自分にとって心地がいい線引きとは

『人間関係に「線を引く」レッスン 人生がラクになる「バウンダリー」の考え方』の著者で、精神科医の藤野智哉さんは、バウンダリーを考えるうえでは、「他者と関わるなかで誰にどこまで侵入を許すか、誰にどこまで自分を分けてあげるかを意識していく必要がある」と話します。

 

「守るべきものが守れず、使いたくないものに消費されると、やりたいことがやれずに嫌な思いをし、体も心もしんどくなってしまいます。バウンダリーが意識できていないと、無意識に相手を侵害してしまうこともあり、ハラスメントに派生するきっかけになることも多いです」

 

精神科医の藤野智哉さん
バウンダリーに関する著書を上梓する精神科医の藤野智哉さん

kieさんがオランダのインターナショナルスクールで経験した「バウンダリー」の考え方について、藤野さんは「海外ではアイデンティティがはっきりしており、自分の意思をしっかり伝えるなど、自己権利の意識が強いことが影響している」と話します。

 

「日本人は権利の主張や、意思をはっきり伝えるのが苦手な部分があり、慎ましさや奥ゆかしさが美徳な部分が残っている面はあると思います。ただ、海外はこう、日本はこうというステレオタイプは無意識の差別意識につながることもありますので、注意が必要です。バウンダリーを意識するうえでは、自分にとって、どういう線引きが心地よいかをまず知る必要があります」

曖昧になるバウンダリー「学びのチャンスととらえて」

学校や会社など、集団生活において曖昧になってしまいがちな「バウンダリー」。所属している集団とのつながりを守るために自己犠牲を生んでいることも影響しているそうです。

 

「集団生活では、ノリが悪い、他の人はやってくれたのに、こうするべき、といった言葉に騙されて、自分の権利を主張することが間違っているかのような同調圧力さらされることがあります。自分が何を守りたいのか、自分は人生で何を大切にして、何があれば幸せに生きていけるのかをはっきり意識することが大事です。人生の大切なものランキングを作ってみてもいいですね。たくさんあって決められない人は、失いたくないもので考えてもいいです」

 

学校などの集団生活で他人を攻撃してくるケースに「告げ口」や「ちくり」が挙げられますが、藤野さんは、「子どもがどんな意識でいるかを知り、学びのチャンスととらえてほしい」と話します。

 

「先生に褒められたい、その子のことが嫌い、何も考えずに思ったことを言ってしまったなど、子どもの発言理由はさまざまです。だからこそ、『教えてくれてありがとう、先生にどうしてほしいと思ったの?』『悪いと思えたことはよかったけど、言いつけられた子はどう思ったかな』など、理由やその結果について学んでもらうことが大切です。

 

嫌がられたり、先生や親に褒められたり、さまざまな経験を通じて、子どもはどの行動が自分にとってよいのか学んでいきます。他者の行動を強制しようとすることは、他人が学び、成長する権利を奪うことでもありますので、子ども同士のやりとりのなかでもバウンダリーは必要です」

 

社会に「バウンダリー」が根付いていくメリットについて、藤野さんはこう考えます。

 

「自分や他者の権利を尊重でき、無駄にすり減らし合わなくて済むと思います。線を引くというと、一見冷たい考え方と思われがちですが、長く一緒にやっていきたいからこそ重要な概念で、『一緒に長くやっていきたいから、はっきりさせましょう』という感覚でいるといいですね。

 

何かを断る際にも、自分が大切にしたいものがはっきりしていれば、自分のことを大切にしてあげた感覚や、自分で自分の人生をコントロールしている感覚をしっかり持つことができます。バウンダリーを意識することで日々の不安も減っていくと思いますので、ぜひ実践してみてほしいです」

 

取材・文:内橋明日香 写真:Kie、藤野智哉