今や日本は、産後に職場復帰する女性が5割を突破し、共働きがあたりまえの時代。 国や企業が育休制度や時短制度を充実させるなど、さまざまな試みが始まっていますが それでも、働くママたちの悩みや問題はつきません。 今後の社会、企業、そして私たち自身はどう向き合っていけばいいのか ―― 。 育児や女性の働き方に関することのプロ、イキイキと働く先輩ワーママ、ずらり12人のみなさんにCHANTO読者が今、すべきこと、考えるべきことを語っていただきました!(CHANTO2017年7月号より)
[ワーママ×社会]
働きがあたりまえになった今、女性が社会の第一線で輝きはじめたその陰で、 ワーママたちが働きづらさを感じる理由はなんなのでしょうか?? 今、社会や企業、私たちは何をすべきか、女性の働き方に詳しい方々に意見をうかがいました。
議題:復職後に感じる働きづらさや モチベーションのダウンを どう乗り越えればいい?
復職後は、働き方や意識を変えるべき?
働くママが仕事のやりがいを失 なったり、昇進・昇格から遠ざかる現象をさす"マミートラック"と いう言葉に象徴されるように、復職後、モヤモヤ感を募らせるママは少なくありません。会社から気を使われ、"それなり"の仕事しか与えられない、補助的な業務を割り振られるなど、それまでと働き方やポジションが変わったとき、仕事にどう向き合っていけばいいのでしょうか? 「マミートラックは"ここがマミートラック"という枠があるわけではなく、本人の受け止め方が大きいのは事実」と中野円佳さん。 さらに、マミートラック後のビジョンが見えないことがいっそう不安 をあおっていると話します。「総合職では、一時的に別の部署に異動して 〜 年で元の部署に戻るのはめずらしいことではありません。 しかし、日本では産後に復職するママの歴史はまだ浅く、時短勤務時のサポート業務から、元の出世コースに戻るといった前例がまだ 少ないのが現状です」 では、会社側は復職したママ社員をどう見ているのでしょうか。 元祖"イクボス"でもある川島高之さんは「"時短だから時以降は 働けません!"など、権利の主張 を先行させてしまうと、会社も"では、サポート的な仕事で"と配慮 せざるをえない。できないことの主張でなく、できることを明確に伝えることが大切」と話します。「そもそも、子育てと仕事の完璧な両立は容易ではないもの。そこは自覚しておいて。それに、一時的に希望の部署から退いたとしても、すべてマイナスととらえる必 要はありません。まずは、今、与えられた仕事できっちり成果を出すこと。そうすれば、スキルの幅が広がり、信頼度もアップする。 責任あるポジションに戻れるはずです」
ワーママの増加で見えてきた働き方改革の課題
「やっと保育園に慣れたら、小1の壁、 2人目のタイミング...と次々にハードルが現れる。元の部署に復帰したいと思っても、気軽に手を挙げられる環境にないのも女性 たちを悩ませる原因では」と中野さん。では、時短勤務でも、責任あるポジションを守るためには何 が必要なのでしょうか?「企業サイドの評価のしくみの改善です。 長時間労働を減らす働き方改革は今後、より必要になるはず。総合職は"ここまでが自分の仕事"という区分けが不透明なため、結果的に、 なんとなく会社に長くいる人が"頑 張っている"と見なされていた。これからは、フレックスタイム制や 在宅勤務などフレキシブルな勤務 体制を導入するなどの工夫が必要。そうなれば、時短勤務でも十分に 結果を出せ、成果に対して評価さ れるようになっていくはず」。 また、川島さんは、女性が活躍するには、男性の育児参加が必須条件だと言います。「夫が早く帰宅できれば、すべてを母親ひとりで背負わなくてすむはず。ただし"飲み会も仕事のうち"のような価値観や会社の体制では難しいのが現状。ワークライフバランスの重要性を、管理職や男性にも浸透させることが大切になっていくと思います」。
離職後のブランクは復職のハンディになる?
出産や夫の転勤を理由に一時、キャリアを手ばなしたママが、職場復帰をめざしても、キャリアダ ウンするしかないというあきらめの声に対しては——。 「企業の環境さえ整えれば、キャリアを中断した人でも復帰の道は開けます」と 励ますのは永石尚子さん。会社に とっても、せっかく投資して育てた人材をサポート業務だけにとどめるのはもったいないと指摘します。「一から人材を育成するより、経験者のスキルをまったく別のポジションで有効に活用する方法を考えるほうが企業にとっても得策。育児やPTA活動などで得た知恵、力などのライフキャリアもあわせて評価していけるしくみが必要になります」と永石さん。川島さんも「私もPT A活動に参加していましたが、異職種や価値観の違う人たちとの交流はあらゆる意味で刺激的。ここから仕事のヒントを得ることもありました」と言います。 企業サイドの試みも少しずつですが始まっています。「たとえば、 ANAグループにはさまざまな人材制度があり、ANA総合研究所では企業理念の礎をもつ元社員が 提携大学の講師などで活躍しています。子育てや他職を経験した人材を新たな価値創造の戦力として活用しています」と永石さん。こうした選択肢の拡充が、子育てなど、さまざまな理由で就業継続を断念した女性を救い上げるきっかけになっていると話します。元いた職種だけがキャリアアップの道とはかぎりません。働くママは視野を広げ、企業は新たなステップアップのチャンスを用意することが大切だと思います」。 「転職市場も現在は盛況。4年間のブランクがあっても、キャリアを積み直すことは可能です」(中野さん)。
継続的な努力が、キャリアアップの突破口になる!
やりがいを感じたいのであれば、 自身が貪欲に学びつづける姿勢が大切だと3人は話します。「個人のスキルを会社に育ててもらう時代は終わりました。自分の能力は自分で高める時代」(川島さん)。「"ママだから""年だから"とみずからあきらめないで。たとえば大学の募集要項には、年齢制限はありません。学ぼうと思えば、学べる環 境は整っていますよ」(永石さん)。 評価のしくみ、働き方の多様化が実現すれば、私たちの活躍の場は広がりそうです。まずは、その種まきを現役ワーママがポジティブ にしていくこと。そこから、社会はゆっくりと変わるはずです。
会議に参加してくれたのは、この3名
「企業の評価システムの改善や、仕事の効率化の見直しが急務!」
女性活用ジャーナリスト
中野円佳さん
日本経済新聞社記者時代、育休中に執筆した論文をもとに『「育休世代」のジレンマ』 (光文社新書)を出版。2015年に株式会社チ ェンジウェーブを立ち上げる。1歳と 5 歳の 2 児の母。現在、シンガポール在住。
「今、目の前にあるものを精一杯成し遂げた先に、新しく見えてくるものがある」
NPO「コヂカラ・ニッポン」代表
川島高之さん
三井物産を経て、系列上場会社の社長に就任。2016年、社長を退任して独立。小・中 のPTA会長も経験、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事。元祖イクボスとして各メディアや講演会で注目を集める。
「社会や企業がライフキャリアの価値を認めれば、女性はもっと輝けます」
キャリアコンサルタント
永石尚子さん
ANAの国際線CA(チーフパーサー)とし て12年間勤務。退職後、7年のブランクを経てANA総合研究所で客員研究員として再びANAグループに。慶應大学SFC研究所上席所員。戸板女子短期大学などで講師として登壇。
取材・文/宮本さおり