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ここ最近のニュースで、育休を取得した男性社員が復職した直後に転勤を言い渡され、退職を余儀なくされたといういきさつを家族がSNSに書き込み、「パタハラ(=職場から父親への嫌がらせ)では?!」と炎上しています。 この記事では、「パタハラ」とはいったいどういうもので誰にでも起こりうるのか、できる対策はあるのか…などを解説します。

 

「パタハラ」ってなに?意味と事例


話題の「パタハラ」とは、「パタニティ・ハラスメント」の略。 英語の「パタニティ(Paternity/父性)」と「ハラスメント(嫌がらせ)」を組み合わせた言葉で、おもに育児休業を希望する男性に対し、職場で次のような行為をすることをいいます。

 

  • 育児休業を取らせない
  • 叱責したり嫌味を言ったりする
  • 人事評価や給料を下げる、降格させる
  • 不本意な配置転換や転勤を命じる など

 

平成29年の厚生労働省の調査によると、育休制度があるのは5~25人の小規模事業所で71.2%・500人以上の事業所では99.4%と、制度自体はすでに広く普及しているはずです。

 

ところが実際に男性が育休制度を利用しようとすると、上司や同僚からイヤな顔をされたり反対されたりすることが多く、「育休を取りたい」と言うことすらはばかられるような雰囲気の会社がいまだに非常に多いようです。

 

令和元年6月に発表された速報でも、女性の育休利用率82.2%に対し、男性は6.16%という少なさがそれを物語っています。

 

最近では、一部上場の大企業で育休を取得した男性が復帰2日後に転勤を命じられ、妻の復職直前のため時期を相談するも取り合ってもらえず、やむなく退職に追い込まれたという投稿がSNSで数万回も拡散され注目を集めました。

 

「パタハラ(子どもや家族を大切にする男性への嫌がらせ)」に加え、「今後、他の男性社員に育休を取らせないための見せしめでは」と、メディアも取り上げる騒ぎとなっています。

 

SNSのコメント欄にも、多くの人から「パタハラ」事例が寄せられました。

 

「私も2人目の育休中、同じ会社の夫に転勤内示が。4月からの保育園をキャンセルして一緒に転勤しましたが、引っ越し先では入園するところがなく私は退職しました。転勤は家族の人生を左右しますよね」

 

「某東証一部企業ですが、社内恋愛で入籍した夫婦の妻を辞めさせるために夫を転勤させるのが常套手段でした」

 

「夫が育休の希望を出すと、上司から”男は育休なんか取るもんじゃない”と嫌がらせを言われました」

 

「子供が熱を出した時は私と妻が交代で迎えに行き、翌朝は早く出勤して迷惑が掛からないよう努めましたが、上司は気に入らなかったのか、畑違いの清掃部門に飛ばされました」

 

「夫が仕事を辞めざるを得なくなり求職活動が長引くと、最悪の場合、家庭で保育が可能だとされ退園のおそれもありますよね」

 

就業規則や法律は、現場の「パタハラ」とかけ離れている?


国家公務員や民間企業の中には、赤ちゃんが生まれると半強制的に男性も育休を取るよう決められていたり、男性の育休を前提に仕事の割り振りを計画するのが当然という職場もあります。

 

しかし、それはごく一部の話。

 

国は2020年までの男性の育休取得率13%達成目標・先進諸外国並みの有給消化率を目指していますが、現実には「男性の育休なんてとんでもない」と考えている民間企業がまだ非常に多いようです。 実際、SNSで騒ぎになった会社も、子育てサポート企業として厚生労働大臣から認定されたことを証明する「くるみんマーク」を取得していました。

 

いくら政府が「女性の社会進出を応援」「少子化解消」と言い、企業の就業規則だけを整えても、いざ男性が育休を希望し家事や子どもの病気のお迎えなどで育児に取り組もうとすると嫌がらせや降格・退職が待っている…というのでは、とても安心して共働きで出産育児などできないと言わざるを得ません。

 

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もし、あなたの夫が職場で「育休を取りたい」と言ったらどうなる?


平成29年に行われた調査では、育休を希望して通った男性がわずか5%ほどに対し、「育休を取りたかったが、利用できなかった」という男性が全体の30%以上いたことが分かっています。

 

「育休を言い出せない空気だった」「仕事への悪影響を言われ、あきらめた」という男性が多い背景には、男性のあいだでも、主に若い子育て世代と、家事育児を妻に一任して仕事に集中することが望ましいと考える上司の世代で認識の差が大きいことがあるでしょう。

 

必ずしも悪意ある嫌がらせでなく「お前のことを心配しているからこそ、育休なんてやめろとアドバイスしているんだ」といった声をかけられた男性が多いことからも、世代間での大きな価値観のずれが見てとれます。

 

いっぽう、育児経験のある女性の多くは、職場の男性の育休取得や育児参加を好意的に受け入れると思われます。(ごく一部の女性は「自分は多くを犠牲にしてワンオペでやってきたのに、甘い」といったとらえ方をするかもしれませんが)

 

こういった価値観は人それぞれですが、それとは別に、男女問わず育児休業を取る男性を批判的に見る背景には、その人の休業によって自分の仕事へしわ寄せが来ることへの抵抗感もあるでしょう。

 

育休を取った男性の仕事を周囲にただ割り振ったのでは、とうぜん不満や不公平感が出ることが予想されます。

 

しかし「他の人に任せるから君はもういらない」というのでは大変もったいない話です。

 

なにしろ、育児を経験した男性は、限られた時間で優先順位をつけてタスクをこなす能力や、大人の思い通りにならない赤ちゃんのお世話をする忍耐力、出産育児をする女性社員への理解など、高いスキルを身につけて戻ってくることが期待できるのですから。

 

筆者の知っているある職場(国家公務員)では、有休の取得や時短勤務などの適正な利用はもちろん、育児休業も率先して取るよう指示が出ており、もし部下が育休を取得できなかった場合、その上司は管理能力不足と見なされるようになっています。

 

せっかくの制度が生きるかどうかは、職場の意識にかかっているといえますね。

 

まとめ


近頃ひんぱんに耳にする「パタハラ」の実態、イメージできたでしょうか?

 

わが家には当てはまらないという人も、お子さんが成長して社会人になった時にパタハラが残っていてほしくはないと思います。

 

もし、職場に育休を取りたいのに言い出せない人やお子さんの病気で早退するパパがいたら、なにか協力できることはないか考えてみるなど、小さいことから始めてみてはどうでしょうか。

 

文/高谷みえこ

参考:厚生労働省「平成 29 年度雇用均等基本調査の結果概要」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-29r/07.pdf

〃「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11911000/000515057.pdf

〃「くるみんマーク・プラチナくるみんマークについて」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html

内閣府 共同参画2018年6月「男性の育児休業取得促進事業(イクメンプロジェクト)の取組について」 http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2018/201806/pdf/201806.pdf

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000174277_3.pdf