こんなことで気を病む自分が弱いのか

── 傷つけられたのは清水さんのほうなのに、相手ではなく自分を責めてしまったのですね。
清水さん:18歳で初めて本格的な舞台に挑戦した頃も、打ち上げの席で父よりも年上の俳優さんから胸が大きいジェスチャーをしながらひどいことを言われました。周囲は「あの子まだ18歳ですよ」と止めていましたが、みんな笑っていたことがありました。その場では意味がわからず、帰り道にスマホで調べたら、自分が性的な対象として揶揄されていたと知り、真剣に稽古していただけなのになと悲しい気持ちになりました。
「真面目に仕事に向き合っているだけなのに、なぜこんな目に遭わなければいけないのだろう。自分に非があるのではないか」と、自分の存在、身体そのものを気持ち悪く感じることもありました。
そうした経験が積み重なり、20代前半には「こんな胸、ないほうが幸せになれる」と思い詰めるまでになりました。自分の体が敵のように思えて仕方なかったんです。そのいっぽうで、こんなことを気に病んでしまう自分は弱いのではないかとも考え、一番苦しい時期でした。
── そこから、あえてグラビアの世界へ進もうと思ったきっかけは何だったのでしょう。
清水さん:この先、男性と関わらずに生きていくことはできませんし、芸能界にいる以上、この体を味方にしなければ、ずっと苦しいままだと思ったんです。そんなとき、たまたま手にした岡本太郎さんの本にあった「私は、人生の岐路に立ったとき、いつも困難なほうの道を選んできた」という言葉がすごく心に響きました。グラビアは華やかな世界ですが「自分が絶対に苦しむ道だ」と思いました。偏った考え方ですが、あえてコンプレックスを世間に晒し、武器に変えざるを得ない状況へと自分を追い込む。そうすることで強くなれるんじゃないかと思ったんです。
胸が大きくても堂々と胸を張って歩いている人はカッコいい。でも私はいつも人目を気にして縮こまっている。自分もあんな風に強くなりたい。そう思って、飛び込んでみようと決めました。
── かなり振りきった挑戦だったのですね。実際にグラビアで人気を得て、多くの人から求められるようになりました。長年苦しんできたコンプレックスは解消されましたか。
清水さん:いえ、それがまったくダメだったんです。最初の3年間は胸への根深い嫌悪感が消えず、「私ってほんとに気持ち悪い体してんなぁ」と思っていました。いくら褒められても自分の体を好きになれず、自信も持てない。明るい砂浜で撮影しているのに、身内に不幸があったのかってくらい暗い表情でそのシチュエーションにうまく馴染めない(笑)。「明るく!楽しそうに!」とよく言われていましたが、私には難しかったです。
当時の私にとって胸は、仕事中だけなんとか一緒に頑張るビジネスパートナー。終われば、また嫌な存在に戻ってしまう。心はなかなか追いつきませんでした。
転機になったのは、23歳のときに出演したABEMAの『妄想マンデー』という番組でした。リハーサルでの私の雰囲気を見たMCのピース・綾部さんから「無理に明るくキャラを作らなくていい、いつものあいりちゃんでいいからね」と言われたんです。えっ?と衝撃を受けました。それまで明るいキャラクターを必死に演じようとしていた私にとって、普段のテンションのままでいいんだと思えたことが、救いになりました。
本番でいつものテンションのまま声も張らない関西弁で胸をユーモラスに使うネタをやったら、スタジオが笑いに包まれて、嬉しかったですね。この胸もセクシーも笑いになるんだと思えたことで、胸のことが共に戦う仲間に見えてほんの少し好きになれました。この胸とどう付き合っていけばいいのかがそのとき初めて見えた気がしました。
実は今でもコンプレックスは拭えていないけど
── もともとお笑いは、つらい時期の清水さんを支えてくれた存在だったとか。
清水さん:子どものころからお笑いが大好きで、学生時代に引きこもっていた頃も、深夜のお笑い番組を見ている時間だけは、しんどさを忘れられたんです。芸人さんたちが自分の人生のつらさを自虐で笑いに変える姿に救われ、希望をもらいました。
だから中途半端な気持ちでは向き合いたくなくて、最近よく出演させていただいているまいにち賞レースの番組のネタは必ず自分で考えます。コンプレックスを自分のやり方で少しでも笑いに変えられることが、今はすごく幸せです。目指しているのは「何なんだろう、この人」と引っかかるような「奇妙な存在」です。
── それならたぶん、もくろみ通りです(笑)。ようやくたどり着いた自分らしいコンプレックスとの向き合い方。胸は、清水さんにとってもう「敵」ではなくなりましたか。
清水さん:いえ、今も完全に味方にできたとは思っていません。真夏でもダボッとした長袖ばかり着ていますし、プライベートのときは、やっぱり隠してしまいますね。それでも、自分の胸を敵だと思い、なくなればいいとまで思いつめたあの頃に比べれば、一緒に頑張る相棒として付き合えるようになった。それだけでもずいぶん生きやすくなったと思います。
取材・文:西尾英子 写真:清水あいり