虐待の連鎖を恐れ、子どもを持たない人生を選び
── また、あえてお子さんを持たない夫婦ふたりだけの生活を選択されたそうですね?
松尾さん:自分が特殊な育ち方をしているので、自分の母親と同じように、親になったときに子どもに手を上げてしまったり、虐待することが連鎖してしまったらどうしようっていうのが怖くて。傷つける側になりたくないっていう思いがすごく強かったんです。子どもを育てられるか、周りに助けてくれる人はいるかどうかをシミュレーションし、夫とも話した結果、子どもは持たないという選択をしました。
── やはり幼少期の体験が結婚生活にも影響が出ているのですね。
松尾さん:そうですね。ただ、子どもを持たない選択をしましたが、社会に出て何年か働いていくうちに、親としてそうせざるを得なかった複雑な状況もわかるようにはなりました。母親の精神疾患による子どもへの虐待、父はコミュニケーションが苦手で酒やギャンブルにはまり極限状態だったこと。子どもを母から守れなかった父親の弱さなどから、お互いの身を守るために別々に生きていくことが、私たち家族にとってベストな決断だったんだろうなって思えるようになりました。だから親に対する恨みや怒りは特にないですね。
── いま、ご両親とはどういうお付き合いをされていますか。
松尾さん:父は10年前に他界しました。大学時代は多忙で、卒業後すぐにひとり暮らしを始めたこともあり、父との関わりが薄いまま自立してしまったことは、今となっては心残りです。私はずっと両親に認めてもらいたくて努力してきましたが、九州の祖母が父に「知枝は頑張っているか」と尋ねた際、父が「つまらん!」と答えたと聞いて非常に憤慨したことがありました。結局、その真意は聞けずじまいでしたが、親として何もしてあげられなかった不甲斐なさが、そんな言葉になったのかもしれない…今はそう感じています。
いっぽう、母の状態は安定して、現在は普通に生活をしています。今は母の病気を理解しながら、適度な距離感で付き合えています。
── 幼い頃は家族に苦しみ、そして今はご自身で家庭を築かれました。そんな松尾さんにとって、「家族」とはどんな存在ですか。
松尾さん:ありのままの自分でいられる場所だと思います。私は子どもの頃、「ちゃんとしていないとここにいられない」と思い、孤独ながら児童養護施設で懸命に生きてきました。でも今は、お互いに無理をしなくても安心して帰ってこられる場所を、夫と一緒につくっていけたらと。それが私にとっての家族なのかなと思います。
取材:文 岡﨑優子 写真:松尾知枝