妊娠中に生物を食べる女性のイメージ

妊娠中、産院や実家の親などから「妊婦さんは生ものを食べないように」といわれた記憶はありませんか?

 

この記事では、なぜ妊娠中に生ものを食べてはいけないのか、もし食べてしまったらどうしたらいいのか…など、基礎知識と気をつけるべき点を解説。先輩ママの妊娠中の「生もの」にまつわるエピソードもお届けします。

 

なぜ妊娠中に生ものを食べるのは良くないの?


2018年、妊娠中の女性タレントがSNSにローストビーフの皿を手にした写真を投稿、「赤ちゃんは大丈夫?」と妊娠中の生ものについて議論が起こりました。

 

これらを受け、消費者庁でも年末の記者会見では次のような談話を発表、

 

妊婦の方は、生ハムやナチュラルチーズ等、加熱していない食品について、日頃から注意をされていることと思いますが、年末年始には、普段、口にしない食品に接する機会が増えることも予想されるところでございます

 

と、あらためて「母子健康手帳」に記載してある注意点を確認するよう呼びかけました。

 

「妊婦さんは生ものを食べない方がいい」といわれる理由は、妊娠中は免疫力が低下する人が多く食あたりや食中毒にかかりやすくなるうえ、胎児への影響から薬が飲めなかったり、下痢をすると子宮を刺激して流産・早産のリスクが高まる可能性があるからだといわれます。

 

補助的な理由として、お寿司や刺身・生ハムなどは塩分の摂りすぎにつながるという心配もあります。

 

さらに、妊娠中は特有の感染症のリスクが高まることも見逃せません。

 

寿司・刺身、生ハム、生野菜…妊娠中、注意すべき生ものとは?


母子健康手帳(母子手帳)を確認すると、以下のような記載があります。

 

妊娠中は、免疫機能が低下して、食中毒など食べ物が原因の病気にかかりやすくなっています。 妊婦にとって特に注意が必要な病原体として、リステリア菌とトキソプラズマ原虫が挙げられます。 また、お母さんに症状が無くても、赤ちゃんに食品中の病原体の影響が起きることがあります。これらの多くは、原因となる病原体が付着した食品を食べることによって起こります。日頃から食品を十分に洗浄し、加熱するなど、取り扱いに注意しましょう

 

生ものが全てダメとは書かれていませんが、「加熱するなど取り扱いに注意」とありますので、基本的には避けるべきと考えられます。

 

「リステリア菌」の妊婦感染率は通常の20倍

いろいろな食中毒や感染症の中でも、特に妊婦さんには要注意といわれている「リステリア菌」とはどのような菌でしょうか。

 

日本では今のところ、リステリア菌による食中毒は報告されていませんが、欧米では、以下のような冷蔵庫で保存する非加熱食品で死亡を含む集団食中毒の例があります。

 

  • ナチュラルチーズ
  • 生ハム
  • 肉や魚のパテ
  • スモークサーモン
  • メロン、アボカドなどの野菜果物

 

妊娠中は、このリステリア菌に通常の20倍以上感染しやすくなるというデータがあり、胎盤を通って感染すると、流産や新生児への影響が心配されます。

 

生ハムやスモークサーモンなど、肉魚の非加熱加工品はできるだけ避け、チーズは加熱済みの「プロセスチーズ」と表示のあるものを選ぶ、野菜類はよく洗うなどの点に気をつけて下さい。

 

スモークサーモンのサラダ

 

寿司や刺身・生ガキなどの魚介類は妊娠中NG?

生ものの代表ともいえる、お寿司や刺身などの魚介類。

 

腐敗のスピードが速く、「腸炎ビブリオ菌」などが繁殖すると激しい下痢や嘔吐、腹痛を引き起こします。

 

なお、魚に含まれる水銀に関しては、加熱しても水銀含有量は減らないため、「生ものだからダメ」というわけではありません。

 

一般的に妊娠中はマグロ・カジキなどの大型魚全般を避け、同じ種類の魚ばかりに偏らないことが推奨されています。

 

また妊娠の有無にかかわらず食中毒になる人が多い「牡蠣(カキ)」にはノロウイルス感染のおそれがあります。

 

中心温度が85度を超えれば殺菌できるといわれますが、ある調査ではフライなど加熱調理したものでも中が半生だったのか、あたってしまったという人が10%前後いるそう。

 

ノロウイルスは感染時の症状も重いので、妊娠中はカキそのものを我慢した方が無難かもしれませんね。

ローストビーフ・レアステーキ・たたきなどの肉類は妊娠中NG?

肉料理では、寄生虫の一種「トキソプラズマ」の感染による「先天性トキソプラズマ症」が心配されます。

 

特に妊娠初期に初感染すると、胎児の低体重や、出産後も視力・脳などに悪影響が出る場合があります。

 

自治体によっては初期の妊婦検診で抗体の有無を検査してもらえますが、アンケートの結果を見る限り、ほとんどの自治体で検査費用の助成はなかったようです。

 

【Q:妊婦検診の中に「トキソプラズマ」の抗体検査はありましたか?】

 

はい 15% いいえ 85%

 

日本産婦人科学会のガイドラインには、風疹やHIVなどの検査重要度Aに対してトキソプラズマはCとなっています。気になる場合は自費(1000円~2000円程度)で受けることが可能です。

 

なお、トキソプラズマは、肉の中心温度が67度以上またはマイナス12度になると死滅します。

 

以前は焼肉店のメニューにあった生肉料理の「ユッケ」は、現在は法律で提供が禁じられていますが、タタキやローストビーフなどの完全に火を通さない肉料理も万が一の感染がないとは言い切れないため、妊娠中はできれば避けた方がよいでしょう。

 

生卵は妊娠中NG?

鶏肉や生卵に多いのが「サルモネラ菌」です。

 

感染すると激しい腹痛や下痢を起こすため、妊娠中は子宮への刺激が心配されます。

 

サルモネラ菌は熱に弱く75度以上で死滅するので、妊娠中は卵は完全に加熱して食べるのがおすすめ。

 

また、加熱調理する場合でも、卵の殻を触った手で生野菜や食器などに触れると菌が付着する可能性があるので、よく手を洗うようにしましょう。

生野菜サラダや果物は妊娠中NG?

生野菜や果物も、土がついていたり、魚・肉汁が付着した箇所に細菌が繁殖して食中毒を引き起こすことがあり、100%安全ではないとされています。

 

ただ、野菜や果物にはビタミン・ミネラル・食物繊維など栄養素も豊富なため、新鮮なものをよく洗って適度に食べた方が母子の健康に良いと考える医師も多いようです。(筆者も産院でそう説明を受けました)

 

細菌は野菜や果物の断面に繁殖しやすいので、できるだけカットされていない丸ごとのものを選ぶのがおすすめです。

 

先輩ママは妊娠中生ものを食べていた?


母子手帳に注意書きがあるとはいえ、産院や母親学級などで話題が出なかったので、生ものについて特に意識していなかった…という人もいるはず。

 

今回、無事出産を終えた先輩ママに妊娠中の様子を聞いてみたところ、次のような結果となりました。

 

 

【Q:妊娠中、生ものを食べていましたか】

 

  • 特に気にせず食べていた…15%
  • 気にはなっていたが食べていた…8%
  • 部分的には(一部の食材、初期だけなど)避けていた…46%
  • まったく食べなかった…31%

 

と、4人に1人(23%)はそれまでと食事内容が変わらなかったものの、半数近くのママはなんらかの制限をし、3人に1人(31%)はまったく生ものを食べていなかったとのこと。

 

理由として次のようなものが挙げられました。

 

「妊娠時期が夏場だったので、お寿司などはお店だけで食べ、家では控えていました」

 

「上の子の時は生もの一切を避けていましたが、もともとお魚は大好きなので、下の子の時は自分でいろいろ調べ、後期のみ白身魚のお刺身だけ食べていました。出産までつわりが続いたため、食べられるときは好きなものを食べようと決めていたのもあります」

 

「私は生ハムが大好物。実は、妊娠中も最初はおいしく食べていたのですが、友人に指摘され、食べ過ぎてしまわないため生まれるまでは我慢することにしました」

 

「初めての子だったのもあり、万が一のことがあったらと心配で、夫婦で生ものは食べないようにしていました」

 

「特に意識はしていませんでしたが、もともと生ハムや生魚がそんなに好きではないので、結局ほとんど食べずに終わりましたね」

 

「え?食べたらダメなの?知らなかった…(笑)!」

 

などなど。

 

生ハムやナチュラルチーズは特に避けていた人が多く、反対にお寿司やお刺身は鮮度や衛生管理に気をつけて時々食べていた…という人が多い印象です。

 

まとめ


妊娠中、特に生ものを制限していなかったけれど何事もなかった…という人は実際たくさんいます。 ただ、いつ誰が運悪く体調を崩してしまうかは予想がつきません。そのため産院も「できるだけ控えましょう」としか言いようがありません。

 

ただ、もし知らずに食べてしまった場合でも、必ず赤ちゃんに悪い影響があるとは限りません。いつまでも気に病んでストレスを感じる方がママと赤ちゃんに良くないので、医師に相談をするなりして気持ちを切り替え、落ち着いて過ごすようにして下さいね。

 

文/高谷みえこ

参考:厚生労働省「母子健康手帳について」平成30年版

消費者庁「岡村消費者庁長官記者会見要旨」(平成30年12月)

厚生労働省「これからママになるあなたへ(リステリア菌に関するリーフレット)」

国立感染症研究所「妊婦さんおよび妊娠を希望されている方へ」

日本産婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」