「双子のひとりがバレーボールやりたい!と言い出して」と、SNS投稿が話題を呼んだバレーボール元女子日本代表の大山加奈さん。幼少期の自分の経験を振り返り、いまだ残る育成期に長時間練習をさせるやり方やスパルタ指導に疑問を呈する大山さんに、昭和と現代の指導法の大きな違いや、今も残る課題について聞きました。
昭和のスパルタはまだくすぶっている
── 大山さんは、中・高時代のバレーボール部にて「選手が自分で考えて動く」指導を受けてきたものの、日本代表入りしてからは昔ながらのスパルタ的な指導に直面し、そのギャップに苦しんだと伺いました。
異なる指導を経験している大山さんだからこそお聞きしたいのですが、令和になった現在、スポーツの指導法は昔と変わったと思いますか?

大山さん:大きく変わりましたね。昭和の時代は、厳しい練習を長時間続けるスパルタ的な指導が多かったと思うのですが、令和の今は、最新のスポーツ科学に基づいた効率的な方法で子どもたちをのびのびと育てる指導者の方がずいぶんと増えた印象です。
昭和生まれの私は、小学校こそスパルタ指導を受けてきましたが、平成に入った中高時代は「うまくなりたい、強くなりたい」という目的意識を持って、自主性を重んじる指導を受けてきました。令和になった最近はそれに加え、「選手がのびやかに練習できる指導法」が多くなっているのを感じていて、よかったと思っています。
以前は「スパルタ的なやり方が正しい」「厳しくなければ強くなれない」の考え方が大多数でしたが、少しずつ「別の方法もあるのでは?」と気づいてくれる指導者の方が増えたことも変化をあと押ししたように思います。たとえばバレーボールでは、男子日本代表のフィリップ・ブラン元監督が選手の意思や体調を考慮したゆとりある指導を行っていましたが、本当に素晴らしかったです。
「スポーツは厳しくないと成果が出ない」と思っている方もいるかもしれませんが、男子日本代表はフィリップ・ブラン元監督のもと、2020年の東京オリンピックで29年ぶりのベスト8進出という快挙も成し遂げています。この頃からバレーボール界の全体の潮目も変わり始めました。他国を見ても、同じような指導法によって好成績が生まれているケースが多いという印象を持っています。
いっぽうで、昭和のスパルタ的な考え方がまだまだ残っている環境も少なくないのが現状です。さすがに手をあげることはなくなったと思いますが、言葉で追い詰めたり、長時間練習を当たり前としていたり。
── 言葉で追い詰めるというのは、たとえば「どうしてできないんだ?」といったような?
大山さん:そうですね。あとは「試合に出さない」「メンバーに入れない」といった選手を脅すような言葉は、いまだに消えていないのが実情です。私も、日本代表入りしたときは、脅しのような直接的な言葉はもちろんなかったものの、「もしメンバーを外されたらどうしよう」という大きなストレス、恐怖心を抱えていました。「日本代表に選ばれたからにはメンバー入りしなければ」と思うほどに恐怖心は大きくなって、自分を追い込むばかり。その結果、身体的にも入眠障害というかたちで症状が現れ、ずっと悩んだ末に、代表入りから約10年後、自分を守るために現役引退を決めました。
朝練をやるくらいなら「そのぶん寝たほうがいい」
── いわゆる昭和の指導法の最も課題となることは何だと思いますか?逆に令和に残したいと思うことはありますか?

大山さん:私が、昭和の指導法で最も課題だと考えているのは、長時間の練習が当たり前という考え方です。といっても、短ければ短いほどいいというわけではありません。時間をかけて多くの練習を積まなければならない時期や技術はあります。
大事なのは「この練習は何のためにやるのか」という目的です。それが確立されていれば、長時間の練習も決してネガティブな経験になることばかりではないと思うんです。
「朝から晩まで練習しないと勝てない」という思い込みや練習自体が目的化してしまっていることが課題であり、それを当たり前とする風潮は令和においてもいまだに残っているのが現状。目的がない練習に多くの時間や体力を浪費してしまっているように感じます。
── たとえば、週末を含めた過度な長時間練習をやめて、目的意識をはっきりさせた短時間な練習に切り替えた場合、選手の成長に影響があると思いますか?
大山さん:対外試合の移動なども含めた長時間の拘束で、睡眠時間にも影響していたとしたら、好影響があると思います。まず、睡眠時間をもっと増やすべき。特に成長期の年代は、身長を伸ばす、体をつくることが最優先だと思うので、朝から夜まで練習をして、睡眠時間まで削るのはちょっと違うと思うんです。
コロナ禍で練習ができなくなった時期に「身長が伸びた」「慢性的な痛みが引いた」という声をたくさん聞くようになりました。そのとき「これを機に、休むことって大事なんだなと、指導者や選手たちが感じてくれたらいいな」と思ったんですよね。
また、練習をしすぎると次への意欲が湧きづらくなります。適切な時間にとどめ「もっと練習したい」と飢えた状態にしておくほうが、練習でお腹いっぱいの状態よりも、成長に好影響が現れるはずです。実際、自分の中高時代を振り返っても、その好循環が生まれていたから、結果が出ていたように思います。
そう考えると、学生時代は基本的に‘朝練は必要ないと思うんですよね。身長もパフォーマンスも伸ばすためには睡眠時間が大切だから、早朝からトレーニングをするよりも寝たほうがいい。私自身、現役時代は睡眠障害に苦しみ、パフォーマンスの低下を痛感したので、睡眠の重要性は人一倍実感しています。
── これまで、スポーツで結果を残すためには、長時間練習が必須というイメージがありました。自分の思い込みと大山さんのお話のギャップに驚いています。
大山さん:そう思われている方が多いかもしれません。限られた時間のなかで集中し、練習で120%の力を発揮するためにも、練習時間の短縮化は必要不可欠です。たとえば、日本でも日本サッカー協会から小学生時代のプレー時間の制限が推奨されているし、世界でも強豪国では年齢に応じて制限時間が設定されています。日本のバレーでも「今日は2時間練習します」と、全力で練習に集中したほうが効率もいいと思います。