大人向けのビジネス誌やインターネットの記事などで、「日本社会は同調圧力が強い」という話を見かけたことはありませんか?

 

しかし、実は大人だけでなく、子どもの世界にも強い「同調圧力」が働きがちです。

 

もちろんそれが良い方向に向かうこともありますが、一歩間違うと、いじめや個性的な子の生きにくさといったトラブルの温床になりまねません。

 

今回は、同調圧力とは何か、どのような問題があるのか、親としてわが子に伝えられることは…などについて考えてみました。

 

人間には本能的に「同調圧力」が必要!?


「同調圧力」とは、もとは英語の「ピア・プレッシャー/peer pressure」を訳した言葉。

 

「ピア」は「仲間」。つまり、上司から部下・監督から選手という縦の関係ではなく、同僚やチームメイトといった横のつながりを意味します。

 

職場や部活など、一定の集団の中にいるときに、周囲の意見と自分の本心が合わないな…と思っても、遠慮したり、仲間外れにされるのがイヤで、言い出せなかったという経験を持つ人は多いのではないでしょうか。

 

この「少数派を多数派に従わせる力」のことを「同調圧力」といい、多数派がはっきりそれを言葉や態度で表すこともあれば、無言の圧力で従わざるを得ないような、いわゆる「空気を読め」という状況になることもあります。

 

日本人は特にこの傾向が強いと言われますが、なぜ、私たちは人と違った意見や行動を自ら控えてしまうのでしょうか?

 

それには、次のようないくつかの理由があると考えられています。

 

生物学的に「右へ倣え」が安全だった

現生人類(ホモ・サピエンス)は、外敵から身を守るため、数十人から100人程度の集団で行動していました。

 

みんなが右方向へ逃げる時に自分だけ左へ逃げるのは、猛獣につかまり死ぬことを意味します。

 

そのため、とっさのときは無条件に周囲に合わせれば安全という習性が残っているとも言われます。

 

江戸時代からのムラ社会の名残り

現代でも「村八分」という言葉が使われていることからも分かるように、農村などの共同体で掟を守らない一家には、日頃の付き合いはもちろん、冠婚葬祭や困った時に助けてもらえないという制裁がありました(ただし火事と葬儀だけは例外だったそうです)。

 

また、幕府は「五人組」という制度を作り、5軒の中で1軒でも罪を犯せば全世帯を罰するなどの連帯責任を課することで、相互監視させ統治をはかっていました。

 

この制度は、明治や昭和の時代になっても「衛生班」「隣組」といった名前で引き継がれてきました。

 

人々の価値観はいきなり180度変わることはないため、地方や業界ごとの共同体によっては、令和の今でもこの感覚が色濃く残っていることもあります。

 

自覚なき「同調圧力」はいじめのもと

同調圧力は、子どもの世界ではどう働いているのでしょうか?

 

小学生のお子さんを持つママたちに、お子さんへ「学校で自分だけ人と違うのが気になって本心と違う行動をした経験はあるかどうか」を聞いてもらったところ、次のような体験談を教えてもらいました。

 

「授業中、答えは分かっているけど、1人で2回も3回も答えると調子にのってると思われそうで手をあげない」(5年生の女の子)

 

「4人グループで、3人が某アイドルグループのファン。私はあまり興味ないけどとても言えない雰囲気なので、話を合わせながらみんなの熱が冷めるのを待ってる」(6年生の女の子)

 

「学校帰りにピンポンダッシュに誘われた。やめようぜって言ったら、じゃあもうお前来なくていいよって仲間外れにされかけたので、仕方なく一緒にやった」(4年生の男の子)

 

属するコミュニティの種類が少なければ少ないほど、人はそこで起こることが全てと思い込んでしまいがちです。

 

学校の友だちから孤立すると、たちまち毎日の生活が困難になってしまう子どもたちからすれば、周囲に合わせることは生き残るためにはやむを得ない方法なのかもしれません。

 

一方、本当に追い詰められている時ではなく「もう一頑張りしたいけど、つい手抜きしたくなる」という時には、「みんなもがんばっている」「みんなに追いつきたい」「みんなと一緒にチームに貢献したい」という思いから、1人だけで進める時以上の大きな力が出せることもあります。

 

これは同調圧力がいい方向に働いた場合の効果といえます。

 

しかし、怖いのは、無意識・無自覚に「同調圧力」に右へ倣えしている時。

 

無意識に多数派に合わせている子は、みんなと同じ自分のことを「正しい」と思い込み、少数派の意見や個性的な子を「正しくない」と認識してしまう可能性があります。

 

正しくない=攻撃してもいい、という発想はいじめにつながってしまうことも。

 

もちろん、いつでも本音を公にすることが必ずしもいいわけではなく、ある程度周囲に合わせることも時には必要です。

 

しかし、常に

 

「これはそこまで好きじゃないけど、自分も合わせてもらうことがあるから、今は合わせておこう」

 

「これは悪いことだから、いくらみんなが言っても合わせるわけにはいかない」

 

と自分で意識しておくことが、「同調圧力」のマイナス面に屈しないコツではないでしょうか。

 

「同調圧力」に負けない・屈しない!親がわが子に伝えられること


個を重視する欧米と比べて、日本はまだまだ「和」や「協調性」を重視する社会だと言われます。

 

近年では、近所や世間のうわさ等に関しては都市部を中心に弱まる傾向ですが、代わってSNSが浸透したため、依然として子どもから大人まで「同調圧力」を避けては通れないでしょう。

 

ママ友同士でも子ども同士でも、メッセージアプリのグループでの会話で異論を唱えるのは非常に勇気がいる行為です。

 

しかし、ただ多数派に合わせるだけでは、子ども自身が少数派の時に苦しむだけでなく、多数派の場合でも知らないうちに誰かの意見や感情を数の力で曲げてしまうことになります。

 

ママやパパからは、ぜひ次のようなことを伝えてあげてほしいと思います。

 

世界には別の価値観もあることを伝える

子どもにとっては、家庭と学校だけが世界の全てになりがちですが、外に目を向ければもっと違う価値観の世界がたくさんあることを伝えましょう。

 

実際に習いごとやサークルに参加するのもよし、本や映画などを一緒に見て「こんな考え方もあるんだね」と話し合うのも効果的です。

 

人と違うことをするからこそ、新しい発見がある

人類がここまで文明を発展させられたのは、好奇心が強く、新しい土地や食べ物に次々トライした結果だといわれています。

 

子ども自身にも友だちに対しても、誰かを傷つけるようなことでない限り、「人と違う」子はすばらしい可能性を秘めているのだと話してあげたいですね。

 

自分なりの目標を持つとぶれない

勉強でもスポーツでも、「いつまでにこれを達成したい」という目標を自分で決めることが、判断に迷ったときに周囲に合わせるのか、自分の意志を尊重するのかの助けとなってくれます。

 

もし、メッセージアプリで深夜まで会話が続き抜け出しにくい雰囲気だったとしても、自分で決めた目標が頭にあれば、「お風呂入るから抜けるね」等と言いやすいのではないでしょうか。

 

おわりに


松下電気(現パナソニック)の創業者である松下幸之助さんの名言に、「出る杭は打たれるが、出すぎた杭は打たれない」というものがあります。

 

これなども、同調圧力をはねかえす知恵の1つといえますね。

 

子どもの世界では、毎日の学校や部活の人間関係が占める割合は本当に大きいもの。

 

それを理解しつつ、親としてはもう一歩先を見越して、同調圧力の中でうまく自分の意見や気持ちを表現しながら生きていくモデルを示してあげたいですね。

 

文/高谷みえこ

参照/心理学研究 2019 年「3 因子で捉える多面的協調性尺度の作成 」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_90.17242/_pdf

兵庫県猪名川町「いながわ歴史ウォーク 第70話 五人組制度」https://www.town.inagawa.lg.jp/soshiki/kyouikuiinkai/kyouikusinnkouka/rekishiwalk/1416281463834.html

書籍『同調圧力にだまされない変わり者が社会を変える。』池田清彦 著/大和書房