3歳の女の子を育てるゲイカップル。パパ2人に子ども1人の「新しい家族の形」は、NHKのドキュメンタリー番組でも放送され、注目を集めています。周囲からの疑問や葛藤の声とも真摯に向き合い、7年かけてわが子を迎え入れたふたり。「家族の幸せ」を決めるのは何なのか。ふたりの歩みから、多様化する現代の新しい絆の形を考えます。
結婚の決め手は「この人の排水口なら洗える」

── 3歳の女の子と暮らす看護師ゲイカップルのハヤトさんとタカフミさん。2018年に結婚式を挙げ、2022年にお住まいの千葉県市川市の制度を利用してパートナーシップの届け出をされているそうですね。そもそもの出会いや、結婚にいたったきっかけを教えてください。
タカフミさん:出会ったのは2015年の秋で、翌年の夏には同棲し始めていました。僕らはふつうの男女と違って出会いが限られているので、ゲイ専用のマッチングアプリで知り合ったのですが、当時ハヤトはやせてシュッとしていて「かっこいい人が来た!」と思いました。お互い看護師と職業が同じで、恋人というより仕事の悩みが話せる友だちになれたらいいな、と最初は思っていました。
ハヤトさん:タカフミがアプリに載せている写真が金髪のイケイケな感じで、メッセージのレスポンスも早くどんな陽キャが来るのかと思って会ってみたら、髪は黒くて人見知りがすごく、目も合わせない。最初はそのギャップに驚きました(笑)。
私たちは同学年なのですが、タカフミは大学を2つ出ていることもあって当時看護師1年目、私が5年目だったんです。看護師の1年目って本当に大変で、タカフミも精神的にものすごく追い込まれていたんです。1日の食事が「うまい棒1本」の日もあると聞いて心配で…。彼の家へ行って食事の支度や部屋の掃除をするようになりました。
お風呂場もかなりぬめりがひどく汚れていたんですけど、排水口の掃除を一心にしている時に「この人のためならこんなに汚い排水口でも耐えられるんだ。だったら一生一緒に添い遂げられるかな」と思って、私からアプローチをしました。
── お互い、ご両親にはカミングアウトされていたのですか?
タカフミさん:はっきりとは伝えてはいなかったのですが、ハヤトとつき合うタイミングで広島の両親に伝えると、「もっと早く言ってくれればよかったのに」という感じですんなり受け入れてくれました。
ハヤトさん:彼の両親を見て勇気をもらって、私も実家に帰って母に「実は男の子と結婚します」と、伝えたらものすごい剣幕で「あんたなんて産まなきゃよかった」と言われてしまって。カッとなって「だったらまともに産んでくれればよかったのに」と、言い返して大ゲンカになりました。
父は職人気質で「男は男らしく」という考えなのは幼少期からわかっていましたし、「両親に認めてもらうのはもうムリかもしれない」と、しばらく連絡を絶ちました。でもタカフミが「最初から受け入れてもらうのは難しいから、少しずつ認めてもらえるように話をしていこうよ」と言ってくれて、おかげで結婚式には両家の両親そろって参加してくれました。
両親がいることだけが子どもの幸せではないはず

── 子どもが欲しいと意識し始めたのはいつ頃、どんなきっかけからでしょうか?
ハヤトさん:子どもが欲しいという話は、結婚前からしていました。お互いゲイでも子育てできたらという願望は持っていたのですが、最初は口にはしていなかったんですね。でもある時、Instagramで海外のゲイファーザーたちが子どもとすごく幸せそうに暮らしている写真を見て「こういう暮らしっていいよね」という話をしたら、タカフミも「じつは僕も子どもが欲しいと思ってたんだよね」と言ってきて。
2人とも同じ気持ちだということがわかってから具体的な話をするようになりました。初めは海外の代理出産などについて調べたものの費用が高すぎて断念。でも、あきらめきれず…。
── 子どもを持つというのが現実味を帯びてきたのは、おふたりのブログに女性同士のカップルから連絡があったことがきっかけだったそうですね。
タカフミさん:ブログにゲイカップルだけど子どもが欲しいと書いたら、女性カップルの方から「協力し合いませんか?」というようなメッセージが届きました。最終的に3組の女性カップルから連絡が来たので、順番に会ってみることに。
ハヤトさん:1組目は、精子ドナーになってほしいというオファーでした。基本的にその女性カップルが子育てをして、たまには会える親戚のおじさんくらいの距離感でどうかという提案でしたが、私たちはどうしても自分たちの手元で育てたかった。2組目は、4人で大きな家を借りてみんなで子育てしましょう、と言ってくださったのですが、共同生活がうまくいかなかった時のことを考えて断念しました。
そして、3組目のカップルは「将来的に複数の子どもを迎えることになったら、それぞれの家庭で子どもを育てて、お互い会いたい時には会えるようにしたらどうでしょう」という提案をしてくださいました。私たちの希望にいちばん近かったし、価値観もぴったりだったので、その方向で話し合いを進めることにしました。
── 日本ではまだ珍しいケースですし、周囲からはさまざまな意見があったのではないですか?
ハヤトさん:「10か月もお腹の中にいた子を、大変な思いをして産んで、すぐ誰かに渡すなんてできるのかな」という意見もある一方、「あなたたちが決めて、協力してくれる人もいるなら、いいことだと思うよ」という意見もあり、賛否両論でした。
タカフミさん:両親も、結婚に関しては受け止めてくれたけど、子どもに関しては「将来いじめられたらどうする?」「偏見の目で見られるよ」と、大反対でした。
ハヤトさん:うちの親からは「母親の愛情を知らない子は不幸になるよ」と、言われていました。
── そういった声をどのように受け止めましたか?
タカフミさん:やはり事実として、いまの日本でゲイカップルの子育てが偏見の目で見られるのは理解していますし、一理あると思いました。ただ、それだけじゃない、という思いはありました。僕たちは親になった時に、親としての責任はきっちり果たしていく覚悟がありましたし、生まれてくる子を「かわいそうな子」にしないように、根気強く周囲に理解を求めていこうと思いました。
また、学生時代から心理学を学ぶ中で、子どもの愛着形成には血縁や養育者の性別そのものよりも、日々の関わりや関係性の質が大切だという研究が積み重ねられてきたことを知りました。父親や養親とも安定した愛着関係を築くことができる。そうした知見を知っていたことも、私たちが家族の形を考えるうえでの支えになっていました。
ハヤトさん:私も悩みに悩んだのですが、タカフミと同じで「それだけじゃない」という思いはありました。私は長く小児科に勤めているのですが、その中でいろんな家族を見ているので「両親そろっていること=必ず幸せ」というわけでもないのはわかっていました。
シングル家庭でも、祖父母が子育てしている家庭でも、里親の家庭でも、毎日病院に来て子どもに愛情をかけている家族がたくさんいらっしゃいます。大切なのは「育てている人の愛が子どもに伝わるか」だと思ったんです。幸せを決めるのは子ども自身のはず。私たちの元に子どもが来てくれるのであれば、その子の権利や幸せを一番に考える、そこは絶対にブレずに物事を進めようと決めていました。