タバコを吸う本人ではなく、周囲にいる人が、吐き出した煙やタバコから出る副流煙など有害な物質を吸い込んでしまう「受動喫煙」。

 

赤ちゃんや子どもに受動喫煙が与える影響はどのようなものがあるのでしょうか。

 

受動喫煙に関する法律の最新情報や、ママたちのリアルな体験談も紹介します。

目次

受動喫煙が赤ちゃんや子供に与える影響
小さい頃からタバコの煙を吸っているとどうなる?

タバコが健康に悪いことはすでに医学的に証明されていますが、具体的にどのような悪影響があるのか、もう一度確認してみましょう。

 

厚生労働省の資料から、赤ちゃんや子どもに対する受動喫煙の影響を抜粋してみました。

・因果関係を推定する証拠が十分(確実):レベル1乳幼児突然死症候群(SIDS)、喘息の既往
・証拠は因果関係を示唆(可能性あり):レベル2低出生体重・胎児発育遅延、喘息の発症・重症化、呼吸機能低下、中耳の病気、う蝕(虫歯)、学童期の咳・痰・喘鳴・息切れ

タバコの害といえば、喘息や肺がんなどの病気がまっさきに思い浮かぶのではないでしょうか?

 

もちろん、喘息や咳など呼吸器系への影響は明らかになっています。

 

しかし最近では、以下のような、いっけんタバコとは関係なさそうなことにまで影響が及んでいることが分かってきています。

乳幼児突然死症候群(SIDS)

健康だった赤ちゃんが突然亡くなってしまう「乳幼児突然死症候群(SIDS)」。

 

今も完全に原因は解明できていませんが、周囲の大人の喫煙によって発症率が大きく違うことははっきりしてきました。

 

父親がタバコを吸う家庭ではそうでない家庭に比べて約2倍、母親が吸う場合は約4倍、両親とも喫煙していると約5倍~10倍もSIDSのリスクが高まるといわれています。

 

赤ちゃんは眠っている時に一瞬呼吸が止まる(無呼吸)ことがあり、通常はすぐにもとに戻るのですが、受動喫煙の影響下ではその後うまく呼吸が戻らない様子が見られるという報告もあるそうです。

受動喫煙で子どもの虫歯が増える!

家族がタバコを吸っているだけで、子どもまで「う蝕(しょく)」つまり虫歯のリスクが増えることも指摘されています。

 

これは、タバコの煙が子どもの口の中に触れると、煙に含まれる次のような成分の作用で、虫歯の原因菌が活性化するためと考えられています。

 

  • カドミウム…歯の結晶化を妨害し、表面にデコボコを作って歯周病菌の巣を作る
  • 鉛…殺菌効果のある唾液の分泌を阻害する
  • ニコチン…ミュータンス菌の歯への粘着度を高め、バイオフィルム(細菌の膜)を厚くする

 

また、ニコチンの「過成長作用」により、家族が喫煙する家庭では、乳歯が平均よりも早く生え始める赤ちゃんが30%多いことも報告されています。

 

低月齢では授乳回数も多く、ミルクや母乳を飲みながら眠ってしまうことも多い赤ちゃん。その時期に早く乳歯が生えてくると、より虫歯のリスクも高まるといえます。

受動喫煙で子どもの身長が伸びない…本当?!

筆者が中学生の頃、担任の先生が生徒にタバコの害を説明するために、「背が伸びなくなるよ」と話していた記憶があります。

 

これには科学的根拠があるのかと調べてみたところ、1980年のイギリスの専門誌に発表されたデータから、「タバコを吸う男子と吸わない男子の身長を比較した結果、12歳で約5センチ、17歳で10センチ近い差が見られた」という報告が見つかりました。

 

これは、喫煙時に一酸化炭素の影響で体内が常に酸素不足になり、いわゆる「成長ホルモン」を十分に分泌できないことが原因ではないかと考えられています。

 

12歳の子ども本人が喫煙しているケースは日本では珍しいかもしれませんが、受動喫煙でもかなりの影響があることは予想されます。

 

また周囲がタバコを吸っていると子どもに喫煙への抵抗感がなくなったり、誰もいない時にふと興味を持って吸ってしまい、より低年齢での喫煙のきっかけとなったりする可能性もあります。

受動喫煙で子どもの知能が低下するって本当?!

眠い時など、脳に十分な酸素が供給されていないと、頭がボーっとして思考力や集中力が低下することは誰にでも経験があるでしょう。

 

アメリカで5000人以上の子どもを対象に行われた、読解力や計算力などの能力と血中ニコチン濃度との関連を検討する調査では、ニコチンの血中濃度が高い=受動喫煙の度合いが高い子ほど点数が低かったことが分かっています。

 

この知能低下の度合いは軽度の鉛中毒並みだといわれており、家族が日常的に喫煙している子どもたちの成績や将来が懸念されています。

 

上記以外にも、副流煙に含まれる「タール」には明らかな発がん性がありますし、「中耳炎にかかりやすくなる」「骨がもろくなり、骨折しやすくなる」など、タバコには成長期の子どもにとってマイナスな影響が多数報告されています。

受動喫煙に関する法律はどう変わったか

2019年のラグビー世界大会や2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、公共の場での喫煙マナーが世界に通用するものになるよう、2018年7月に「健康増進法」の一部改正が決まりました。

 

改正の趣旨は大きく3つあります。

 

  • 「望まない受動喫煙」をなくす
  • 受動喫煙による健康影響が大きい子ども・患者等に特に配慮する
  • 施設の類型・場所ごとに対策を実施する

 

具体的にいうと、「望まない受動喫煙をなくす」については、逃げたくても逃げられない屋内では、多くの施設で原則禁煙となり、一般客が立ち入ることがなく基準を満たした喫煙室の設置が義務付けられます。

 

また、「子ども・患者等に特に配慮する」に関して、学校や病院など健康への影響が大きい人が多く利用する場所では、屋内のみならず敷地全体が原則禁煙になります。

 

平成29年の調査で、すでに90%以上の学校が敷地内全面禁煙を実施済みとのこと。

 

ここ数年の間に、運動会の前などお子さんの学校から禁煙に関するお知らせをもらったというママ・パパも多いのではないでしょうか。

 

「施設の類型・場所ごとに対策」というのは、おもに飲食店やショッピングセンターなど、多くのお客さんが訪れる施設でのルールです。

喫煙客も利用することが予想される喫茶店やバーなどでは、入り口と喫煙場所に「喫煙スペースあり」の表示が義務付けられ、「このお店は禁煙(または喫煙可)だから入ろう(やめよう)」と選択できるようになります。

 

居酒屋などには学生アルバイトも多いですが、未成年の従業員を喫煙エリアで働かせることも今後は禁止になります。

 

これらはすでに順次導入中で、オリンピック開幕を控えた2020年4月には全面施行される予定です。

「子どもの前で吸わない」だけではダメ?「サードハンドスモーク」にも注意

「うちでは子どもの前ではタバコを吸わず、ベランダに出ている」

 

「換気扇の下で吸っているから子どもには煙を吸わせていない」

 

喫煙している家庭の大人から、そんな言葉を聞くこともあります。

 

しかし、それだけでは子どもを受動喫煙の害から守り切れているとは言えないようです。

 

現在、本人が喫煙する「能動喫煙(一次喫煙)」、側にいる人が吸い込んでしまう「受動喫煙(二次喫煙)」に加えて注意すべきと言われているのが、「サードハンドスモーク(三次喫煙)」といわれるもの。

 

子どもがその場にいなくても、タバコを吸った後の室内の壁やカーテン・ホコリからはニコチンやタールなどの有害成分が検出されることが分かっています。

 

またタバコを吸った人の吐く息や衣類・髪の毛にもタバコの煙の成分は残留するため、換気扇の下やベランダ・庭先などで戸を閉めて喫煙している家庭でも、子どもの尿を検査するとニコチンの代謝物が検出されるということです。

 

しかも上記の検査で子どもの尿から検出されたニコチン量は、大人が外に出てタバコを吸っている場合と室内で自由に吸っている場合で差がなかったそう(喫煙しない家庭の子のニコチン検出量はゼロ)。

 

つまり、たとえ換気扇の下や外で喫煙しても、しっかり子どもに影響を与えてしまっていることになります。

 

さらに気をつけたいのは、屋外でタバコを吸うと、周囲(半径7メートル)まで受動喫煙の害が及ぶという点。

 

あるテレビ番組で検証した結果によれば、風のある日なら、20メートル離れても健康被害が出るレベルの物質が検出されたそうです。

 

ベランダに出てタバコを吸った場合、隣の家の洗濯物にニコチンやタールを含む「呼吸性浮遊粒子」を吸着させてしまったり、開けた窓から煙が入って隣人に受動喫煙させてしまう可能性もあります。

 

ご近所に喘息患者さんや妊婦さん・小さな子がいる可能性も考え、「パパにはベランダや庭でタバコを吸ってもらえば大丈夫」というわけではないことを覚えておきたいですね。

ママたちの体験談&わが子を守るためにやっていること

今回、0歳から14歳までのお子さんを持つママ・パパにアンケートを実施。

 

子育ての中で受動喫煙について気になったことを聞いてみたところ、次のような体験談が寄せられました。

 

「路上で歩きタバコの人とすれ違う時は、子どもの顔の高さなのでいつもヒヤッとします。人通りが多いと、近づくまで気づかないこともあるので。遠くから気付いたときは早めに反対側の歩道に移動します」(Kさん・35歳・3歳児と0歳児のママ)

 

「スーパーやコンビニの入口近くにある喫煙スペース。通り過ぎると一瞬で髪や服に匂いがついてしまうこともあり、とても嫌です」(Sさん・34歳・1年生と3歳児のママ)

 

「若い人のほうが受動喫煙に配慮してくれる傾向があり、年配の方は小さな子や非喫煙者がいても気にしない傾向が強いと感じます。特に、屋外でのバーベキューなどでは気持ちが開放的になるのか、次々タバコに火をつけはじめるので、気付いたら早めに離れるようにしていますが…」(Tさん・33歳・4歳児と2歳児のパパ)

 

「最近は禁煙席と喫煙席がしっかり分かれている飲食店が多いですが、先日、子どもと喫茶店に入ったら、禁煙席と喫煙席が分かれてはいたものの、壁がないのでタバコの匂いがひどく、あきらめて店を出ました」(Aさん・35歳・6歳児のママ)

 

「月1で遊びに行く義実家は、義母も夫の弟も喫煙者です。家の中では台所の換気扇の下でタバコを吸うので娘は近寄らせません。でも外食の時は必ず喫煙席·····。娘の目の前でも平気でタバコを吸うので本当に勘弁して欲しいです。たかが数時間の食事の間も我慢出来ないのかとイライラします」(Jさん・33歳・2歳児のママ)

 

「夫が喫煙者です。子どもが生まれて電子タバコに変え、外へ吸いに行っていますが、最近アメリカでも電子タバコで呼吸器系の病気が相次いでいますよね。夫と子ども、どっちも心配なので早く禁煙してほしいです」(Mさん・30歳・1歳児のママ)

 

「駅までの道沿いに喫煙所があり、前を通っただけですごい匂いが…。そこを避けるようにすると遠回りなのですが、子連れの時は通らないようにしています」(Uさん・30歳・1歳児のママ)

受動喫煙のまとめ

現在、公共の場所での喫煙については「マナーからルールへ」を合言葉に、法的に大きく変わろうとしています。

 

しかしプライベートな場である家庭についてはまだ法の規制が及んでいないのが現状。

 

また、路上の歩きたばこなども、子どもやペットなど体が小さいほど被害を受けやすいのが現状です。

 

海外ではすでに家庭内で受動喫煙をしない・させないための法規制が存在している国も多くあります。

 

大人は喫煙するかどうかを自分で決めることができますが、子どもは周囲の人の喫煙の有無を選ぶことはできません。

 

子どもたちの将来のため、今後、家庭内や屋外での喫煙ルールについてもいっそうの議論が進むことを願っています。

 

文/高谷みえこ

参照/ e-ヘルスネット(厚生労働省)「受動喫煙 – 他人の喫煙の影響」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-005.html

公益社団法人 日本歯科衛生士会「受動喫煙と子どものう蝕(虫歯)の関係の説明」 https://www.jdha.or.jp/pdf/health/hatookuchi_2018060101.pdf

厚生労働省の「TABACCO or HEARTH」最新たばこ情報 http://www.health-net.or.jp/tobacco/front.htm

Journal of Epidemiology and  Community Health Vo34,298-295(1980)K.B.Lall et al.

Johansson A, et al. Pediatrics. 2004; 113: e291-5.

政府広報オンライン「屋内は原則禁煙に!受動喫煙をなくすための取組が変わる!」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201907/2.html