2020年4月1日、国の水質基準項目と基準値(51項目)が見直しに基づいて改正されました。

 

変更点はいくつかありますが、そのうちの1つとして「フッ化物」、いわゆるフッ素の基準値が変わったことで、SNSなどで「4月1日から水道水にフッ素を入れるんだって?」「フッ素を飲んだら子どもの体に影響は?」などと不安の声が飛び交っています。

 

しかし、結論からいうと「4月1日から水道水にフッ素が入れられる」というわけでありません。

 

今回は、水道水とフッ素の関係について、また乳幼児健診などでも使用される「フッ素」の疑問点について、できるだけ分かりやすく解説します。

 

「フッ素」とは?

乳幼児健診や歯医者さんで、虫歯予防のために「フッ素塗布」をします…という案内をもらったり、実際にお子さんにフッ素を塗ってもらった人も多いと思います。

 

「フッ素」単体には強力な毒性がありますが、自然界でフッ素が単体で存在することはできません。

 

かわりに、複合体である「フッ化物」として、あらゆる動植物や土壌・川や海に微量ずつ含まれており、私たちはお茶や海産物などで毎日のようにフッ素(フッ化物)を口にしています。

 

歯磨き粉や、検診で塗布するジェルに含まれている「フッ素」とは、もちろんこの「フッ化物」のこと。

 

塗布後に口に残ったジェルをなめてしまったり、歯磨き粉を少量飲み込んでしまったりしても、通常は心配ないとされています。

 

ただし、ドラッグストアなどで買える大人用の高濃度のフッ素入りうがい薬やジェルなどを赤ちゃんがボトルごと飲んでしまったような場合は、腹痛・嘔吐・下痢などの中毒症状を起こす可能性があるため、必ず子どもの手の届かない場所に保管することが必要です。

 

なぜ水道にフッ素を入れるのか?

「フッ素が虫歯予防に効果がある」といわれるのは、1900年代前半、イタリアやアメリカで特定の地域の子どもたちの歯に特徴が見られたので調べた結果、どうやら水と関係があるらしい…と分かったことがきっかけです。

 

水に含まれるフッ素に虫歯を防ぐ可能性があるとして、アメリカでは水道にフッ素を入れて住民全体が虫歯を予防できるようにする州が相次ぎ、今でも多くの州で実施しています。

 

しかし、フッ素の濃度が一定を超えてしまうと、今度は歯が白濁したり茶色い筋ができて元に戻らない「斑状歯」などの害も発生するため、多ければ多いほど安心というものではありません。

 

「4月1日から水道水にフッ素を入れる」わけではない

では日本ではどうでしょうか?

 

過去には試験的かつ一時的に水道水にフッ素を入れていた自治体がわずかにありますが、現在は実施している自治体はありません。

 

また今回、「4月1日から水道水にフッ素を入れ始めます」という自治体の発表も存在しませんでした。

 

今後は、自治体によっては実施する可能性はありますが、設備や安全管理には相当の費用がかかります。

 

アメリカなどと比べると健康保険が手厚く、歯科検診や治療が比較的安価に受けられる日本で、全住民を対象にした水道水へのフッ素添加という方法は、やるとしても優先順位は低いのではないでしょうか。

 

水道水の基準見直しの目的は?

今回の基準見直しの目的は、むしろ、川や湖・地下水・井戸の水に含まれている「有機フッ化化合物」対策として行われたもの。

 

2000年頃まで、焦げつきにくいフライパンや泡タイプの消火器をはじめ、多くの工業製品に使われていた「PFOA(ピーフォア)」「PFOS(ピーフォス)」という有機フッ化化合物があります。

 

工業廃水や工場の土壌、家庭で使った防水スプレーやフライパンから少しずつはがれた被膜…これらが水源の川などから水道水に入り、水中の濃度が高くなりすぎると、がんや潰瘍性大腸炎・妊婦高血圧などのリスクを上げるとして問題になり、現在は使用が禁止されています。

 

これらは分子構造が安定しているため、数十年後も分解されずに環境中に残るのが特徴。

 

もし濃度の高い水道水を知らずに飲んでしまっても、たちまち命にかかわるものではないそうですが、長期間飲み続けた場合にどのような影響が出るかはまだわかっていません。

 

とくに将来のある子どもたちに何かあっては困るので、継続して濃度を監視しておく必要があります。

 

そこで、日本でも基準値を定めて、安全な範囲を超えた水は飲まないようにしよう…というのが、今回の改正のおもな目的と考えられます。

 

今後はどうなる?

今回決められた新しい基準は「50ng/L(暫定)」。

 

「水1リットル中に含まれる有機フッ素化合物の量が50ナノグラム以下ならひとまず安全である」という考え方です。

 

世界をみてみると、現在、WHO(世界保健機関)では「これ以下を目指しましょう」という基準値はもうけていませんが、アメリカでは70ng/L、ドイツは600ng/Lなどと日本より上限量が多い国もあります。

 

もちろん、いま日本各地の水に高濃度の有機フッ化化合物が含まれているということではありませんが、「要検討項目」から努力義務のある「水質管理目標設定項目」に変わり、全国的に分析されるようになった結果、基準を上回る井戸や水道が出てくる可能性はあります。

 

目標値の50ng/Lは「ヒトが70年間毎日2L飲用しても問題ない量」とされていますが、居住地の水質検査結果は水道局のホームぺージなどで定期的に公開されていますので、気になったら確認してみるといいですね。

 

おわりに

水道水の基準変更は、基本的には水質改善のために行われるものです。

 

ただ、子どもに安心して毎日飲ませられるよう、内容は正しく理解しておきたいですよね。

 

今回の基準は「暫定目標値」となっており、今後、研究者や国民の意見によっては調整する可能性があるということ。

 

この記事で関心を持った人は、さらに調べてみたり国へ意見を寄せてみたりしてはいかがでしょうか。

 

文/高谷みえこ

参考:厚生労働省 「水質基準項目と基準値(51項目)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

 e-ヘルスネット(厚生労働省)「水道水フロリデーション」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-010.htm

 東京都水道局「有機フッ素化合物への水道局の対応について」 |https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/topic/20200324-01.html

日本と先進国の水道水質基準等一覧表

http://www.jwrc-net.or.jp/chousa-kenkyuu/comparison/abroad04_03.pdf