。

 

そんな毎日を送っていたら、私の中でだんだん夫の存在感が薄くなっていったんですよね。「部外者」になっちゃっているというか。会話らしい会話がなくて、連絡事項を伝えるだけの他人、みたいな感じです。連絡事項と言っても、「帰宅するとき、ドアの鍵をガチャガチャ開ける音がうるさい」という文句くらいでしたけど(笑)。

 

そのうち、もともと穏やかで優しい性格の夫が、私がちょっと何か言っただけで怒ったり、ものに当たるようになってしまって。理由を聞いても「わからない。イラつくからイラついているだけ!」と言って、すぐにケンカになっちゃうんです。人がまったく変わってしまって、離婚を考えるようになりました。

 

夫婦関係の危機的状況を救ったのはやっぱり「コミュニケーション」

——そこからどのようにして、夫との関係を改善していったのですか?

 

石崎さん:

ある日、同僚の男性とランチしていたときに、夫のことを相談したんです。そしたら、「それは旦那さんが寂しいんじゃない?だって石崎さん、全然相手にしてないでしょ」と指摘されて。

 

私からしたら、そんなの当然です。だってとにかく時間がないんですから。「夫は大人なんだから自分でご飯も食べられるし、やりたいこともできる。私が世話をする必要なんてないでしょ?」と思い込んでいたので、まさか夫が寂しがっているとは思いもよりませんでした。

 

でも、同僚に「男性は女性よりも寂しがりやで弱い生き者なんだよ。奥さんや彼女に相手にしてもらえないと、すぐにいじけてしまう。それに比べて女性は本当に強い、特にお母さんは強烈に強い!」と言われて、意識が変わりました。私が夫を放っておいたせいで、彼を傷つけてしまったんだと悟ったんです。

 

 

コーチにも夫のことを話したのですが、似たようなことを言われました。「石崎さんは旦那さんにどうしてもらいたいんですか?」と聞かれ、「私の分身のように働いて欲しいです」と答えました。すると、「旦那さんがかわいそうね…」と言われてびっくりしたのを覚えています。

 

え?かわいそうなの⁉︎かわいそうなのは私でしょ、と最初は思っていた。でも、コーチに「石崎さんが旦那さんから同じことを言われたらどうですか?」と聞かれ、改めて考えました。そうしたらやっぱり「…ちょっと嫌です。嬉しくはないです」って答えが出たんですよね。

 

同僚とコーチの2人から同じように指摘されたことで、ようやく自分が悪かったのかもしれないと気がつき、謝ることにしました。どちらか一人にしか言われていなかったら、「どうせあなたの主観でしょ」と思って、聞き流していたかもしれません。こういうときに「コーチ」の存在は本当にありがたいんです。

 

謝る前に夫に、「最近怒りっぽいのは、もしかして私が忙しそうにしていて寂しかったの?」と聞いてみました。そうしたら、素直に「寂しかった」と答えたんですよ!やっぱりそうだったのか~と、納得しました。態度も改めるようにしたら、夫がだんだん明るくなって、もとの穏やかで優しい夫に戻ってくれたんです。

 

——態度はどんなふうに改めていったのですか?

 

石崎さん:

とにかく丁寧なコミュニケーションを心がけましたね。最初は「お帰りなさい」「お疲れさま」といった、基本的な挨拶から見直しました。…それすらできていなかったんです(笑)。

 

それと、コミュニケーションタイプを活用しました。夫は事前に情報を伝えると安心する〝アナライザータイプ〟。なので、何かをお願いするときは必ず事前に、理由と一緒に伝えるようにしました。

 

——石崎さんが態度を変えてから、夫の態度が変わるまでどのくらいかかりましたか?

 

石崎さん:

時間はかからなかったですね。とはいえ、あくまでもわが家の場合です。相手の態度が変わるまでにどのくらい時間がかかるのかは、個人差があるので一概に言えないんです。

 

相手を変えようとするのは無理。まずは自分が変わり、それが相手に伝わり、相手が自発的に変わるのを待つしかありません。そこにどのくらい時間がかかるかは、これまでの関係性によります。前の関係性がよかったら早いし、悪かった時期が長いと時間がかかります。でも、自分が変われば相手は必ずいつか変わります。相手の反応が悪くても、辛抱強く待ってもらいたいですね。

 

——夫との関係性がよくなり、石崎さんの仕事のパフォーマンスはどう変わりましたか?

 

石崎さん:

明確に、パフォーマンスがこんなふうに上がったと説明するのは難しいです。でも、夫が協力的になってくれたので、心が満たされ、私はいつも機嫌がいい。仕事は常に前向きに取り組めるようになりました。

 

銀行を退職し、「コーチ」として独立することを相談したときも、夫はすぐに「いいんじゃない!」と、応援してくれました。いちばんの味方になってくれ、すごく心強かったです。夫との関係が悪かったら、独立するのは難しかったと思います。

 

コーチングを受けると、今回お話しした夫婦関係の改善の方法や、仕事をうまく回すためのタイムマネジメントなどを学ぶことができます。コーチが質の高い、ときには厳しい質問を投げかけてくれるので、短時間で最適な解決策にたどり着くことができるんです。

 

自分一人で考えると考え方が偏りがちですが、コーチがいると新しい考え方をどんどんインストールすることができ、視野が広がります。仕事に育児に家事にと忙しく時間がない方にこそ、ぜひ試してみてほしいですね。

  

——目の前の仕事や家事に追われて、後まわしにしがちな夫婦関係。家庭だけでなく、職場でのパフォーマンスにも影響を与えています。俯瞰する“鳥の目”で自分の状況を把握できるようになりたいものですね。もし気になることがあるなら、いつかではなく、今すぐ見直してみましょう!

 

 

 

 

取材・文/小松﨑裕夏 撮影/田中しいれい