金銭的負担が大きく、仕事の予定も立てづらい

── 不妊治療中は、先の予定が立てにくいと言われています。トルコの滞在中はどのように過ごしていたのですか。

 

村主さん:可能性を増やそうと、大きく育った卵子のほか、小さい卵子も大きく育つのを再度待って採卵したので、1か月くらいトルコに滞在しました。アメリカに戻るチケットの日にちを延長し、ホテルの延泊代も結構かかって。次の予定もなかなか決まらないので、先の予定が入れられませんでした。

 

アメリカでスケートを教えている生徒の大会が間近にあり、間に合わない可能性があるということはご両親に説明していましたが、それ以外の仕事はリモートでなんとかやってきました。ホルモンの影響でつわりのような症状があり、体調はあまりよくなかったので、観光は近場で回れるところに少し行ったくらいです。

 

── フライト時間も結構かかりますし、現在住んでいるアメリカ・ダラスとは時差もあるので、渡航の負担は大きかったと思います。

 

村主さん:時間と費用をかけても、必ずしも結果が出るわけではありませんし、回数を重ねるたびに、結果を受け止めることへの精神的な負担も大きくなっていきました。不妊治療中は仕事をセーブしなくてはならないのに、費用面での負担はかかるので、仕事とのバランスをどう取っていくかも難しいですね。

 

トルコは病院に行かないと次の通院の予定が立てられないのですが、その点、日本の病院はオンラインで予約もできますし、早朝や夜などに開いているところもあるので、働きながら通う方にとって日本の環境は便利だと思いましたね。

今後については「まだ結論は出ていない」

── 今後についてはどうお考えですか。

 

村主さん:夫は私より13歳若いので、相手が違えば自分の子どもを持てる可能性は高いです。夫のことを思うと、円満離婚をしたほうがいいのかなと、考えることもあります。去年まで治療を行ってきたのですが、今は今後どうしようか考えているところで、小休止の状態です。年齢的に小休止している場合ではないんですけどね…。

 

アメリカには卵子提供を受けることや、養子を迎えるという選択肢もあるので、今後の選択肢については夫婦で話をしています。夫は「理解はできるけれど、そうしようとは思わない」という考えで、まだ結論は出ていません。

 

不妊治療は、私がアスリートだったことが影響して自分で難しくしてしまっているのかなと思うときもあるんです。仕事もそうですが、「何事も努力する」という考えが根底にあるので、結果が出るまで取り組むことが染みついていて。不妊治療中は、もっとゆったりとした気持ちで構えていたほうがいいと思うんですが、「一生懸命やらなきゃ」とエネルギーを費やしてしまう傾向があります。不妊治療について周囲に話してこなかったのも、決して知られたくなかったわけではなく、それが理由で、何かに穴をあけて迷惑をかけてしまうことが嫌だと感じていました。

不妊治療を通じて、今後の生き方を見つめ直す今

── 現役時代の厳しいトレーニングが影響していると感じることもあるそうですね。

 

村主さん:体を酷使してきたという実感はありますが、決して過去への後悔はありません。現役時代に生理が止まって、ホルモン治療をしたこともありました。ところが薬が合わず体調が悪くなり、「このままでは競技を続けられない」と、治療をやめました。当時はそこまで深く考えていなかったのですが、15、16歳の時点で「もしかしたら将来、子どもができないかもしれない」と思っていたことがありましたね。

 

私の場合は33歳まで現役で滑り、結婚も妊活も後ろ倒しになってしまったのですが、子どもについてはもう少し早く考えてもよかったなと思うときがあります。今の気持ちとしては、子どもがいない人生について考えるのもひとつの選択肢で、もしかしたら「子どもがいる人生だけがすべてではない世界を知るべき」ということなのかな、と。アメリカでスケートのショーを実現したいという目標があるのですが、不妊治療を続けながらは難しいのかなと考えてしまいますね。

 

── 今回、不妊治療について初めてお答えいただいたのは「私の経験が誰かの役に立つかも知れない」という思いからだったとおっしゃっていました。ご自身のこれまでの経験を振り返って、みなさんに伝えたいことはありますか。

 

村主さん:不妊治療が「こんなに大変だ」とは思っていなかったというのが正直な感想です。それに、時が経つにつれて検査の結果も思わしくなくなっていくのを見て、体の年齢は正直だと痛感しました。

 

私は「すぐ終わるもの」と思って不妊治療を始めたのですが、思ったより時間がかかるというのも実感しています。焦らず、長距離走だと思ってチャレンジするのがいいですね。それこそ、オリンピックを目指していたころのように「また次の4年頑張る」というような気持ちで、長期的な視野で構えたほうがいいと思いました。

 

不妊治療は、正解がないなかで自分が納得して、自分に合う方法を探していく旅のようにも感じます。治療にかけるのと同じ時間と同じお金を何に使うのが幸せなのかについても同時に考えていて、不妊治療を通じて今後の生き方について私自身も今、見つめ直しているところです。

 

取材・文:内橋明日香 写真:村主章枝