「ぼく、サッカー選手になる!」
「この種目でオリンピックに出るのが夢」
…お子さんにそう言われたら、できる限り応援したくなるのが親心ですよね。
しかし、アスリートやプロスポーツ選手としてやっていくこと自体もさることながら、もし夢が叶ってプロになれたとしても、いずれ年齢や故障によって選手生命が終わった後のことも考えておかなければなりません。
今回は、スポーツ選手やアスリートの「セカンドキャリア」とは何か、お子さんが小さいうちに親がやっておくべきことは?などについて解説します。
目次
スポーツ選手の「セカンドキャリア」とは?
「セカンドキャリア」という言葉そのものは、世の中で働く人々に広く当てはまり、転職してこれまでとは違う経験や職歴を積んでゆくことを指します。
しかし、近年では特にスポーツ選手やアスリートにとってのセカンドキャリアが注目されることが増えてきました。
1980年頃までは、プロ野球選手・プロゴルファー・プロレスラーなどをのぞき、多くのアスリートは学校を卒業すると企業に就職。アマチュア選手として、会社名を背負いつつ活動することがほとんどでした。
そして現役引退後はその企業で社員として働き続けることが可能だったのです。
しかし、バブル経済崩壊後、経営が苦しくなった多くの企業では予算が確保できなくなり、スポーツ事業からの撤退が相次ぎました。
現在、オリンピックや世界大会に出場するレベルのアスリートの多くが独立してスポンサー企業と契約、みずからコーチを選びトレーニングするという方式に変わってきています。
しかしこの場合、現役引退とともにスポンサー契約は終了。その後はどうやって生活していくのかという問題が起こります。
一般企業で働くにしても、それまでスポーツに打ち込んできたためにビジネスマナーやパソコン操作などのスキルがなく、急には難しい場合もあります。
こういった現役引退後のキャリア構築の見通しについて、お子さんがスポーツ選手を目指すママ・パパは知っておく必要があるでしょう。
アスリート引退後は世界と日本でどう違う
現役引退後、解説者や監督などに就任し、そのスポーツに関わり続けるアスリートももちろんもいますが、全体のうちの割合はごくわずかでしょう。
それ以外の選手は実際にどのような方面に進むのか、またその方法について、海外と日本の状況を比較してみました。
海外アスリートのセカンドキャリア事情
アメリカで国民的人気のスポーツといえばフットボール(アメフト)ですが、実は、引退したフットボール選手の78%が、2年以内に自己破産や離婚・失業などを経験するというショッキングなデータもあります。
いっぽうヨーロッパでは、活躍が期待される若いアスリートには、高校レベルの学力テストによって、勉強が得意な子は大学進学、標準的な学力なら軍隊、警察、消防士などの公務員としての就職や、引退後2~3年のビジネススキル習得期間が国によって用意されています。
カナダでも、国が「ポスト・オリンピック・エクセレンスシリーズ(オリンピック後のキャリアサポート)」を運営。選手は現役引退後のキャリア構築方法などを無料で学ぶことができます。
イギリスでは、社会人向けの資格取得や専門知識を学ぶビジネススクールに「ライフ・アフター・スポーツ(スポーツの後の人生)」というカリキュラムがあり、現役時代から知識を身につけていくことも可能です。
日本のアスリートの現状
そして実は日本にも、アスリートに向けた引退後の支援制度や団体は複数あります。
競技人口が多く、いくつものチームを持つプロサッカー・プロ野球連盟では、独自に引退後の選手の就職サポートなども行っています。
しかしその利用率はかなり低く、また就職先を紹介するだけでは仕事内容や適性・収入面などで長続きしない可能性もあります。
この背景には次のような問題点があります。
- 近年の少子化で、私立高校や大学がAO入試やスポーツ推薦を拡大。学力を気にせず入学できるようになったため、ビジネスに必要な能力がほとんど身についていないまま卒業して20代後半~30代になってしまう
- 多くの日本企業がまだ新卒での採用を重視している
- 選手自身がその後のキャリアについて情報を得る手段がないまま引退を迎えてしまう
- 選手自身に第一線で活躍してきたプライドがあり、支援窓口を訪れようとしない
セカンドキャリアの構築には、選手自身が、スポーツ以外の世界ではどのような働き方・生き方があり、自分には何が向いていてどのような強みがあるのか…を客観視できることが欠かせません。
その部分のサポートが、日本ではまだ十分に機能していない状態といえます。
世界的なサッカー選手・指導者として活躍する本田圭佑さんも、現在、アスリートのキャリアをサポートする事業に出資しており、
「引退後ではなく現役のうちから情報を得て、他の分野で働く人たちとも接するなど、複数の選択肢を持っておくことが大切」
と語っています。
本来、スポーツ選手のポテンシャルは大きい
今後は「人生100年時代」が訪れる見込み。現在の子どもたちは、スポーツ選手としてよりもその後の方がずっと長く生きることになります。
経済産業省は、「人生100年時代の社会人基礎力」として以前から次の3つの能力を挙げています。
- 考え抜く力(シンキング)…課題を発見し、計画力や想像力を働かせて最後までやりきる
- チームで働く力(チームワーク)…相手に共感するとともに自分の思いを発信して協力する
- 前に踏み出す力(アクション)…変化に前向きに対処し、主体的に物事をすすめていく
上記はどれも、スポーツで一流になるためにも欠かせないものですね。
スポーツでプロ選手になったりオリンピックに出場したりする人は言うまでもなく、学生時代を通じてスポーツに打ち込んだ人、記録を出してきた人なら、スポーツを通じて必ずこいうった能力を身につけているはず。
それなのに、引退後の仕事においてこのポテンシャルを発揮できないとしたら、本人にとって残念なだけではなく、将来スポーツ選手を目指す子どもたちにとっても大きなマイナスとなります。
今後、日本のスポーツが発展していくためにも、企業や社会は、優れた選手を発掘したり育成・強化するだけではなく、引退後も人生や社会でその能力を発揮できるよう、さらに制度を整える必要があります。
「スポーツ選手のセカンドキャリア」まとめ
最近では、サッカーや野球だけでなくテニス・卓球・ラグビー・スケートなど世界的に活躍する日本人選手が増えてきて、子どもたちの夢も広がりますね。
将来のことまで見据え、安心して応援できるよう、ママ・パパも今から情報はしっかりと集めておきましょう。
文/高谷みえこ