子どもに「郵便受けを見てきて」と頼んだら、ほんとうに「見てきただけ」で、新聞や郵便物を取ってきてくれなかった…という笑い話は時々聞きますよね。
しかし、何事にも「言葉通り受け取る」ことが続く場合、もしかして脳の機能に何らかの原因があるのかもしれません。
今回は、子どもが「言葉通り受け取る」のはどんな場面なのか、たびたびそうなってしまう原因や親にできることは何か…を考えてみます。
ママの疑問「なんでも言葉通り・額面どおり受け取るのはなぜ?」
まずは、お子さんが「なんでも言葉通りに受け取ってしまう」と言うママたちの声を紹介します。
「七五三参りの時、神社のカメラマンが高齢の方で、昔ながらの”ハトがでますよ~”という掛け声でカメラに注意を向けさせようとしたんですね。もちろんハトが出るはずないんですが、その後ずっとハトは?ハトは?と家に帰ってからも次の日もずっと言い続けていました」(Sさん・34歳・6歳の女の子のママ)
「保育園のクラスのAくんが、うちに遊びにいきたいと息子に言ってくれたらしいです。でも、わが家は下の子が生まれたばかりだったので、もうちょっと妹が大きくなったらねと息子に言ったところ、翌日から毎日、もう赤ちゃん大きくなった?と1日に何回も聞かれたそう。あわてて家を片付けました」(Jさん・5歳の男の子のママ)
「息子が家の前で遊んでいる時に自治会の人がたずねてきて、”お母さんいる?”と聞いたんです。私は出かけていたんですが、息子は自分に母親がいるのかをたずねられたと思ったのか、”いる”と答えたため、その人は何度も玄関チャイムを鳴らしてずっと私が出てくるのを待っていたそうです…」(Yさん・36歳・3年生の男の子のママ)
「小学校で、ある日隣の席の子が消しゴムを忘れてきたので、〇ちゃん消しゴム持ってる?と聞かれた娘。うん、持ってるよと答えて貸さずにそのままプリントをやり続けたので、隣の子はプンプン怒って別の子に借りたそうです。担任の先生から聞きました」(Kさん・39歳・4年生の女の子のママ)
「スポ少で、コーチに”やる気がないのか!帰れ!”と強めに叱られたらしく、そのまま帰ってきてしまったんです。そういう時は帰るんじゃなく、あやまって頑張りますって言えばいいのよ、と教えたのですが…今後が心配です」(Wさん・40歳・5年生の男の子のママ)
これらのエピソードを見て「うちも!」「あるある!」と思われた方もいるのではないでしょうか。
そして子どもは何度かこういったことを繰り返すうちに、
「お風呂見てきて」
という言葉が意味するのは、ただ見てくることではなく、お湯がたまっているか確認した上でいっぱいならお湯を止め、まだなら戻ってきて報告することが求められているんだな…と学習していきます。
しかし、それがなかなかできるようにならない子もいます。
成長しても相変わらず周囲の言葉を文字通り受け止めてしまう子には、何か共通の原因があるのでしょうか?
「言葉通りに受け取る子供」の特徴
例えば小学校高学年の子に「お皿を洗ってね」と頼んだときに、言葉通りお皿だけを洗ってコップや茶碗はそのまま…といったことが繰り返されると、将来、親の目の届かない場所(部活・アルバイト・就職先)でちゃんとやっていけるのだろうか…と心配になる人も多いと思います。
個人差もありますが、本人があきらかに生きにくさを感じているような場合は「ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)」と呼ばれる脳の機能が原因となっていることがあります。
ASDは以前はいくつかの症名に分けられていましたが、現在のガイドラインでは区切りをなくして連続したひとまとまりの症状として扱います。
そのなかで、言われたことを極端に言葉通り受け取ってしまう子は、かつての「アスペルガー症候群」と呼ばれる発達障がいに当てはまる可能性があります。
「言われたことを文字どおり受け取ってしまう」ことに関連する特徴としては、次のようなものがあります。
- 表情や声の調子で相手の気持ちや感情を読み取ることができない
- たとえ話を本気にする
- 建前・社交辞令・皮肉や嫌味・遠回しな言い方が通じない
- 冗談が通じない(※駄洒落のような言葉遊びは好きで熱心に言う子もいます)
- 暗黙の了解がわからない
- 物語や小説など行間のある本は苦手で、図鑑・科学など事実が並べられた本の方が好き
記憶力が良く好きな教科は特に年齢以上の知識を持っていたり、テストで満点をとったりする子も多いので、学校や親からさえも発達障がいではなく「性格の問題」と思われることもあります。
しかし、本人は意地悪な性格だからそうしているのでもなく、気配りや配慮をしたくないのでもありません。
相手から言われたとおりにしたのに、なぜ周りの大人が笑っているのか、なぜ友だちが怒っているのか…が分からないのです。
言葉通りに受け取ってしまう原因とは
ASD(アスペルガー症候群の傾向が強い子)は、生まれつきの脳の機能の特性で、次の3つが困難だということが分かっています。
(1) 周囲との社会的関係(他の人と関わる時はどうふるまうべきか) (2) コミュニケーション(自分の思いの伝え方と相手の思いの理解) (3) 想像力と創造性(ごっこ遊びをしたり、自分で何かを計画する)
どうしてそうなってしまうのか、原因はまだ研究中で解明されていません。
いくつかの説がありますが、現在は、脳内で以下のような部分に何らかのトラブルがあり、それが関連するのではないかと考えられています。
- 脳神経の情報伝達機能
- 「扁桃体」(脳内で感情を司る部位)
- 人の顔を覚える「紡錘状回(ぼうすいじょうかい)」
- 人の目や口の動きを読み取る「上側頭溝」
- 他人への共感を司る「前頭葉」
- 認知や感情に関わる「小脳」
- セロトニン・グルタミン・オキシトシンなどの脳内物質分泌
上記の傾向のある子が、クラスメイトが「先生の今日の服ちょっとヘンだよね」と内緒で盛り上がっているのを聞いて、先生に向かって「先生の服ヘンですね、〇さんと△さんも言っています」と大声で言ってしまうからといって、けして「チクリ魔」という訳ではなく、脳の機能によって「暗黙の了解」が理解できないだけなのです。
本人は、「空気を読めと言われても、空気は見えないから読み方がわからない」「ちゃんとやりなさいと言われても、何をしたらいいの?」「自分は間違っていないはずなのに、なぜか嫌われたり叱られたりする」と毎日大変な思いをしていますが、外見からは分からないため、大人になってもなにがしかの形で苦しみ続けている人も多いと言われます。
「言葉通りに受け取る子供」の親にできることは
わが子に多少「言われたとおりに受け止める」傾向がある程度なら、過剰に心配し過ぎる必要はないし、その子は正直で人を疑わない、裏表がない子だととらえることもできます。
しかし、本人が困っていたり、口では困ったと言わなくても生きづらい様子が見える場合は、一度自治体などの窓口に相談してみるのもひとつの方法です。
それと並行して、学校でも家でも、できるだけ抽象的な指示は出さず、具体的に話してあげるといいですね。
「もうちょっと早く着替えて」ではなく、「8時までに着替えよう」、
「少しなら聞くけど…(ほんとは後にしてほしい)」では通じないので「5分だけ聞くわ」と伝え、さらに「5分だけ話を聞く」とメモに書いて横に置きながら話すなどが理解しやすく子どもも安心するといわれています。
上記のような日常の具体的な接し方やトレーニングは、自治体等の窓口で相談すれば適切な機関を紹介してもらえることがほとんどです。
また、こちらはまだ確立された治療法ではありませんが、別名「幸せホルモン」とも呼ばれる「オキシトシン」を投与するとASD患者さんの症状が和らいだという報告があります。
オキシトシンは自分で増やすこともできると言われており、リズミカルな運動やスキンシップで分泌が活発になるとされています。
ただ中には感覚が過敏なために身体に触れることを嫌がる子もいます。その場合でも、ぬいぐるみやペットなら大丈夫という子もいますので、その子に合った方法を探してみるとよいでしょう。
大切なのは子供自身が困っていないかどうか
うちの子はちょっと生真面目なところがある、冗談が通じない…それらは個性とも言えますが、大切なのはとにかく「子ども自身が困っていないか」ということです。
もし、学校生活や人間関係で困難を抱えている場合は、早期に適切な接し方を周囲のみんなで共有することで、子ども自身もママやパパも少しラクになるかもしれません。
文/高谷みえこ
参考/NPO法人東京都自閉症協会「アスペルガー症候群を知っていますか?」Web版・日本語