新型コロナウイルスの感染拡大防止で、全国的に休業や子どもの休校などの影響が出ていますが、特に大きなダメージを受けやすいのが、シングルマザーを中心とした「ひとり親家庭」といわれています。
実際にひとり親でお子さんを育てているママに聞いた、いま困っている点やこれから起こりうる心配なこと、利用できる制度などについて紹介します。
いまのひとり親&シングルマザー世帯の状況
日本には、2018年時点で約141.9万世帯のひとり親家庭が存在し、そのうち86.8%が母子家庭です。
「国民生活基礎調査(平成28年)」によれば、母子世帯のうち37.6%は年間の所得額が200万円未満。
また、離婚後に子どものための養育費を受け取れているシングルマザーは24.3%と、4人に1人にとどまっており、派遣・パート・アルバイトなどの非正規雇用の人が多くを占めるシングルマザーの45.1%が「(生活が)大変苦しい」と答えています。
OECD(経済協力開発機構)が発表している17歳以下の子どもの貧困率を見ると、日本は2015年時点で13.9%と、先進国の中でも中国・アメリカについで3番目に悪い状況です。
さらに、ひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%と割合がはね上がるのが特徴。
「相対的貧困」とは、途上国に多くみられる、その日の家や食料が手に入らない「絶対的貧困」とは異なり、いっけん普通に暮らしているようで実はその国の文化・生活水準に合った生活が送れていない経済状態をいいます。
上記の「国民生活基礎調査」をもとにすると、シングルマザーと子ども2人の世帯では所得2,115,000円が相対的貧困の基準額となり、母子家庭の3軒に1軒は相対的貧困ラインを下回っていることになります。
親が無理な労働をしたり、食費を切り詰めるために栄養が取れずに心身を病んでしまい、子どもが代わって家事やアルバイトをしたり、進学をあきらめたりする家庭もあります。
こうした状況を改善しようと、2019年には「子どもの貧困対策法(子どもの貧困対策の推進に関する法律)」が改正され、「子どもの将来だけでなく、現在困っている点を解決する」という内容が追加されました。
しかし、いまだに支援は十分とはいえず、例えば「ひとり親家庭の子どもへの学習支援事業」を実施している自治体は全国で20%以下。
食事に関しても「子ども食堂」など民間のボランティアの力を頼っている部分も多く、誕生日祝いやクリスマス・習いごと・旅行など、子どもの心の栄養となるような「文化的活動」ができる支援にはまだまだ及ばないといえます。
関連記事:ファミマも始めた!ママが知るべき「こども食堂」の今に迫る
コロナウイルス流行でこんなダメージが
新型コロナウイルス流行の影響で、ひとり親家庭ではさらに大きな打撃を受けている現状があります。
現在、0歳~17歳のお子さんを育てているママに困っている点やいまの状況を聞かせてもらいました。
勤め先の休業・営業短縮・スタッフ削減などで収入が減る
「アパレルのお店で働いていましたが、ファッションビルの営業時間が短縮になりシフトが減らされました。経営陣も混乱していて、いまのところ休業補償についても連絡待ちの状態です」(Hさん・35歳・4年生のママ)
「緊急事態宣言の指定7都道府県で、スイミングスクールの受付をしています。当面スクールが休みになり収入が途絶えた状況です。これから市の窓口に生活費の相談に行きますが、長蛇の列という噂を聞いて…保育園からは、休業の家庭は登園しないでと言われていて、子どもを1人で家に置いていけないので、市役所に連れて行くしかなく…そこでの感染にも怯えています」(Oさん・30歳・2歳児のママ)
一斉休校で生活費がかさむ
「給食がないので、子ども2人の昼ごはん代がじわじわとかかってきます。成長期なのにあまり肉や魚が食べさせてあげられず苦しいです。私も食べる量を減らしてはいるのですがそれでも食費が足りず…夏休みでも長いのに、今回の休校はそれよりも長引きそうで、先が見えません」(Sさん・38歳・5年生と3年生のママ)
「コンビニ勤務なので、仕事は続けられています。ただこれまではスーパーの特売食材を利用して冷凍保存しながらやりくりしていたのですが、最近、買い占めの影響でしょうか、仕事が終わって買い物に行くと安いものは売り切れていることが多いんです」(Uさん・39歳・中学1年生のママ)
「最近スーパーがすごく混んでいて、子どもを連れて行きたくはないのですが、休園で預け先がないのでしかたなく…でも、時々、迷惑そうな目で見られるのが辛いです」(Mさん・30歳・1歳児のママ)
関連記事:「スーパーに子連れで来ないで」vs「できるならそうしてます」それぞれの事情
子どもの教育費がたりない
「もともと、春は新学期に向けて教材代など費用がかさむ時期ですが、さすがにこれだけ学校がないと学習の遅れも心配で、通信教育に申し込みました。貯金を切り崩している状態です」(Yさん・35歳・6年生のママ)
養育費の支払いが止まるかも
「離婚した元夫から月5万円の養育費を受け取っていましたが、元夫は首都圏の飲食店に勤めていて、今月から閉店となったそうです。養育費が払えないかもしれないと連絡が来ました。私は感染者数の少ない県に住んでいるため、今はまだ通勤していますが、いつ会社が休業になったり、保育園が休園になって出勤できなくなるかわかりません」(Wさん・33歳・4歳児のママ)
支援制度は何がある?
ひとり親を含めた子育て世帯や、広く国民全体向けに、現在さまざまな支援制度が進められています。その一部を紹介します。
ひとり親が仕事を休むことになったら
現在、2020年6月30日までに子どもの小学校・特別支援学校・幼稚園・保育所・認定こども園などが休園休校となった従業員に、法定の年次有給休暇とは別に有給休暇を取得させた会社には、休暇中に支払った賃金全額(1日8,330円上限)を国から助成することが決まっています。
シングルマザーに非正規雇用の人が多いことは前述しましたが、以下の厚労省サイトの記載どおり、この助成は正社員だけでなくパートタイムなどすべての人に当てはまります。
非正規雇用であることのみを理由に、一律に対象から除外することは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正されたパートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法の規定(※)に違反する可能性があります。
リーフレット「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」
家賃や光熱費の支払いは
今後、収入が途絶えて、さまざまな支払いができず困ることがあるかもしれません。
今回の新型コロナウイルス流行関連で支払いが難しい人に向けては以下のような猶予や延期・免除・助成などが行われ始めています。
- 学費や入学金の納付延期
- 税金の支払い猶予
- 社会保険の猶予、免除
- 水道光熱費、生命保険、スマホ代などの支払い期限延期 など
もちろん、黙って支払わないだけでは滞納になるので、必ず申し出が必要。また実施している自治体や会社により期間や手続きは異なります。
家賃については、以前からあった「住居確保給付金」制度が利用できる可能性も。
もともとは失業して仕事を探している人向けに、就職先が決まるまでの一定期間、家賃額を給付する(返さなくてもよい)という制度ですが、2020年4月からはコロナウイルス流行の影響で家賃が払えなくなった人にも対応できるよう条件の緩和が決まっています。
いずれもこの先、条件や期間などが変わる可能性があるので、申請にあたっては再度公的機関や企業への確認が必要です。
おわりに
日本では、ひとり親世帯は、たとえコロナがなくても苦しい生活を送らざるを得ない…という社会構造が以前から問題になっています。
この非常時はもちろんですが、流行が終息した後も、すべての子どもが安心して成長できる社会づくりを目指していかなければならないことを忘れずにいたいですね。
文/高谷みえこ ※画像はイメージです。
参考/厚生労働省「新型コロナ休暇支援」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html
厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-4
厚生労働省「平成29年度_生活困窮者自立支援制度事業実施状況調査の結果について(概要版)」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000175536.pdf
子どもの貧困対策法案概要 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/183hou19siryou-b.pdf/$File/183hou19siryou-b.pdf
生活困窮者自立支援制度全国担当者会議「住居確保給付金について」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0914_shiryou03_1.pdf