2019年1月、香川県議会が「子どもの不登校にスマートフォンやコンピューターゲームが影響している」として条例で制限時間やルールを計画していることが分かりました。

 

これに対して賛否さまざまな声が上がっています。

 

今回は、著名人やSNSを中心とした一般の人たちの声に加え、独自にアンケートした現役育児世代の声を拾い上げ、どの部分が問題なのか、今後どうなっていくのかを考えてみます。

香川県「ゲーム時間制限」内容といきさつ

今回注目を集めているのは、香川県議会の委員会が2019年4月から県内の18歳以下の子どもに向け「ゲームをするのは1日60分まで」など時間制限を定めた条例案の内容です。

 

案によれば、インターネット・ゲームによる依存症が子どもの不登校に影響があるとして、

 

  • コンピューターゲームは1日60分まで
  • スマホの利用は中学3年までは午後9時まで
  • 高校1年生以上は午後10時まで

 

と定め、保護者や事業者はこのルールを子どもたちに順守させるよう努めなければならないとされています。

 

当初、1月10日に示された素案では「スマートフォン等の利用」を1日60分までにしていましたが、学習に必要な調べ物などもダメなのかという疑問や批判が集まったため、20日にはおもにスマホでの利用を想定した「コンピューターゲーム」に対象を変更しました。

 

ゲーム依存症と不登校の関連性については香川県が以前から調査していた結果とのことですが、現在のところ詳しいデータは公開されていません。

 

制限時間を超えた場合の罰則は設けられていませんが、保護者は子どもが長時間ゲームをしているのを見つけたらやめるよう指導し、学校にも連絡することになっています。

 

ちなみに2019年度の全国学力・学習状況調査の結果によれば、香川県の公立小中学校の子どもたちの学力は全国平均と比較して、プラスマイナス0~プラス1、部分的にマイナス1~2という程度。飛びぬけて低いということはありません。

 

ただし、本当にゲームやスマホの利用時間が学力に影響するとしたら、利用時間が増えているのは全国ともおそらく同じ状況のため、各県に大きな差が出ていないだけという考え方もあります。

大阪府知事や著名人の反応は?

この条例案に対し、大阪府の松井知事は、報道陣に「大阪でも条例化する可能性はありますか?」と意見を求められた際、

 

「現場の先生からは、スマホやゲームの長時間化が子どもの引きこもりにつながっている可能性を指摘されている。ただ専門家の判断やエビデンスは必須。事実確認・事態検証をやり、根拠を持った結果があれば検討する」

 

「不登校や成績低下といった子どもへのマイナス面を取り除くための手段としては考えうる」

 

と一定の理解を示しました。

 

いっぽう、香川県庁職員の田口隆介氏は、自身のフェイスブックで次のような問題点を提起。

(a)家庭で決めるべき事項に介入する問題点、自己決定権の侵害 (b)インターネットの利用時間を制限することの非現実性 (c)子どもの権利条約との矛盾 (d)各部局のネット・ゲームを利用した広報・振興戦略との矛盾

と述べています。

 

タレントのマツコ・デラックスさんは、1月13日に放送されたTV番組のなかで、

 

「授業で使うタブレットと、SNSとかゲームをやるのは全然違うもの」

 

として、スマホやゲームについて

 

「自分でやめられればいいんだけど、そうじゃないくらい深刻になってきてるんだったら、ある程度時間を区切らせるのは必要じゃない?」

 

と、理解できるという意見を示しました。

 

脳科学者の茂木健一郎氏は、

 

「ゲームを制限したり禁止するのではなく、ゲームワールドの最先端、グローバルな地図を子どもたちに教え、日本の遅れたしょぼい学力感をアップデートしたらいい」

 

と動画の中で語っています。

 

精神科医の斎藤環氏は、SNSで

「ゲーム依存の対策は、PCやゲーム機を捨てることじゃない。セルフコントロールの獲得だ。規則や禁止は自制心の発達を阻害する」

と、どんどんゲームをすればいいと発信。著名人の中でも様々な受け止め方があることが分かります。

世間の人々はどう思ってる?

SNSなどでは、幅広い世代から次のような声があがっています。

 

「今の子どもは、公園でのボール遊びはダメ、空き地や川に入っちゃダメ、外で騒ぐのもダメ…と禁止ばかり。その結果、遊び場がゲームの中になってしまった」

 

「そうやって、何かにつけ子どもを管理しようとするから不登校が生まれるのでは」

 

「今回の香川県の条例が通れば、私の県もそれに続くかも…ゲームできなくなるのは困る」

 

「そもそも、不登校の子からゲーム取り上げました→じゃあ学校行きますってなる?他に行きたくても行けないような原因があるからじゃない?」

 

「自分は20代ですが、子どもの頃はゲーム禁止でした。反動で今は毎日何時間もゲームに費やしてます」

 

「大人も何時間もパチンコしたり、テレビ見てますよね?仕事も1日8時間って決めてピッタリ終わらせたらどうですか」

 

など、時間制限や禁止は本質的な対策ではないという批判の声が多く見られます。

 

また、安倍総理がオリンピックのプレゼンでゲームキャラクターのコスプレをしたり、2019年の茨城国体では、eスポーツが「文化プログラム」として導入されるなど、ゲームにまつわるコンテンツをこれからの日本文化の一部として盛り上げようという動きもある中、時代に逆行しているのではないかという声もありました。

ゲーム依存症、海外ではどうなっている

ITやインターネットの発展は、今や世界的な問題です。

 

世界保健機関(WHO)は、2019年5月から、アルコールやギャンブル依存症と並んで、長期間ゲーム以外の活動や学校・仕事に重大な支障をきたす「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定しました。

 

過去にオンラインゲームに熱中するあまり複数の死者も出た韓国では、16歳未満の子どもは午前0時~6時までオンラインゲームのプレイを禁止する「シャットダウン制」を実施。

 

中国政府も若者のオンラインゲームのプレイ時間を規制する措置を打ち出しています。

 

ただ、インターネット依存やゲーム障害と思われる症状のなかには、双極性障害や統合失調症、不安障害・発達障害・境界知能など、精神・発達領域の治療が必要な疾患が隠れている可能性も指摘されています。

 

日本で海外同様に「ゲーム障害」の国際基準を取り入れるにあたっては、多方面からの慎重な判断が欠かせません。

現役ママ・パパの声。今後どうなる?

いま小さい子を育てているママ・パパたちは、今回のようなゲーム規制条例が全国に広がったとしたらどう受け止めるのでしょうか?

 

0歳から14歳のお子さんがいるママ・パパに「ゲーム時間を条例で制限することをどう思うか」とアンケートを取ってみたところ、

 

  • 賛成…55%
  • 反対…45%

 

と、賛成が反対を少しだけ上回りました。

 

賛成派の小学校2年生の女の子のママTさん(38歳)は、

 

「学校からゲームやインターネット・テレビに接した時間を記録する取り組みや、依存症についての注意喚起などが配布されます。それを見て、もっと危機感を持たないといけないなと思うようになりました」

 

と話します。

 

3歳の男の子のパパYさん(32歳)も賛成派。

 

「ネット全盛のいま、あえて紙の本を読んだり野山で遊んだりすることで、多様性が重視される社会の中で将来勝てるのでは…と考えています」

 

2歳児と0歳児のママOさん(35歳)は反対派で、

 

「各家庭の事情があるのに、行政が決めることではないと思います。時間ではなくゲームとのつきあい方が大切なのでは」

 

という意見でした。

 

お子さんが中学生のRさん(39歳)はこんな不安も持っています。

 

「うちの子はゲームが好きです。また、ゲームクリエイタになるのが夢です。そうなると、1日1時間などではゲーム界では上を目指せないのではないか、夢に届くのかと心配です。各家庭やその子の個性によってでかまわないと思います」

もっと子どもの声も聞くべきでは

ただ、今回、どの報道にも一切出てこないのは「子どもたちの声」ではないでしょうか。

 

もちろん、直接テレビ番組のインタビューなどは不適切かもしれませんが、当事者の声を聞かずに決めたルールがうまくいくのかは非常に疑問です。

 

現在ゲームをしている小学生・中学生・高校生は、強制力はないとはいえ、時間制限が条例化することをどう感じているのでしょうか。

 

筆者のママ友の中で、お子さんとこの件について話した数人から、その内容をたずねてみました。

 

すると、実は子ども自身も「いいかげんやめて勉強しなければいけないことは分かってる。でもついダラダラと続けてしまう」と、外部の力で止めてくれたら…と感じることがある、という声が意外と多かったのです。

 

大人でも、ゲームはもとより、家事などの息抜きにちょっと眺めた動画をつい必要以上に見すぎてしまうと思い当たる人も多いと思います。

 

議論するにあたっては、当事者である子どもに加え、大人で実際に長時間ゲームをしている人(過去にしていた人)をまじえて幅広くヒアリングすることが不可欠でしょうか。

おわりに

今回の条例案は2019年1月23日に議会に提出され審議される予定です。

 

今の内容ならば施行されても罰則はないため、実際に子どもたちのゲーム時間がどの程度変化するかは未知数ですが、この機会に子どもとゲームの関わり方を1人1人が考えていきたいですね。

文/高谷みえこ
参考/NHKニュース「スマホ1日60分」を「ゲームのみ」に修正 条例素案 香川
[意見表明]香川県庁職員の私が香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案について思うこと
香川県「令和元年度 全国学力・学習状況調査の結果について(速報)」