銀行に勤めていたころは、仕事と子育てに追われていつも寝不足。ミスが多く、締め切りにも間に合わない散々な日々を送っていた石崎舞子さん。
そんな状況を変えたのが、職場の研修で出会った「コーチング(コーチによる問いかけをベースとした対話によって、相談者が自発的に最も効果的な方法で目標達成できるようサポートする方法)」です。
前回は、2人の子育てと仕事の両立に悩んでいた石崎さんがコーチングに出会うきっかけを話していただきました。
今回は、コーチングを学ぶことで自分がどう変化し、仕事がどのように改善されたのか。石崎さんの体験を振り返りながら教えていただきます。
profile 石崎舞子さん
プロコーチ。みずほ銀行の総合職に従事するかたわら、コーチングの資格を取得し、2012年に独立。一人ひとりと丁寧に向き合い目標達成にコミットするため、1対1のパーソナルコーチングを行うという熱血ぶり。長女(17歳)と長男(15歳)の母。http://w-flex.com
自分が変わることで相手にも伝わる
——1泊2日の研修でコーチングに出会ったことで興味を持ち、コーチングを受けながら学ぶことにしたそうですね。子育てをしながら、しかもフルタイム勤務の中でやるのは大変そうですが、実際はどうでしたか?
石崎さん:
どうにかギリギリやっていた感じです。私は最終的には「コーチ」になりたかったので、コーチングを受けるだけでなく、コーチングを受けながらコーチの資格が取れる専門学校「コーチ・エィ アカデミア」を選びました。
この専門学校には電話クラスがあり、授業は早朝から夜まで用意されているので、自宅で好きな時間に受講することができたんです。最終授業の開始時間は22時だったこともあり、これなら子どもを寝かせたあとに受けられると、思いきって始めました。
でも、慣れないうちは大変でしたね。まず、子どもを22時まで寝かしつけることができなかったんです。当時、長女は4歳、長男は2歳。帰宅が19時と遅く、ご飯からお風呂までバタバタ。22時になっても子どもたちの目はランランとしていましたから(笑)。心を鬼にして、「ここから入ってきちゃダメ!」と言って、リビングの扉を閉めて授業を受けていました。
でも一度、子どもが泣きながら「ママ~」と、リビングに入ってしまって。仕方なく子どもを膝にのせて授業を受けたのですが、子どもの声が聞こえちゃったみたいで。先生から「ほかの参加者に迷惑だから」って注意されたこともありました。
大変だったけれど、学んだことを実践したら仕事がびっくりするくらいうまく回るようになりました。嬉しくて楽しくて、「もっと学びたい!」という感じで、コーチングにどんどんのめり込んでいきましたね。
——すぐに実践できることが学べるのですか?
石崎さん:
はい。すぐに役立つことばかりでした。例えば、コミュニケーションタイプがそうです。「コーチング」では、人間関係に問題がある場合は、相手を変えるのではなくて、まずは自分が変わり、それが相手に伝わる。その結果として相手が自発的に変わっていくことで問題解決できると考えます。その自分を変える一環として学んだのがコミュニケーションタイプでした。
コミュニケーションタイプでは、人をコミュニケーションスタイルの特徴に基づいて4つのタイプに分類し、その違いを教わりました。実際にはひとりの人にもいろいろなタイプが混在しているので、傾向が高いタイプに当てはめるんです。これがパラダイムシフトと言ってもいいくらい、私にとって大きな発見でした!
4つのコミュニケーションタイプ
恥ずかしながら、タイプ別を学ぶまでは、みんながみんな自分と同じタイプだと思いこんでいたんです。私は返答が早いほうなので、遅い人がいると「何で黙っているんだろう、失礼な人だな」と、イライラしていました。
でも、そうじゃなかった。その人は頭の中で冷静に考えているから時間がかかっているだけだったんです。いかに自分の視野が狭く、自分基準で判断していたかを痛感しました。
タイプごとの特徴だけでなく、タイプ別の効果的なコミュニケーション方法も学べたので、すぐに実践することができました。上司や部下のタイプに合わせてアプローチ方法を変えたら、徐々に物事が滞りなく進むようになって、すごくびっくりしましたね。全然イライラしないし、モヤモヤした感情も気にならなくなって、仕事に集中できるようになりました。
それに、本当の意味で人の話をじっくり聞くことができるようになりましたね。人って誰しも、先入観を持って話を聞いているものなんです。自分の経験と照らし合わせ、“聞きたいように”聞いている。だから、分かったつもりでも相手が言っていることと自分の理解が若干ズレていることがあります。
そうならないために、自分が理解したと思っていることが正しいかどうか、相手と一緒に確認するようにしたら、ミスがどんどん減りました。
仕事の締め切りを守れなかった自分とも決別!
——以前は締め切りに間に合わないことがよくあったそうですが、それも改善されたのですか?
石崎さん:
そうなんです。タイムマネジメントとタスクマネジメントを実践したおかげで、締め切りを守れるようになりました。
タイムマネジメントとは、仕事を単にこなすのではなく、仕事の生産性をアップして戦略的に時間を管理することです。
例えば、昨日1時間で終えた仕事を今日は50分で仕上げる、という具合に仕事量を少しずつ増やしてスピードを上げる。残業する時間がないなら完璧主義を諦めて、70%の精度で仕上げて締め切りを守る。こういったことを意識して仕事を進めます。
完璧主義をあきらたほうがいいってことには、実は以前から薄々気づいていたのですが…直視できずにいました。精度を下げると手を抜いている感じがして罪悪感があったんです。でもやってみたら、重点さえ押さえていれば70%の精度でも全く問題ありませんでした。
——タスクマネジメントはどういうものですか?
石崎さん:
タスクマネジメントは“仕事の棚卸し”です。現時点で請け負っている仕事を期限、優先順位などを明記しながら1か所にまとめるんです。私はエクセルで一覧表にしていました。
以前はいつも何かに追われるように焦っていましたが、タスクマネジメントで全体を把握したことで、落ち着いて業務に取り組めるようになったと思います。
仕事内容の一覧表と使い方
❶やるべきことをすべて書き出す
自分が受け持っているすべての仕事を書き出す。全体量を把握するのがポイントなので、少し先のことも記入すること。数が多い場合は、手書きよりもパソコンで作成するのがおすすめ。
❷締め切りを自分で決める
実際の締め切り日ではなく、自分のほかの仕事の状況や、プライベートの予定を加味した締切り日を設定。自分でコントロールできることはコントロールする、と心がけて。
❸優先順位をつける
仕事を緊急度、重要度の観点から4つに分け、優先順位をつける。注目すべきはC。Aはほうっておいてもやるが、Cは重要だけど緊急性がないため放置しがち。A>C>B>Dの順に優先順位をつけるのが正解。
❹終えても消さずに残す
仕事をやり終えたら、グレーアウトしたり、取り消し線を引いたりして残すのがベター。自分がこなした仕事量がどんどんふえると達成感が得られ、モチベーションがアップする。
定期的に見直すことも忘れずに
定期的に修正して最新版に更新。その際、不要な仕事はきっぱりやめること。毎日見直すのは大変なので、日々メモして金曜日の朝にまとめて修正するなど、ルーティンに組みこむとよい。
仕事を引き継ぐ際にとても役立ちましたね。インフルエンザや子どもの病気で急に休むことになっても、この表に全部書いてあるのでスムーズに引き継いでもらえるんです。
これがないときは、一から説明するのはめんどうくさいし時間がかかるからと、仕事を振らずにひとりで抱えこんでいたので、仕事は溜まるいっぽうでした。
ちなみに優先順位をつける場合、タスクマネジメントは重要だけど緊急ではない「案件C」になります。放置しがちなので、意識的に時間を見つけてちょこちょこ表を作っていましたね。
──コミュニケーションタイプやタイムマネジメント、タスクマネジメントなど、今すぐ実践できるテクニックがたくさんでとても参考になりますね。学んだら、今までのやり方を手放しすぐに試す。そんな柔軟な姿勢も、短時間で仕事の効率を上げる秘訣かもしれません。
こうして仕事の効率は劇的に改善された石崎さんでしたが、プライベートに暗雲が…。最終回となる次回は、この生活スタイルによる弊害と、それを乗り越えステップアップしたエピソードをご紹介します。
取材・文/小松﨑裕夏 撮影/田中しいれい