中川翔子

いじめは人の心を深く傷つけ、最悪の場合、その人や家族の人生まで奪いかねない行為です。もしわが子がいじめにあったら…と想像するだけで恐怖を感じるママは多いと思います。でも、実際そうなったら、親としては何ができるでしょうか。子どもに何をしてあげたらいいのでしょうか。そもそも、子どもがいじめられていることに気づいてあげられるでしょうか。

 

そこで今回は、自身のいじめ体験を綴った著書『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』(20198月発売)が大きな反響を呼んでいる中川翔子さんに、いじめ体験について語っていただきました。

「夜中だけはちょっと息が吸える」
スクールカーストの底辺にいた中学時代の体験

──今回、著書『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』を読んで、いつも明るいイメージの中川さんがいじめにあっていたと知り、正直驚きました。いじめによって精神的に追い込まれていく様子は、読んでいるだけでつらい気持ちになりました。特に体に不調が現れ、学校で吐いてしまう中川さんに対して「ゲロマシーン」と呼んでさらに追い討ちをかける行為は衝撃的で、とても理解できるものではありませんでした。とてもつらかったと想像しますが、いじめは中学からいきなり始まったんですか?

 

中川さん:

そうなんです。小学生の頃はみんな仲が良くて。特に56年のときの担任がすごく熱い先生で、勉強や運動が苦手でも、それぞれの個性を見つけて褒めてくれるような先生だったんです。

 

私には「絵といえば中川さんよね」って運動会のしおりとか文集などを任せてくれました。それがすごく嬉しくて。勉強も運動も全然ダメだったけど、クラスの中に生きる場所がちゃんとできていたんです。 

 

それが、中学に入ると一変して。中高一貫の私立の女子校だったんですけど、急に大人になるというか、いろいろ思春期突入という感じでした。

 

私は最初からうまくやれなくて。

 

1人で絵を描いていたら「オタク」って言われたり、芸能や恋愛話にもうまく乗っかれなくて。そのうち「あいつ、変じゃない?」って陰口を言われるようになり、気がついたらスクールカーストの底辺にいました。ボスグループの子たちに「キモい子」というレッテルを貼られてしまったのです。

 

こうしてクラスのみんなから距離を置かれるようになり、ついにはカフェテリアの時間も、教室の移動も全部ひとりっきりになってしまいました。ぼっちもつらいけど、そんな姿を見られるのも嫌でしたね。

 

その頃、「生きるってなんでこんなに楽しくないんだろう」って思っていたのを覚えています。「こんなの私が思っていた青春じゃない!」ってネガティヴがこじれて、心を閉ざしてしまって。1、2年生の時はずーっと落ち込んでいました。

 

──「オタク」とか「キモい」とか、本当に傷つきますよね。毎日つらかったと思いますが、その頃、支えとなっていたことはありますか?

中川翔子

中川さん:

学校が終わると走って帰って家でインターネットをしていました。

 

「学校ではキモいって言われるけど、学校の外にはめちゃめちゃマニアックな人がいっぱいいる」「なんだ、おもしろいじゃん!」ってなったんです。

 

もしあの時ネットという逃げ場がなかったら、私は無理だったと思います。当時はパソコンが普及し始めた頃で祖母が買ってくれたのですが、本当に助けられました。

 

あとは、母が私の好きなことによく付き合ってくれていました。父が早くに亡くなっているので、母は仕事が忙しかったというのもあるかもしれませんが、あまり「勉強しろ」とは言いませんでした。距離感が友達みたいな感じだったので、私がネットで見つけたおもしろいこととかを話すのを聞いてくれたり、夜中まで好きな映画を一緒に観てくれたり。そういう時間が楽しみで。

 

毎日、夜中だけはちょっと息が吸えるみたいな感じだったな。

 

──「夜中だけ息が吸える」なんて、なんだか切なすぎますね。お母さんには、学校でのことは相談しなかったんですか?

中川翔子

中川さん:

そうですね、やっぱり親には言えなくて。

 

私の学校は母も通っていた学校で、「中学時代はめちゃめちゃ楽しかったよ」って聞いていて。そういう学校に私も入ったのに、なんでうまくやれないんだろう、自分は失敗作なんだとか思い込んじゃって。だから1人で耐えながら毎日学校に行っていました。

親には「隣る人」でいてほしい

中川さん:

子どもって最初は強がってたり、プライドもあるから、平気なフリしたりすると思うんです。すぐ親に言えない理由も、いきなり学校に言われて問題をでっかくされちゃったりしたら困るとか、心配かけたくないとか、こんな風になってるなんて知られたら恥ずかしいとか色々あると思うんです。

 

子どもたちの世界では、最初は仲が良かったのにちょっとしたことでいきなりハブリとか無視とか始まることもあるし、ある日突然いじめのターゲットになる可能性もある。陰口悪口って言われない人はいないし、他にもいろいろストレスを抱えながら気を使って過ごしてる。思春期の頃ってガラスのハートだから、1つひびが入ってそれが積み重なっていくと、ある時何かのきっかけでバリンって割れちゃうこともあるんです。

 

だから先生や親御さんには、子どもに「何かあった?」とか無理矢理聞くとかじゃなくて、何もないとは思わないでほしいかなって。災害に備えるのと一緒で、意識だけでも気をつけておいてほしい。

 

それで、もし子どもからSOSが出た時は、結構最終段階に近いということもあると思うので、それを見逃さないでほしい。もしそうなったら、絶対的な味方であってほしいし、いじめられている方は絶対に悪くないっていうことを伝えてあげてほしいですね。

 

ちなみに、著書『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』で書かれている「いじめのサイン」はこちらです。

 

  • 持ち物がなくなる、壊れている、汚れている 

     

  • 持ち物に落書きがある
  • 学校に行きたがらない
  • 口数が少なくなる
  • 腹痛や胃痛など体調不良が多くなる
  • 仲の良かった友達と遊ばなくなる
  • 授業参観など学校からのお知らせを隠すようになる
  • 笑わなくなる
  • 乱暴な行動や言葉づかいが多くなる

 

──何もないとは思わないで、子どもの様子をよく見ておかないといけないですね。側にいる大人が味方でいるっていうことが大事なんですね。

 

中川さん:

でも、私は大人にとどめを刺されてしまったんです。

 

卒業も近いある日、学校から帰ろうとして靴箱を開けたら靴がなくて。先生に言うこと自体が負けな気がしていたのでそれまでは一度も相談したことはなかったんですけど、靴がないとさすがに帰れないので先生に事情を話したんです。

 

泣いたら負けって思っていたけど、靴を隠されるなんて当人にとってはすごい絶望なんですよね。そんなベタないじめにあうなんて恥ずかしいって。それで、ダムが決壊するみたいに泣いちゃって。

 

先生は話を聞いてくれて、新しいローファーを渡してくれました。私は聞いてもらえて嬉しかったし、これで先生が犯人グループに注意してくれるかもしれないと期待しました。でも結局、加害者である生徒には何も対応しないで、靴を取られた私に「早く靴代を払いなさい」って。それがすごいショックで。

 

子どもからすると大人って別の生き物で、絶対に大丈夫な味方であって欲しかったのに。それで「もうだめだ、こんな学校には行けない」って部屋に閉じこもるようになったんです。

 

──それまでずっと耐えてきたのに、先生がとどめを刺すなんて。その時はお母さんにいじめのことを打ち明けたんですか?

 

中川さん:

それでも親には学校に行きなくない理由を言いたくなかったから、言わなかったんですよね。そしたら「行け!」「行かない」って母と大喧嘩になって。「行かないとダメ人間になるから絶対行け!」ってドアを壊して部屋に入ってきて引っ張られたりもしたけど、それでも「やだ」って言って意地でも行きませんでした。

 

──娘が急に学校に行きたくないなんて言い出したら、驚きますよね。どうして行きたくないのか、根掘り葉掘り聞かれたりはしなかったんですか?

 

中川さん:

そういえば、聞いてこなかったですね。

 

だから今回、本が出来上がった時に母に見せたら「こんなことあったの?知らなかった。ただ行きたくないって言ってるだけだと思ってた。ごめんね」って言われました。

 

ただ、中高一貫の高校に進むのは無理ってなっていた私に、母は違う通信制の高校を提案してくれました。当時はネットが自分の居場所みたいな感じになっていて、先のことまで考える余裕はなくなっていたので、親が提案してくれて、そしてずっと味方であってくれたのはありがたかったですね。

 

もし子どもが自分から話すなら聞いてあげてほしいけど、話したくないのに根掘り葉掘り聞かれるのはキツイ。だから親には、全然関係ない話で一緒に笑えたり、子どもが興味を持っていることを一緒に楽しんでくれるような、ただ隣にいて寄り添ってくれる人、隣る人であってほしいですね。

 

PROFILE 中川翔子(なかがわ・しょうこ)

1985年5月5日、東京都生まれ。2002年、ミス週刊少年マガジンに選ばれ芸能界デビュー。歌手・タレント・声優・女優・イラストレーターなど、活動は多岐にわたる。音楽活動では12/4(水)に約5年ぶりとなるニューアルバム「RGB 〜True Color〜」 をリリース。12/23(月)に5年目のディナーショー「ありがとうの笑顔~5th anniversary Ballad with Strings~」を開催。また書籍『死ぬんじゃねーぞ!! いじめられている君はゼッタイ悪くない』(文藝春秋)を出版するなど、いじめ問題に取り組んでいる。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会のマスコット審査委員や、2025年開催万博誘致スペシャルサポーターなど、文化人としても活動。

 

『「死ぬんじゃーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』(文藝春秋刊)

中川翔子さんがいじめられて不登校になるまでの実体験と、自殺したい衝動に駆られた時に踏みとどまることができた理由、そして大人になった現在、いじめで苦しんでいる人に伝えたいメッセージを言葉と漫画で綴る。今の時代のいじめについて、中川さん自身がインタビューした記事も掲載されており、親としても参考にしたい一冊。定価:本体1,200円+税

 

取材・文/田川志乃 撮影/masacova!  ヘアメイク/灯(ROOSTER) スタイリスト/尾村綾