2019年11月1日、2020年度(2021年1月)の「大学入学共通テスト(現センター試験の後継テスト)」で予定されていた英語の民間試験導入を見送り、5年後をめどに仕切り直すことが発表されました。

 

CHANTO世代のママ・パパには、大学入試というと少し先のイメージで、ニュースを見ても「何が問題なの?」「これからどうなるの?」とピンと来ない人もいるかもしれません。

 

そこで今回は、これまでのいきさつや何が問題なのかを分かりやすく解説。忙しいママ・パパがお子さんの今後に備えられるような記事にまとめました。 ぜひ参考にして下さいね。

 

英語民間試験見送り、これまでのいきさつは?


まずは、英語の民間試験導入をめぐるこれまでの経緯を解説します。

 

「日本人は6年間も英語を勉強していても英語を話せない」とよく言われます。

 

そして「大学入試では読み書きしか必要ないから、高校や中学でもスピーキングをやらない、結果、身につかない」→「それならば大学入試から改革していこう」という提案がされました。

 

しかしスピーキングは他の試験と違い、1人1人話して採点するため非常に時間がかかり、センター試験のように数十万人が当日に一斉に受けるのは困難だと予想されました。

 

そこで、まず「スピーキングだけ外部(民間)試験にしてはどうか?」という案が出ましたが、民間事業者から「採算が取れない」と断られ、最終的にライティングとスピーキングを民間試験に委託するという方針が決まりました。

 

これに基づき、2018年3月、文部科学省は8種類の民間試験導入を発表。2020年から実施を決定しました。

 

当初採用されたのは以下の8種類の資格・検定試験です。

 

  • ケンブリッジ英語検定
  • TOEFL iBT(トフル)
  • ブリティッシュ・カウンシル
  • GTEC(ジーテック)
  • 英検
  • IELTS(アイエルツ)
  • TEAP(ティープ)
  • TEAP CBT
  • TOEIC(トーイック)

 

2021年1月の共通テスト受験者は、2019年11月1日から受付が始まる「共通ID」を取得したうえで、2020年4月から12月の間に民間試験を選んで2回受けることになっていました。

 

また、この民間試験と並行して、2021年度から4年間は従来通り英語の共通テストも実施され、2024年度から完全に民間に移行する予定でした。

 

しかし北海道大学や東北大学などが民間試験の採用を見送り、東京大学なども受験資格に活用はするが合否判定には使わないことを決定。

 

最終的に、初年度に民間試験を利用する大学・短大は全体の6割ほどにとどまりました。

 

そして2019年7月にはTOEICが「国の基準に合った対応が不可能」として撤退。

 

全国の高校長の連合会は「問題が多すぎる」として文部科学省へ見送りを要望、大学教授らの団体も反対を表明しました。

 

いっぽう私立高校を中心とした団体は、文部科学大臣に対し「新体制に合わせて勉強してきた学生はどうなる。中断や延期は大きな混乱を招く」として継続を要望し、団体ごとに温度差が見られました。

 

そんな中、2019年10月24日にテレビ番組に出演した文部科学大臣の「身の丈発言」が炎上。

 

「経済的理由で、満足な回数試験を受けられない受験生とそうでない受験生に格差が出てしまうのでは」というテレビ局の問いかけに、

 

「自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえれば…」

 

と発言したため、SNSなどで大きな反発を呼び、野党や現役の高校生も抗議活動を行いました。

 

その後文部科学大臣は発言を撤回・謝罪したものの、民間試験導入の延期を求める動きは止まらず、署名は6日間でおよそ3万7000人分集まったといいます。

 

結果的に世間の注目が集まり、自民党内や官邸からも導入は見送った方がいいのではないかという発言が相次いだ結果、11/1の午後に「見送り決定」が報道されました。

 

今後は、5年後の2024年度の英語民間化に向けて再検討が始まるということです。

 

どこが問題なの?

では、今回、民間試験導入は何が問題で見送りとなったのか?ひとつずつ見ていきましょう。

 

民間試験の基準がバラバラで、入試向けではない

今回導入が予定されていた7つの民間試験は、それぞれ内容も難易度も異なります。

 

どうやって1つの物差しで合否を決めるのか?という点が当初から問題視されていました。

 

これについて国は、CEFR(セファール)という国際的な語学力の基準を示す指標に、各民間試験のスコアを当てはめて「英検2級」=「セファールのB1」のように対応させれば可能だとしてきました。

 

しかし、CEFRはもともと移民の多いヨーロッパなどで、どの程度の語学力があるのかによって「工場内の作業」「店頭での販売やレジ打ち」「電話で商談ができる」など適した仕事に配属するためのものでした。

 

1点の差で合否が決まる大学入試で、果たしてこの基準で受験生の成績を正しく測れるのか…という点が疑問視されています。

 

また、CEFRと民間試験の点数対応表が文部科学省から発表されていますが、その表も不正確ではないかと多方面から指摘されています。

 

検定費用がかかりすぎる

7つの民間試験の受験料は、最も安い「英検」の5800円から、「IELTS(アイエルツ)」の25800円まで様々ですが、共通テストを受けるなら、必ず英語民間試験を2回受けることが義務付けられていました。

 

25800円の検定2回分に加え、自宅から会場が遠い場合の交通費や宿泊費を含めると、費用は合計10万円以上に跳ね上がる可能性もあります。

 

従来のセンター試験を受けるのにかかる費用が18000円程度だったのと比べ、特に人口の少ない地域の学生には負担が大きいことが問題になっています。

 

国が主体の試験なら利益は不要なので、検定料を安くしたり、採算が悪くても各地に会場を用意できるかもしれません。

 

しかし民間でそれをすると会社が存続できないため価格の引き下げも難しく、「ではせめて費用の補助を」という意見もありましたが、予算の確保や、どこまでを補助しどこから自己負担にするかなどの線引きも難しいと考えられています。

 

会場の確保や条件のばらつき

2019年11月5日の国会の質疑応答で、英語の民間試験を受託予定だった企業の代表は「会場は確保できていました」と答えています。

 

民間企業が実施する以上、利益が出るように内容を設定せざるを得ない…ということは上にも書きましたが、そうなるとさらに次のような可能性も出てくるのでは?と考えられています。

 

  • センター試験と異なり、身体障がいや持病への配慮が不十分な施設しか用意できない
  • 会場の防音が不十分で、スピーキングテストで前の人の出題内容が聞こえてしまった
  • センター試験と比べて試験監督が少ない、または監視がゆるくカンニングが可能

 

家庭の経済状況による格差と不公平

そして今回、受験生や保護者からもっとも疑問が噴出したのは「経済力によって合否が決まってしまうのでは」という点でした。

 

テストそのものの受験料に加え、交通費や宿泊費の負担。

 

塾や家庭教師、留学などの費用。

 

また、これらの資格試験や検定試験はそれぞれ独自の回答方式や出題の傾向があるため、何度も受けて慣れると高得点を取りやすくなるという点もあげられます。

 

さらに、英語試験の実施団体は、自身のテスト問題をターゲットにした問題集を売ったりセミナーを開催したりします。

 

つまり、「お金をかければかけるほど有利」という面がどうしても避けられないのです。

 

このことを指摘された文部科学大臣が、 「それを言ったら『あいつ予備校通っていてずるいよな』というのと同じ」 「裕福な家庭の子が回数受けてウォーミングアップできるみたいなことがもしかしたらあるのかもしれない」 と発言したのも今回の炎上の原因となりました。

 

また、民間試験導入に向け文部科学省が各地で行った説明会でも、 「経済的に困窮する家庭の子はどうすればいいですか」 「費用の補助などはありますか」 という質問に答えられず、「持ち帰って検討します」との場面が見られたそうです。

 

試験内容や配点の変更による学力低下

現在、「英語4技能の向上」が共通認識として挙げられていますが、4技能は単純に4分の1ずつ配点すればいいというものではなく、大学入試ではやはり従来通り「リーディング」を重視するべきという意見もあります。

 

そもそも大学教育とは「専門的な知識を学び、社会に貢献する人材を育成すること」が大きな目的。

 

であれば、その分野の専門書や論文を英語で読みこなせることが不可欠であり、これまで大学入試ではリーディングに比重が置かれてきました。

 

ところが、「日本人は英語が話せない」という点を改善するため、小学校・中学校・高校の教育方針を会話やコミュニケーション重視に切り替えてきた結果、相対的に大学入学後の英語力(特にリーディング力)が低下するという現象がおきています。

 

もちろん、日本人の多くが日常会話や仕事の会話を気軽に英語でできるようになるのはすばらしいことなのですが、それと「大学で必要とされている英語力」とは別に考えるべきでは?という議論が起きています。

 

いま園児や小学生の子たちにはどんな影響が?

CHANTO世代では、お子さんは保育園や幼稚園、小学校に通っている人も多いでしょう。

 

小学校でどのような英語を学ぶのか、中学校以降はどうなるのか…は、文部科学省の定めた「学習指導要領」によって決まります。

 

新しい「共通テスト」受験生の第1号となる現在高校2年生の生徒たちは、中学1年生の時点から新テストに合わせた授業内容で学んできました。

 

授業や塾でも、スピーキングを重視した方針に合わせた内容が進められていました。

 

今回の急な見送りで「今になってなぜ?」と悲鳴を上げている生徒もたくさんいますが、今回は4技能を身につけようという方針自体が変わったのではなく、数十万人を公平に評価する実施・採点方法を確立できなかったことが原因でした。

 

しかし、今10歳以下の子たちが大学を受験する頃には、形はどうあれ、英語4技能を身につけているものとして試験が行われることはほぼ間違いないでしょう。

 

公平性のある共通のテスト+より高度なリーディングあるいは会話力など大学ごとに求められる能力が問われるようなシステムが完成していることが必須といえます。

 

小学校では、その下地として「英語に慣れ親しむこと」が目標とされてきましたが、2020年からは3年生以上で必修化、5年生以上で教科化が決まっています。

 

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また、都会と地方・裕福な家庭の子どもたちとそうでない子どもたちの格差をなくすために、タブレットなどを使って英語ネイティブと会話のレッスンができるようなICT(情報通信技術)を活用した授業が進むと考えられます。

 

とはいえ、初期の英語学習で一番効果的なのは、言葉の意味が理解でき、「楽しい」「もっと知りたい」という意欲が持てるかどうかです。

 

塾や英会話教室の「新テストに備えましょう!」といった広告に慌てることなく、まずはお子さんが英語を楽しんでいるかどうかをよく見てあげて下さいね。

 

今後、英語の共通テストはどうなるのか


文部科学省では、2024年の実施に向け、本当に受験生のためになる公平な英語試験のしくみをゼロから考え直すとしています。

 

検討には、官僚や民間事業者など関係者だけでなく、大学側の研究者や専門家など第三者を含めることが求められます。

 

また、期限ありきで問題点が多いまま実施に踏み切ればまた同じことが起きるのは予想に難くないため、さらなる十分な議論と丁寧な検討が不可欠だと言われています。

 

ところで、現在、高3生や高卒生のうち、共通テストを受ける人は何割いるか知っていますか?

 

答えは、

 

  • 受ける→約50万人
  • 受けない→約100万人

 

と、共通テストを受験するのは全体の約3分の1だそう。

 

3人に1人しか利用しない制度に対し、どこまで税金を使えるのか。それによっても取れる対策は変わってきます。

 

「若いファミリー層は投票に来ないから、もっと高齢者向けの政策を充実させよう」

 

と政治家は考えます。

 

そうではなく、

 

「子育て世代がたくさん投票にきているな。この人たちに支持される政策や予算を打ち出そう」

 

と思われるよう、ぜひ選挙にも足を運んでほしいと思います。

 

おわりに


今回の導入見送りについて、さまざまな見かたがありますが、一番大切なのはやはりすべての受験生が公平に学力を評価され、安心して試験が受けられることです。

 

たまたま大臣の炎上発言で世間の注目が集まりましたが、私たちもできるだけ無関心にならず、日頃からアンテナを張っておきたいですね。

 

文/高谷みえこ

参考:文部科学省「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」

文部科学省「大学入試英語ポータルサイト」