小学校の夏休みが終わりに近づいてくると気になるのは、子どもの宿題。特に読書感想文は、「めんどくさい」といってなかなか手をつけようとしない子どもにイライラしたり、「全然書けない」と泣く子に頭を抱えたり…。結局最後は「いいから早くやりなさい!」と喧嘩になってしまうご家庭も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回の特集は、子どもが読書感想文を楽しく書けると評判の「読書感想文ドリル」の著者であり、読書感想文や作文教室が人気の大竹稽さんに、読書感想文の書き方について教えていただきました。まずは、読書感想文の目的や本の選び方、親の関わり方についてお伝えします。
読書感想文の目的とは?
毎年のように親子で苦労する読書感想文ですが、そもそも読書感想文は何のためにあるのでしょうか?
大竹さん:
一般的にいわれているのは、本に触れて、思考力や表現力といった国語力を養うため。でも、本を読むときに「思考力を養おう」なんて思いながら読む人はいませんよね。そんな風に考えて読むのは苦痛です。それに、いざ中学受験とか高校受験で必要だからと無理に読ませようとしても、国語力はあまり身に付きません。子どもに「もっと本を読んでほしい」と願う親御さんは多いと思いますが、「宿題やりなさい!」と同じ勢いで「本を読みなさい!」なんていっても絶対読まないし、お母さんが横でスマホをいじっていたら読みませんよね。
まずは親も一緒に本を読んだり、本をきっかけに話をするという空気、文化を家の中に作ることが大切かなと思います。思考力とか表現力というのは後からついてくるものです。まずは、普段から読書を楽しみましょう。
読書感想文も、もちろん教育的な目標はあっていいんですけど、まずはそのプロセスをいかに楽しむかというところに注目するといいと思います。
確かに、子どもにとっては「楽しい」が一番ですよね。でも本をあまり読みたがらない、読書感想文が嫌い、という子どもに、どうやったら楽しんでもらえるのでしょうか…。
大竹さん:
僕のおすすめは、読書感想文を“親子イベント”にしちゃうこと。つまり、読書感想文を遊びのきっかけにするんです。これが一番いいかなと思います。
たとえば、高学年向けの「もうひとつの屋久島から 世界遺産の森が伝えたいこと」を読んだら、実際に屋久島に行ってみる。そうすると、縄文杉を見るときの気持ちが変わるんですよね。それを親子で話したり、現地ガイドさんの話を聞いて感想文にする。きっと文字数を削らないといけなくなるくらい書けますよ。
毎年4月になると、毎日新聞に課題図書が掲載されるので、それをチェックして読書感想文につながるような場所を旅行先に選ぶといいと思います。
確かに、旅行に行けるなら子どものやる気も上がりそうですね。ただ、事前に予定が立たず、遠出ができないことも…。そんなときはどうしたらいいですか?
大竹さん:
おじいちゃんおばあちゃん家に行って自然と触れていたら、それと屋久島を結びつけて、自然をどう守っていけばいいかを考えてもいいと思います。
あとは、どこかに行かなくてもできるような体験と関連するような本を選ぶとか。例えば中学年向けの「そうだったのか!しゅんかん図鑑」には、シャボン玉を割る、ロウソクを消すなど、普段何気なく見ている瞬間を切り取った写真が載っているのですが、それをお父さんと一緒にやってみるのもいいと思います。大事なのは、その本と結びつけて、実際に自分なりにやってみた感想や、うまくいかなかったことがあればその理由などを親子で話してみて、それを子どもが自分の言葉で書くということ。そうすれば、読書感想文としての形になると思います。
低学年向けだと「心」をテーマにした本があるので、お墓参りや法事でお寺に行っていれば、「目に見えないけど心ってあるのか?」みたいな話につなげてもいい。
予定調和といわれてしまうかもしれませんが、ある程度子どもが体験したことをヒアリングしておいて、親がそれに関連する本を選んじゃうという手もあります。
それも難しければ、読んだ本と似ているテーマの寓話や昔ばなしなどを例にあげて書けばクリアできるのはないかと思います。
そうすると本選びも重要ですね。選ぶときのポイントってなんでしょうか?そもそも書きやすい本というのもありますか?
大竹さん:
まずは子どもが選ぶ本を優先すべきだとは思うんですけど、基本的には「課題図書」の中から選んでみてください。最初から1冊に絞るのではなくて、「こっちの本で書けなさそうならこっちにしよう」という風に、1冊は子どもに選ばせて、もう1冊は親が選ぶといいと思います。
子どもは誰が書いても同じような結論になる本や、書きにくい本を選んでしまうこともあるので、最初から「これで書こうよ」と親が選んでもいい。楽しい話やジャーナリスト系、科学系の本は書きやすいと思いますよ。
予め、どんな体験をさせるのかまで決めて、「この本を読んで、○○に遊びに行こう」ってやっちゃった方が楽しめたりします。本の中にかなりグロテスクな虫が出てきたりして普段なら気持ち悪がる子も、親と一緒なら好奇心の方が上回って楽しめたりする。そんな風に、遊びとして読書感想文を使って欲しいですね。
親も一緒に遊ぶということが大事なんですね。では、いざ書くときのポイントを教えてください。
大竹さん:
まずは「りっぱなものを書こう」という気持ちを捨ててしまうことが大事です。優等生的な作文を書こうとするよりも、「お母さんとお茶を飲みながら話していたことをそのまま書いたらできあがっちゃった!」でいいと思うんです。そのほうがおもしろいものができたりします。
子どもはまだ言語表現がそれほど豊かではないので、「おもしろかった」という表現だけになっちゃうことも多いんですけど、実は大人が思う以上に気持ちの中にはいろいろな「おもしろい」があるものです。なので、子どもがどの場面に注目したのか。子どもが言う「おもしろい」とは「もっと知りたい」「笑える」「珍しい」など、どんな気持ちだったのか。その理由はなぜなのかを聞き出して鮮明にしてあげるのが親の役目でもあり、親が読書感想文に関わるうえでおもしろい部分でもあるのです。親御さんには、ぜひそこを見つけてほしいと思います。
そして、子どもの視点に単純に感動してください。子どもと話す中で、ちゃんとしたことを伝えようとか、偏差値上げていい中学に入って欲しいとか、そういうのはひとまず置いておいて、まずは親が子どもの成長、子どもの学びに対して楽しむということが重要かなと思いますね。
僕が長年、作文教室などをしていて感じているのは、自分の人生観や体験を子どもに伝えている親御さんが少ないということ。でも、親の話を通して子どもの中にいろいろな視点が養われていったり、日常的に本に触れるようになっていくという気がしています。哲学とか人生観というものを先生ではなく、親が伝えていって、討論ではなくて“対話”を楽しむという時間をもつことが、国語力、言語能力、表現力、視点などを培うことにつながるのではないかと思っています。
まずはこの読書感想文イベントを楽しむこと、そしてそれをきっかけに、ぜひお子さんとじっくり話をしてみてくださいね。
次の記事「
読書感想文にもう悩まない!書き方の「6つのステップ」」では具体的な書き方のプロセスをお伝えいたします。
PROFILE
大竹稽(おおたけ・けい)
教育家、文筆家、思想家。株式会社禅鯤館 代表取締役、産経子供ニュース編集顧問。1970年愛知県生まれ。東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、そこでフランス思想を研究しながら、禅の実践を始める。てらてつ(お寺で哲学する)を開きながら、共生問題と死の問題に挑んでいる。編著書に「超訳モンテーニュ」「賢者の智慧の書」「めんどうな心がらくになる」などがある。https://kei-ohtake.com/
取材・文/田川志乃 撮影/masacova! 取材場所提供:蟠龍寺