学級崩壊を起こした我が子のクラスのイメージ

「学級崩壊」は、2000年頃から全国の小学校で問題になり始め、たびたびメディアで報じられるようになりました。 小学校側でもさまざまな防止策を取ってはいますが、いまだにわが子のクラスや同じ学年のクラスが学級崩壊したという話が後を絶たず、小学生や入学を控えたお子さんを持つママやパパは不安を感じていることと思います。 今回は、いつどこの小学校で起こってもおかしくない学級崩壊の原因・背景や、親としてできることについて考えてみました。

 

「学級崩壊」とはどんな状態?


小学校で、新任の先生や指導力に課題のある先生が受け持ったクラスが授業を維持できなくなってしまう現象は昔から時折あったといわれますが、1990年代頃のある時期から、ベテランのはずの先生のクラスでも同じような異変が起こりはじめ、全国に広がっていきました。

 

そこで、平成11年、当時の文部省から依頼を受けた「学級経営研究会」が全国的に調査を行い、次のような状態をいわゆる「学級崩壊」と言い表しています。

 

「子どもたちが教室内で勝手な行動をして教師の指導に従わず、授業が成立しないなど、集団教育という学校の機能が成立しない学級の状態が一定期間継続し、学級担任による通常の手法では問題解決ができない状態」

 

「勝手な行動」とは次のようなもの。

 

  • 授業中の私語や大声で騒ぐ
  • 立ち歩きや教室から出る
  • けんか、暴力
  • 掃除や係の仕事をしない

 

ひどい場合では授業中にサッカーボールを蹴る、イヤホンで音楽を聴いたりゲームをする、窓からモノを投げる、注意した先生に怪我を負わせるなど、一昔前の中学高校での校内暴力と変わらない状況が小学校で起こっているということです。

 

2001年には、全国の公立小学校のうち1154校で聞き取り調査をしたところ、校長の約4 分の1、教師の約3分の1が、「自校には学級崩壊しているクラスがある」と回答しており、どの小学校に通っている子どもにとっても他人事ではないことが分かります。

 

学級崩壊したクラスでは以下のような問題が懸念されます。

 

  • 学習の遅れ
  • 暴力的な行為によるけがなどの危険
  • 精神的に不安定になる
  • 欠席や不登校
  • 教師の心身トラブル

 

九九や分数の計算といった学習の山場の時期に授業がまともに進まないことで、そのクラスの子どもたちの学習に悪影響が出たり、本来なら行かなくてもよい学習塾に通わざるを得なくなったという話も聞きます。

 

また真面目な子や繊細な子ほど荒れた雰囲気に耐えられず、不安や恐怖から欠席・不登校にいたるケースも。 教師の側も精神を病み、休職・転任・退職などの事態に追い込まれるなど、学級崩壊は多くの悪い結果を招いてしまいます。

 

学級崩壊はなぜ起こる?原因と背景


前述の「学級経営をめぐる問題の現状とその対応」報告では、全国の学級崩壊の102学級の事例を10のパターンに分類しています。

 

  1. 就学前教育との連携・協力が不足している
  2. 特別な教育的配慮や支援を必要とする子どもがいる
  3. 必要な養育を家庭で受けていない子どもがいる
  4. 授業の内容と方法に不満を持つ子どもがいる
  5. いじめなどの問題行動への適切な対応が遅れた
  6. 校長のリーダーシップや校内の連携・協力が確立していない
  7. 教師の学級経営が柔軟性を欠いている
  8. 学校と家庭などとの対話が不十分
  9. 校内での研究や実践の成果が学校全体で生かされなかった
  10. 家庭のしつけや学校の対応に問題があった

 

このうち、調査当時、明らかに多かったのが「教師の学級経営が柔軟性を欠いている」(74学級)と、「授業の内容と方法に不満を持つ子どもがいる」(65学級)でした。

 

担任の先生が子どもの気持ちを無視した接し方をしていたり、授業内容が分からない・面白くないから、指導に反抗したり立ち歩いたりする…など、教師の指導力不足がおもな理由だと分析されています。

 

しかし、その後研究がすすむと、それ以外の原因もやはり見逃せないことが指摘されるようになりました。

 

実際、同じ先生のクラスで毎年のように学級崩壊の危機が起こったり、担任が変わってクラスが立て直せた事例もありますが、いちがいに先生の力量不足だけが原因ではなく、複数の原因が積み重なり限界を超えたときに学級崩壊が起こるといえるのではないでしょうか。

 

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学級崩壊するクラス、担任の先生や子どもたちの特徴は


ある小学校の先生は、学級崩壊寸前で必死でいろいろ対策を調べて、次のようなことに気づいたといいます。

 

「私は完璧主義なところがあり、理想が高くてそこからはみ出す子どもが許せない面がありました。私にとっての良い子とは、授業をきちんと聞ける、ルールを守る、口答えをしない、友だちに迷惑をかけないなど、どれも”都合の良い子”だったんです」

 

子どもの側にも、学年やその年のメンバーによって特徴があります。 低学年では、興味の持てる授業を工夫し柔軟な対応を心がけていても、やはり立ち歩いてしまう子や先生の注意を自分だけに集めたくて騒ぐ子など、未熟さの目立つ行動がクラス内に多いと、他の子もつられて連鎖的に広がるケースが多いとのこと。

 

”ギャングエイジ”と呼ばれる3年生頃からは、大人と子どもの1対1の関係が弱まり、子ども同士が集団になって行動、自己主張する傾向が強くなります。

 

高学年では、SNSなどのプラットフォームで大人のリアルな発言を見聞きすることが増えた結果、「誰とでも仲良くしましょう」という学校での建前と現実社会の矛盾に反発したり、複雑な友人関係などによるやり場のないストレスから荒れた行動に出ることも多いと考えられています。

 

また、他人が判断するのは非常に難しい問題ですが、小さい頃からADHD(注意欠陥多動性障害)やLD(学習障害)などの発達障害、またはその傾向があり、それに対して適切なケアがされなかった子が複数いるクラスではどうしても授業がスムーズに進まなくなりがちです。

 

こういった子どもたちと、先生のタイプの組み合わせによっては、学級崩壊が起こりやすくなってしまう可能性があります。

 

学級崩壊の予防と立て直しには何が必要?


それぞれの小学校でも、もちろん何の手も打っていないわけではなく色々な対策を取っています。 現在取られている対策の例としては次のようなものがあります。

 

授業体制の工夫

中学年以降の算数など理解度に開きが出やすい教科では、習熟度ごとに少人数に分かれて授業を行い「難しいから授業に参加できない、しない」という子を作らないようにしているそう。 また、比較的落ち着いている他のクラスと合同で、体育や家庭科などの授業を行い、クラスの雰囲気を変えるきっかけにしているということです。

 

担任の先生が1人で抱え込まない体制づくり

担任の先生だけが問題を抱え込んでいると、負担が大きく対処も遅れがち。学級崩壊が起こってしまう前に他の先生や校長・教頭がサポートに入れるよう、情報共有をすすめているといいます。 また、クラス替えが2年ごとの学校は、トラブルが起きると長期化・固定化しがち。毎年に変更することでいじめの防止にもなり、学級崩壊が起こりにくくなったという報告があります。

 

幼保・小学校・中高の連携

小学校1年生で、環境の変化についていけずトラブルを起こす「小1プロブレム」を防ぐため、入学前に幼稚園・保育園と子どもたちの性格や留意する点を共有する動きはかなり広まっていますが、現在は中学校との連携も必要とされ始めています。 中学校入学後の子どもたちの行動や態度・学習のようすを小学校でも把握することで、現在の指導や今後の対応に生かすことができると期待されています。

 

子どもたちには「自信」を

過去に多くの学級崩壊を立て直し、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも注目された元小学校教師の菊池省三氏は、「自信が人を伸ばす」と考え、クラス全員が毎日友達の良いところを見つけてほめる「ほめ言葉のシャワー」を実践しました。 その結果、問題行動の多かった子どもたちも、他人を信じ、コミュニケーションしようという意欲を持ち始めたといいます。

おとなしい子たちこそケアを

学級崩壊では、問題行動のある子、原因となる子だけを正せば学級崩壊がおさまると考えがちですが、同じくらい重要なのは他の子たちのケアだといいます。 人間は周りの大多数の雰囲気に合わせる習性があるので、例えば35人学級で立ち歩く子が5人いたとしても、あとの30人がいきいきと授業に集中していれば、立ち歩いていた子もいつの間にかそれに合わせ始めることも多いそう。 やっきになって立ち歩く子を叱るのではなく、それ以外の子が安心して授業を受けられる工夫に力を注ぐ方が早く解決することもあるといいます。

 

親にできる対応・対策は


学級崩壊が起きてしまった時、あるいは起こりそうな時、親には何もできないのでしょうか? 実際に、子どものクラスが学級崩壊した経験のあるママにも話を聞いてみました。

 

「息子が3年生の時、立って教室を出ていく子が増え、注意した子をたたいたり、毎日それを見ていた女の子数人が精神的に不安定になったり…と、授業が今までのようにまともに進まない状態になってしまったことがあります。大人の目があるだけでも変わるのではと、最初は数人の保護者が授業の見守りに入らせてもらいました。やはり多少は効果があり、立ち歩く子も減りましたよ」(Wさん・43歳・当時3年生の男の子のママ)

 

「娘が5年生頃に、女子のトラブルからクラスが分裂して学級崩壊になりかけました。私は先生の対応について疑問が大きかったのですが、ちょうど参観があったので思いきって先生に事実関係を確認すると、誤解や思い込みがあったことが分かってきて。先生に一方的に不信感を持つのはマイナスでしかないと思いました」(Jさん・45歳・当時5年生の女の子のママ)

 

他にも、小さい頃からママ友同士や両親が子どもの前で先生や親戚の悪口・批判ばかり言っていると、子どもは「そんな人(先生)の言うことは聞かなくてもいい」と思ってしまいかねません。

 

もちろん子どもが先生についての不満を言ってきた時は頭から否定せずに聞き、フォローできればフォローし、もし本当に問題があれば冷静に事実を確認や相談する…という姿を見せるのが良いですね。

 

まとめ


今回、学級崩壊の背景を考えるにあたり、筆者の娘たちの小学校時代を思い浮かべていました。 次女の6年生の担任は20代の若い男性でしたが、とてもすばらしいクラスの運営をされていて、子どももクラスが楽しくてたまらないと言っていました。おそらく並々ならぬ努力をされていたのだろうと改めて頭が下がりました。 もし、今後子どものクラスで学級崩壊が起こってしまったら、ママ1人の力で解決するものではないかもしれません。 しかし少しでもそれを未然に防ぐためには、忙しい中でも学校のことに無関心にならず、子どものために親と学校で協力していこうという気持ちを忘れずにいたいですね。

 

文/高谷みえこ

参考:国立教育政策研究所「学級はいかにして機能するのか一全国公立小学校校長・教員調査一」http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10619510_po_ART0007297912.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

国立教育研究所「学級経営をめぐる問題の現状とその対応―関係者間の信頼と連携による魅力ある学校づくり―」 https://www.nier.go.jp/kankou_kouhou/124komatsu.htm

書籍『菊池省三流 奇跡の学級づくり: 崩壊学級を「言葉の力」で立て直す 』菊池省三 著 小学館