育休明けで頑張っているママは誰しも、限られた時間の中で仕事をうまく回す難しさを痛感していることでしょう。

 

そんな悩みを抱える人に有効な「コーチング」という技術をご存じでしょうか。

 

「コーチング」とは、「コーチ(相手の潜在能力を解放させ、最大限に力を発揮できるよう促進的・指導的アプローチを行う人)」による問いかけをベースとした対話によって、相談者が自発的に最も効果的な方法で目標を達成できるようサポートする方法のこと。

 

今回は、プロのコーチとして約200人のワーママをサポートしてきた石崎舞子さんに、ワーママにも有効なコーチングについて教えていただきました。

 

実は石崎さん、以前はみずほ銀行に勤務し、育休明けは仕事が回らずパンク状態に陥った経験があるそう。そんなときに出会ったコーチングで、仕事を挽回することができたと言います。

 

まずは、石崎さんがコーチングを本格的に学ぼうと思った経緯について、お話をうかがいました。

 

profile 石崎舞子さん

プロコーチ。みずほ銀行の総合職に従事するかたわら、コーチングの資格を取得し、2012年に独立。一人ひとりと丁寧に向き合い目標達成にコミットするため、1対1のパーソナルコーチングを行うという熱血ぶり。長女(17歳)と長男(15歳)の母。http://w-flex.com

 

仕事がうまく回せず空回りの日々…「頑張っても無理」と開き直った

——復職後、仕事を効率よく進めようと焦るあまり、空回りする状況に悩むワーママがたくさんいます。石崎さんご自身はどんな感じでしたか?

 

石崎さん:

私がかかわっているクライアントさんにもそういう方は多いですね。復職直後は時短勤務が多く、仕事に慣れることで精一杯なのですが、ある程度ペースをつかんだところや、時短が切れたころに、仕事が終わらないと悩む人がふえるんです。私もそうでしたよ。

 

15年ほど前の話ですが、1人目の復職からフルタイム勤務で残業しないと決めていたので本当に大変でした。でも、復帰して約1年後に2人目を妊娠。「よかった、これで逃げられる!」と思ったのをよく覚えています(笑)。そしてまたフルタイム勤務で復職したのですが、1年後くらいにパンクしちゃったんです。仕事に関していうと、ほぼ崩壊していましたね…。

 

——時短勤務はあえて選択しなかったのですか?

 

石崎さん:

そうです。時短の選択肢もありましたが、家と会社はドア to ドアで30分。保育園に子どもを朝7時から夜19時半まで預けることができたので大丈夫かなと。時短勤務にするとボーナスがすごく減ってしまうし、昇進や昇格もできないと思ったんです。同期や後輩がどんどん昇格していくのを横でみているのは、正直、悔しかったですからね。

 

残業しないと決めたのは、夫の仕事が忙しいうえ、どちらの両親も近くに住んでいないことと、誰もいない家にシッターさんに上がってもらい、育児をまかせることに抵抗があったからです。でも周りには、私のようなフルタイムだけど残業なし、というスタイルで働いている人は誰もいなくて。

 

当時、銀行の総合職のワーママはキャリア志向が多く、両親やベビーシッターのサポートを受けて、出産前と変わらず残業や出張をこなし、仕事に全力投球している方ばかり。見本になるような人がいなくて、どうしたらいいのかわからず悩みましたね。

 

——仕事は具体的にどんなふうに崩壊していたのでしょうか? 

 

石崎さん:

仕事と子育てと家事に追われて毎日寝不足。そのせいでミスを繰り返していました。期限に間に合わないこともしょっちゅうあって…。かと言って、周りに仕事を振ることもできず、何とかしようと必死でした。けれど結果は変わらず、叱られてばかりでしたね。

 

当然、人事評価は低く、「私は価値のない人間だ」と、思ったこともあります。ものすごく

ストレスフルな毎日が続いて、甲状腺が腫れたり湿疹が出たり…体はボロボロでした。最終的には「こんなに頑張ってもうまくいかないんだから、もう無理だ!」と、開き直っていましたね。


「コーチング」がきっかけで職場での自分を客観視できた

——そんなふうに開き直っていたときに、会社の研修でコーチングに出会ったそうですね。

 

石崎さん:

そうなんです。「将来部下を持つ可能性があるから」と、言われるままに受けた1泊2日の研修が、たまたまコーチング型マネジメントの研修でした。

 

「部下が自分で判断する・自発的に動けるようになること」を目的としたもので、ベースに「人は励まさられるとすごく勇気づけられてやる気が出るよね」「部下が成長するために、上司はしっかりサポートする必要があるよね」という考えがあるんです。叱責ばかりの銀行とは正反対のアプローチの仕方に、感銘を受けました。私もそういう言葉がけが欲しかったし、そういう言葉をかけようと強く思いましたね。

 

それに、もともと自分はそういうのが得意だったと思い出して。こういう仕事があるということに衝撃を受け、私もいつかこういう仕事がしたいなぁ、と憧れも生まれました。

 

 

——研修を受けて、実際の仕事に活かせそうなことはありましたか?

 

石崎さん:

気づきがたくさんありましたね。例えば、人からどう見られているのかはとても大事だということ。実際、上司の振る舞いや発言は部下に大きな影響を与えますよね。それで、そもそも今の自分が周りからどう見られているのか、それぞれ自分を振り返ってディスカッションをしたのですが、ひどかった(笑)。

 

私はいつもピリピリしていて、パソコンに向かって仕事をしている最中に話しかけられても振り向きもせず、「何ですか?今忙しいから後でもいいですか?」なんて返事していたんです。それじゃ怖くて話しかけられるわけないなと、反省しました。自分が周りにどういう影響を与えているのかを知る、いい機会でしたね。

 

働くママのなかにも、過去の私のように、なりふり構わずがむしゃらに頑張っている人ってたくさんいると思います。でも、ほんの少しでもいいから、自分を客観的に見られるようになるといいですね。案外、職場の人とのちょっとしたやりとりが、自分の仕事のしにくさの原因になっていたりします。客観的に自分の行動を振り返ってみて、コミュニケーションを甘く見ちゃいけないことがよくわかりました。結局自分に返ってくるんですよね。

 

ほかにも、自分の仕事に役立つツール(考え方)をたくさん知ることができました。仕事の内容を客観視するのに特に役立ったのが、優先順位のつけ方です。

 


仕事を緊急度、需要度の観点から4つに分け、A>C>B>Dの順に優先してやるのですが、「Cが大事だ」というのが新鮮でした。Aは緊急度も需要度も高く、ほうっておいてもやる。Cは重要だけど緊急性がないから放置しがち。でも、実はCはキャリアアップにつながる案件が多いので、日々進めていくことが大事なんだと気づき、ハッとしました。

 

その研修では、ツールについては簡単な紹介で終わったんですが、常にテンパっている自分に有効なものがいっぱいありそうだと思いました。それでもっと学びたい!と思い、研修後すぐにコーチングについて調べたんです。そしたら、「親の介護で残業はできないけれど、成果を上げられるようになった」という体験談があったのを見つけて。「私が求めていたのはまさにこれだ!」と、藁をも掴む気持ちでコーチングを学ぶことにしました。

 

 

──ひょんなことからコーチングと出会い、その威力を目の当たりにして、本格的に学び始めることにした石崎さん。次回はその後の変化について、詳しくお話を伺います。

 

 

 

取材・文/小松﨑裕夏 撮影/田中しいれい