小学生になると交通公園などでゴーカートに乗る機会があると思います。ゴーカートは一般乗用車と同じく足踏みペダルでブレーキやアクセルを操作します。一方、大半の列車は足ではなく手でマスコン(アクセルの代わり)やブレーキを操作します。ところが、世の中には足踏みペダルで運転する鉄道車両があります。今回は足踏みペダル式の鉄道車両を紹介します。

まずは一般鉄道車両の運転方法のおさらいから

最初に一般鉄道車両の運転方法のおさらいからはじめましょう。

 

一般的な鉄道車両の運転において最も大切な体のパーツは手です。鉄道車両の運転台には列車を進める「マスコン」と列車を止める「ブレーキ」があります。比較的新しい車両だと「マスコン」と「ブレーキ」が一体になったタイプも見られます。

 

運転士は「マスコン」と「ブレーキ」を手で操作することで、列車を運転します。一方、足は主に警笛を鳴らす際に使われますが、それ以外は使用しません。このように、一般的な鉄道車両と自動車、ゴーカートの運転はまったく異なります。

足踏みペダルで運転する鉄道車両「路面電車」

足踏みペダルで運転する鉄道車両の1つ目が路面電車です。と言っても、日本の路面電車ではありません。1930年代に開発されたアメリカの路面電車「PCCカー」です。

 

当時、アメリカの主要都市では路面電車が走っていました。しかし、自動車が増えると路面電車の人気は一気に落ち込むことに。「路面電車を復活するには新車両を開発するしかない!」ということになり、新世代の路面電車開発プロジェクトがはじまりました。

 

1930年代、新世代の路面電車「PCCカー」が誕生しました。「PCCカー」は高加速、高減速、低騒音、低振動が特徴の新車両。様々な新技術が採用され、路面電車のみならず現在の電車にも大きな影響を与えました。そこで採用されたのが足踏みペダル式の運転台です。自動車と同じように足元にペダル式のブレーキとアクセルが置かれ、足を使って運転します。足踏みペダル式が採用された理由としてはアメリカ国内で爆発的に普及した自動車と同じ運転方式だと運転士が楽になるのでは・・・という技術者の思いではないか、筆者はそのように想像しています。残念ながら一部を除き、アメリカでは路面電車が姿を消しましたが、「PCCカー」の技術は他国に伝わりました。

 

PCCカー」の技術を採用したのが中央ヨーロッパ、チェコの路面電車「タトラカー」です。「タトラカー」も足踏みペダルを使って運転します。

 

ところで、1950年代に東京でも「PCCカー」がテストされました。東京では足踏みペダル式の「PCCカー」をテストしましたが、本格的な採用にはなりませんでした。様々な理由はありますが、一つには運転士が足踏みペダルの運転台を嫌ったことが挙げられます。

 

足踏みペダルで運転する鉄道車両「DMV」

 

突然ですが「DMV」と呼ばれる鉄道車両を知っていますか? 「DMV」は「デュアル・モード・ビークル」の略。簡単に書くと線路と道路の両方を走れる新しい鉄道車両です。とは言っても、見た目はマイクロバスそのもの。「DMV」が道路を走ると、鉄道車両には見えません。ところが、15秒ほどでバスから鉄道車両に切り替えると堂々と線路を走ります。

 

DMV」の運転台は通常のマイクロバスとほぼ同じ。つまり、足踏みペダルを使ってブレーキとアクセルを操作します。運転方法は道路と線路とも同じですが、免許は自動車免許と鉄道車両を運転するための免許が必要です。

 

2019年12月現在、世界においてDMVを使った定期的な営業運転を実施している鉄道会社はありません。ですが、2020年度中に徳島県にある第三セクター、阿佐海岸鉄道がDMVを導入する予定です。導入されると、世界ではじめてDMVで定期的に営業運転を行う路線になります。予定ではJR牟岐線阿波海南駅~阿佐海岸鉄道甲浦駅間は線路を走り、両駅からは路線バスとして運行される予定です。

 

DMVは沿線住民の少ないローカル線で注目を集めています。足踏みペダル式のDMVが全国各地のローカル線で見られるのでしょうか。

とは言っても足踏みペダル式の鉄道車両は少数派のまま

これからも鉄道車両の大半は従来通り手を使ったマスコン・ブレーキ方式の運転台かボタン式の自動運転になるでしょう。つまり、足踏みペダル式の運転台は少数派にとどまると思います。やはり運転と「慣れ」は密接な関係にあるもの。よほどの理由がない限り、足踏みペダル式の運転台は採用されないことでしょう。

 

文・撮影/新田浩之