近頃、「STEM教育」あるいは「STEAM教育」という言葉が教育の現場でよく使われるようになってきていますが、皆さんは見たことがありますか?また、意味を知っていますか?
今回は、小学校の授業にも関係の深い注目ワード「STEAM教育」の意味や事例、どのように授業が変わるのかなどを分かりやすく解説していきます。
STEAM教育とは?読み方は「スティーム」
「STEAM教育」は、「スティーム(スチーム)教育」と読み、次の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語です。
- Science(科学)
- Technology(技術)
- Engineering(ものづくり)
- Art(芸術)
- Mathematics(数学)
元が英語であることからもわかるように、アメリカが発祥の教育方針です。
「STEAM」以前には「STEM(ステム)教育」があり、国際的に科学技術分野での競争力を高めるには各分野が分断していてはダメで、学生時代から科学技術・モノづくり・数学を連携させて学ぶことが重要だ…といわれていました。
この十数年を振りかえってみると、2006年アメリカで当時のブッシュ大統領が「STEM 教育強化10の指針」を打ち出したのが始まりで、その後、2013年にはオバマ大統領も重要な国家戦略として年間約30億ドルの支出を決定しています。
そして2008年に、アメリカ最高峰の美術大学とされる「ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン」のジョン・マエダ元学長が、「STEM教育」に「Art(芸術)」やDsign(デザイン)を加えることが一層の技術革新をもたらすとして「STEAM教育」を提唱し、しだいに広まっていきました。
世界的にもオーストラリア・カナダ・ベトナム・香港など、各地でSTEM学校が設立されたり学科が設置されたりしています。
各国がここまで力を入れる背景には、これから確実に進んでいくIT化やAIの発展があります。
これまでは、研究者が開発した技術を「使いこなす」人材が多く必要でした。
しかし今後、現在は人間がおこなっている職業の半分近くがコンピュータ(AI)に取って代わられると予想されています。
そして、そんなこれからの時代には
- 技術を使うだけでなく作り出せる人材
- 技術を使って社会や企業の問題を解決に導く人材
- 今までにないものを創造する人材
が必要だと考えられています。
この「想像力」と「技術力」を活かして活躍する人材を育むための教育が、現在、日本でもすすめられているというわけですね。
小学校のSTEAM教育、これまでと何が変わる?
では、「STEAM教育」とは具体的にどのようなカリキュラムを組んで進められるのでしょうか?
国は、これからの社会を「狩猟社会・農耕社会・工業社会・情報社会に続く人類史上5番目の新しい社会」として「Society(ソサエティ)5.0」と名付けています。
そして、この「Society(ソサエティ)5.0」の時代を生きる子どもたちの教育は以下のようにするべきと提言しています。
国は、幅広い分野で新しい価値を提供できる人材を養成することができるよう、STEAM教育(Science,Technology, Engineering, Art, Mathematics 等の各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育)を推進するため、「総合的な学習の 時間」や「総合的な探究の時間」、「理数探究」等における課題解決的な学習活動の充実を図る。
ちょっと漠然としていますが、要するに、小学校のうちから「何か課題を設定して、全教科で学んだことを総合的に使って解決方法を導き出す」「自分たちでテーマを見つけてそれについて調べたり考えたりする」といった学習時間を増やしていきましょう…ということですね。
ただ「総合的な学習の時間」は以前からありましたが、その内容は各学校や担任に任されており、「結局レクリエーション的なことしかしていない」「中途半端な調べ学習で終わる」「本来必要な演習(算数の問題を解くことなど)の時間が十分に取れない」などとして、先生たちからも批判的な意見が多く出ていました。
その点に関しては、文部科学省が「以下のような改革・改善も重要である」と述べています。
特に小学校における効果的な指導と教師の一人当たりの指導時間の改善の両立の観点からの,小学校の教科担任制の充実,年間授業時数や標準的な授業時間等の在り方を含む教育課程の在り方の見直し
「総合的な学習の時間」を無駄にしないために、今後、小学校でも
- 教科ごとに担任の先生が変わる
- クラスの人数がさらに少人数になる
- 授業時間は今より増えるかもしれない
といった変化があるかもしれません。
また、「EdTech」と呼ばれるITやテクノロジーを活用した教育の導入で、将来はもっと子ども1人1人の学力や課題にフォーカスした学習ができ、地方と都市部や家庭の経済力による学力の格差がなくなっていくことが期待されています。
そして子どもと先生の両方が本当に必要な部分だけを効率よく学習し、生まれた時間をSTEAM教育に当てることが目標とされています。
数年後にはこれまでのように一律の宿題ではなく、その子の学力に合った、いわば「オーダーメイド」のような宿題が出されるようになるかもしれませんね。
おわりに
STEAM教育が目指す、理数系の各分野とモノづくりやデザインなどの分野の融合は、今後小中高とさまざまな形で取り入れられていくと思われます。
しかし、令和元年の現在は、まだまだ始まったばかりの段階であり、まずはモデル校からさまざまな取り組みが見られるでしょう。
筆者も引き続き動向をチェックし、新しいニュースがあればお伝えしていきたいと思います。
文/高谷みえこ