日本の育児休業制度そのものは世界でもトップレベルの充実度なのに、男性の取得率はいまだに6.16%となかなか進みません。

 

しかもその数少ない育休取得男性の3人に1人が、なんと家で平均2時間以下しか家事育児をしていなかったことが最近になって分かり、「とるだけ育休」として問題になっています。

 

今回は、現役の子育て世代のママ・パパから「とるだけ育休」についての意見を聞かせてもらいました。

ママたちの体験談「大きい子供が1人増えただけ」?!

まずは、夫が育休をとったものの、その内容に不満だったというママたちの体験談を聞かせてもらいました。

 

「夫は育休を自分のお休みと思っているフシがありましたが、いざ休みになってみると予想通り、オムツ替えや授乳はもちろん私が赤ちゃんの世話をしている間に家事をすることもなく。何か頼むと不機嫌になったり、強く言うとキレる始末…大きな子供をもう1人世話しているのと同じでした」(Uさん・32歳・3歳児と1歳児のママ)

 

と、うわさ通りの「とるだけ育休」だったようです。

 

Yさん(30歳、1歳児のママ)は、夫の育休中にこんな経験をしたそう。

 

「夫が2週間の育休を取りましたが、初日に洗濯物干しを頼んだら、物干しスペースが足りないと言って日曜大工をはじめました。早く次の家事に進んでもらいたいのに…。結局私が全部ほかの家事をやり、途中、赤ちゃんが泣いている間だけでも抱っこしてと頼んだら、取り込み中だからムリと断られました」

 

と話します。

 

「この人は会社でも自分の興味のある仕事だけやって、それ以外は他人に押し付けてるのかな…と、あらぬところで夫の評価が下がりました」

 

と、夫に悪気はないものの、逆効果となってしまったようです。

育休は産後クライシスを防ぐ、だけど…

出産後の女性に起こる価値観の大きな転換のことを「母性のコンステレーション」といい、出産とともに「一番大切な存在」が、恋人や夫から子どもに切り替わることを指します。

 

ただし、一時的に夫への愛情が下がっても、この時期によき育児のパートナーとして寄り添ってくれた夫へは、その後赤ちゃんが成長してくると愛情を取り戻し、また仲良く人生を過ごせるといいます。

 

しかしこの時期に夫から育児や家事のサポートがないと、いったん下がった夫への愛情が戻ることはなく、最悪の場合は離婚などに至ってしまいます。

 

これを「産後クライシス(=危機)」といいます。

 

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男性の育児休業は、この産後クライシスや妻の産後うつを予防するのに大きな効果が期待できるとされていますが、それは、あくまでもしっかりとサポートができた場合の話。

 

もし、「とるだけ育休」で自分の趣味や休養に時間を使ってしまい、サポートどころか昼食の用意など余計に妻の仕事を増やしたりすれば、期待を裏切ったぶん、余計に産後クライシスの危険性を高めてしまうのではないでしょうか。

悪用はみんなのための制度を台無しにする

世の中には、本来とてもいい制度なのに、一部の人の利己的な行動のせいで

 

「だから○○はダメなんだ」 「○○なんて使うものじゃない」

 

という目で見られてしまい、結果、該当する人みんなが不利益をこうむる…ということが時々起こります。

 

  • 生活保護を不正受給する一部の人のせいで、本当に困っている人が受給を断られる
  • 一部の外国人労働者の犯罪で、海外から移住してきた人が就職や賃貸契約を断られる
  • 電車内などでマナー違反する一部の親のために、ベビーカーの親子すべてが迷惑という目で見られる

 

などがその例。

 

同じように、もし誰かが育休制度を悪用して遊びに行ったり、それをSNSなどで自慢したりすれば、これから育休取得を考えている男性全体が「どうせ遊びにいくんじゃないの?」と職場から疑いの目で見られてしまいかねません。

 

「とるだけ育休」の男性がいるとしたら、自分の妻と子どもはもちろんのこと、これから育休を取得したいと考えているすべての男性とその家族にまで害を及ぼしていることを深く反省してほしいと思います。

そもそも、まだまだ取得率が低すぎる

男女共同での育児参加が進んでいる北欧では、男性の育休取得率は70~80%にも達する国がほとんど。

 

対して日本の男性の取得は2018年になっても6.16%とはるかに低い水準のままです。

 

しかもそのうちの3人に1人が「とるだけ育休」という現状だとしたら…。

 

日本の男性がなかなか育休を取得できない背景には、「周囲に迷惑をかけるのではないか」「仕事上の評価が下がったり、不利に扱われるのではないか」といった懸念が存在します。

 

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現状では、非常に育休取得の意志が強い男性、または自分が休めればOKで「職場への影響は気にしない」というタイプの男性と、ある意味で両極端の人しか育休を取れていないのかもしれません。

 

しかし、もし「育休を取得した男性へ不利な扱いをした企業には罰金を課す」など思い切った改革が行われ、上司の責任において育児休業が取れる環境を保障することになったらどうなるでしょうか。

 

現状では、責任感の強い男性は職場にその責任感が向かってしまい「自分が仕事しないとみんなに迷惑をかけるから…」と言い出せずにいる人も多いでしょう。

 

しかし、制度改革でその責任感を家庭に向けられれば「自分がこの子を見ておかないと、階段から落ちるかもしれない」のように、責任を持って育児に関われるはず。

 

そして、育休中に何をどのくらいやったのかレポートにまとめて提出することで、しっかりと役割が果たせたパパには、育休中の収入(通常の67%)が100%まで補充される…などの制度もぜひ作ってほしいと思います。

育休までにやっておくべきこと

男性の育休取得はまだ低いとはいえ、若い世代では「育休を取りたい」という男性も増えています。

 

今後、少しずつ取得できる男性が増えた場合にも、仕事の引継ぎなど職場の段取りをして育休をスタートするだけでは、いざとなっても何をすればいいか分からず、けっきょく「とるだけ育休」になってしまう可能性もあります。

 

職場同様、家庭の方でも事前の準備は欠かせません。

 

特に、男性は「マニュアルがある方がやりやすい」という人も多いもの。

 

出産後は何かとバタバタするため、前もって家事や育児をステップごとに書き出して「見える化」しておくのも良い方法です。

 

例えば、仕事が忙しくあまり家事の流れを把握していない夫にとっては「ゴミ出し」とは「外のごみ収集所にゴミ袋を出しに行く」と認識している可能性があります。

 

しかし実際には、

 

  • ゴミの回収スケジュールを知っておき、いつでも確認できるようにしておく
  • ゴミ袋を種類サイズことにストックしておき、なくなる前に補充する
  • ゴミ箱のゴミを集めて新しいゴミ袋をセットする
  • ゴミ箱本体を時々掃除する

 

などの作業が発生するため、書き出すなどして事前に知っておいてもらえるといいですね。

 

スマホアプリでも、作業を設定しておくと、それぞれどこまで進んだか進捗が一目で分かるものもあります。

おわりに

育児休業に関しては、日本はまだまだ過渡期といえます。

 

せっかくの制度が「絵に描いたモチ」では、産後うつや産後クライシスの防止は期待できないばかりか、第2子・第3子を産んで育てようという一歩も踏み出せないでしょう。

 

パパになった男性が職場で不利益を被ることなく育児休業を取れて、妻や子どもとの幸せな未来のためにしっかりと家事・育児をできるような仕組みの早い実現が望まれます。

 

文/高谷みえこ

参考/厚生労働省「H30年度雇用均等基本調査」

‎スマホアプリ「Yieto:家事分担のモヤモヤを解消する」