2019年12月に国会で成立した「改正教職員給与特別措置法」。

 

この法案によって、学校の先生たちが今まで以上に長時間働くことになるかもしれない…と問題になっています。

 

ちょっと耳慣れない単語かもしれませんが、公立の小学校にお子さんが通っていたりこれから入学する予定のママ・パパには確実に関係してきそうです。

 

そこで今回は、学校の先生の「変形時間労働制」について、いきさつや問題点、親にできることなどを分かりやすく解説していきます。

目次

学校教員の「変形時間労働制」とは

一般的な会社では労働時間は「朝9時から夕方5時まで」のように決められていて、それを超えると残業手当が支給されますよね。

 

しかし学校の先生は、一般企業とは異なる「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)という法律によって月給の4%分の「調整金」が支払われるのみで、どれだけ長く学校に残って働いても、いわゆる残業代が支払われることがありません。

 

この法律が作られたのは1972年(昭和46年)。当時は先生たちも定時に近い時間で仕事を終えられていて特に問題がなかったのかもしれません。

 

しかし、時代が進むにつれて、子どもたちのための授業の準備以外に書類作成などの事務作業や会議・研修、部活動の顧問などの仕事が増え、先生たちの長時間労働が社会問題となってきました。

 

みなさんのお子さんの学校でも、「○○先生、長期休養だって」という話を聞いたことはないでしょうか。

 

実際にたくさんの先生が過労で心身を病んで休職したり、育児や介護と両立できずに退職したり、最悪の場合、過労死という悲劇も起きています。

 

そこで2019年、「学校の働き方改革」の一環として、上記の「給特法」の改正が国会で審議され、その中に「変形労働時間制(へんけいろうどうじかんせい)」が盛り込まれることとなりました。

 

もともと「変形労働時間制」とは、時期によって忙しさが大きく異なる業種の企業などが、労働時間を月または年単位で調整し、忙しい時期は長時間働き、閑散期には時短勤務や長期休みを取り入れることで、月または年単位で労働時間を調整しましょう…という制度です。

 

この方式を学校の先生にも取り入れ、学期のはじまりなど繁忙期は長く働くかわりに、夏休みにまとめて休暇をとるなどしてリフレッシュできるのではないか、と考えられています。

 

どのような時間配分にするかは、国が一律に決めたり各学校が自由に決めたりするのではなく、現場の状況を聞き取った上で自治体が判断するとされていて、早い自治体では2021年春から導入される見込みだそうです。

先生の働き方はどう変わる?問題点はどこに

国の調査では、小学校の先生の約30%、中学校の先生では約60%が、「過労死ライン」を超える月80時間以上の残業をしていたという結果が出ています。

 

法の改正によって先生たちの負担が減るかと思いきや、この改正には現場の先生を中心に全国から反対の声が上がりました。

 

オンラインの反対署名は6万人に近づいているといいます。

 

いったいどの部分が問題なのでしょうか。

 

授業の準備や子どものケアの時間が取れなくなる

これまでは、たとえば終業時間が17時なら、もし先生たちが遅くまで学校に残っていても、その時間は「終業後」なので全員出席の会議や研修を設定することはできませんでした。

 

しかし、変形時間労働制によって19時まで終業時間が伸びた場合、堂々と「18時から会議」とすることが可能になります。

 

会議終了後に先生たちが帰宅時間が迫っている中で明日の授業準や子どもたちの様子の振りかえりをするとしたら、ますます十分な時間は取れなくなってしまうでしょう。

部活の顧問を強制される

おもに公立中学校で先生が部活動の顧問をする場合、本来は任意で引き受けるものですが、一部の学校では強制的に受け持つようになっていると言われます。

 

保護者や子どもの側としては、しっかり練習して成果を出したいという気持ちもありますが、中には部活後に授業の準備などで遅くまで働き、自分の家族と過ごすことも休息することもできていない先生もいます。

 

新しい制度によって、例えば春や秋・大会のシーズンなどは19時まで勤務と決まれば「顧問をする時間ができた」としてより断りにくくなる可能性もあります。

 

育児や介護、家庭と両立できなくなる

男女に関わらずお子さんを育てている先生や介護をしている先生たちも当然います。

 

しかし、終業時間が遅くなると保育園のお迎えやケアセンターの送迎時間に間に合わず困ることに。

 

国の方針では「育児中の教員への配慮は大前提」としていますが、実際には周囲に遠慮して言い出せないことも十分考えられます。

 

また業務の負担が増えた同僚からの不満が増し、結局退職に追い込まれる可能性もないとは言えません。

 

トータルで見ると休みが減るだけ

変形時間労働制では、「春や秋に多く働いた分、夏休みを5日間とりましょう」という提案がされていますが、それは「代休」であり、もし5日休んだとしても、本来取得するはずの夏季休暇や年次休暇を使えなくなる可能性が大きいと言われています。

 

そうなると、年間トータルしてみれば休みが減っただけ…となりかねません。

子どもたちへの影響は?何か良い方法はある?

では、「変形時間労働制」の導入によって、子どもたちはどんな影響を受けるでしょうか。

 

いまでもギリギリのラインで働いている先生が多い中、さらに時間的・身体的負担が増せば、授業の質が落ちることは想像に難くありません。

 

また、先生の労働環境が悪くなればなるほど「先生になりたい」と思う学生は減ってしまいます。

 

SNSでも、大学生からの

「本当は先生になりたいわけじゃないけど、教員採用試験は倍率が低いから受ける」

反対に

「本当は先生になりたいけど、この待遇では続けられないのが分かっているからあきらめる」

といった発言が見られます。

 

そうなると、授業の質やクラスの雰囲気はますます心配なものに。

 

国でも、上記の問題を解消するため、次のような点を検討しています。

 

  • 教職員の増員
  • 業務内容の効率化、ムダな事務手続きの簡略化
  • プログラミングや英語など専門分野の講師外部委託
  • 部活顧問やコーチの外部委託
  • 変形時間労働制を実施する場合の条件の明確化
  • 実施前には現在の勤務実態を正しく把握する
  • 育児・介護などに関わる教員への配慮と周囲へのしわ寄せ防止
  • 残業時間の正確な記録と、超えた場合の管理職への罰則
  • 残業上限時間が守られない、持ち帰り等が発生する場合の相談窓口設置

 

これらは具体的に改善が進んでいるものもありますが、まだ希望・要望にとどまっているものも多くあります。

 

子どもたちの親としては、子どもの学力や様子も見つつ、上記に関心と理解を持っておくことが大切だといえるでしょう。

「変形時間労働制」のまとめ

子どもの人生にとってとても重要な、9年間もの期間を過ごす小学校と中学校。

 

ぜひとも、教師が安心して授業の準備やスキルアップに時間を使えるような環境や待遇を整備し、熱意・能力・人間性を兼ね備えた先生に1人でも多く集まってほしいですね。

 

文/高谷みえこ

参考/文部科学省 中央教育審議会 初等中等教育分科会「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(第9回)議事録・配付資料」

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案」

Change.org「【緊急署名】子どもたちの為にも これ以上教員を疲弊させないで… 定時を延ばし 残業を隠す「変形労働時間制」 は撤回して下さい!」