「虐待することが連鎖してしまったらどうしようっていうのが怖かった」。幼少期に母親から虐待を受け、児童養護施設で育った松尾知枝さん。その過酷な経験は結婚後も松尾さんに影響を及ぼしたそうですが、大人になって親の立場を理解できるようになった今では、親に対する怒りや恨みは抱いていないと言います。
境遇は変えられなくても境遇の意味は変えられる

── CAからタレントに転身、現在は婚活・コミュニケーションコンサルタントとして活動する松尾さんですが、幼少期は母親から虐待を受け、小学5年生から8年間、児童養護施設で暮らしていたそうですね。その後、高校を卒業するタイミングで施設を出て実家に戻ったそうですが、それはなぜでしょうか。
松尾さん:母は私が児童養護施設に入ると同時に精神疾患で措置入院となり、卒業当時も入院をしていました。父は酒やギャンブルに溺れていたものの、仲違いしたわけではなかったので、実家に戻ることに抵抗がなかったんです。
奨学金をもらいながら、たりない学費はアルバイトをして稼ぎつつ大学に通いました。金銭的には厳しかったので、周りの同級生が学生生活を謳歌するのを横目に、私は飲み会に行くことすらほとんどなかったですね。
── 必死に大学に通い、卒業後はCAになりました。当時、CAといえば女性の憧れの職業で、採用も狭き門だったと思います。
松尾さん:実はCAに対する憧れはまったくなかったんです。ちょっと変な動機ですが、これまで過酷な環境で生きてきて、いつしかそのアップダウンのある境遇を乗り越えていく楽しさを実感するようになっていて。仕事がハードなCAという仕事が私の特性には合うんじゃないかなと思ったんです。また、人とのコミュニケーションがすごく苦手だったので、CAの職場なら逆に、厳しく教育してもらえるのではと思って目指しました。
── 人生のアップダウンがポジティブに捉えられるようになったのはいつ頃からですか。
松尾さん:19歳のとき、古本屋で買った仏哲学者ボーヴォワールの著書『哲学は女を変える』を手にしてからですね。「境遇はすぐに変えられなくても、その境遇の持つ意味は自分で変えることができる」といった内容に衝撃を受けました。母親から虐待を受け、児童養護施設で育つなど、自分が置かれたそれまでの環境にコンプレックスがありましたが、自分を変えていけるのかなって希望を持てるようになったのがこの本でした。
また、実際CAになった後も、同期から「多感な時期に親から離れたことで、親の呪縛に染まらずに生きることができたから、あなたは自由な感性を持って生きることができた。そうとも考えられるんじゃない?」「うちの親は厳しく、あれこれ指示することも多かったから、あなたの境遇はある意味羨ましい」と言われ、目から鱗でした。まさに私の境遇の持つ意味を変えられるひと言でした。