費用の高い手話通訳の費用が悩みの種

── そんな悔しい経験を経て、現在は合同会社IKUTOの代表として、障害にかかわらず機能的でデザイン性豊かなファッションを開発・販売されていますね。

 

佐藤悠理
佐藤さんが開発したリバーシブルのブランケット。車いすに乗った状態でも巻くことでスカートになる

佐藤さん:障害がある人もない人も等しくおしゃれを楽しめるファッションを自分でつくりたかったんです。ただ、満足できる服作りに必要な生地を大量に購入するためには法人化が必要ということがわかり、合同会社IKUTOを設立しました。

 

10代から続けているモデル活動もあわせて、聴覚障害の人のことを知ってもらい、「聴覚障害のある人は生涯年収に限界がある」という課題に対して何かできないかという思いも起業の理由のひとつです。でも、手話通訳派遣のコストの問題もあり、思うように活動の幅を広げられないもどかしさを感じています。

 

私の場合、仕事で手話通訳の方に同行してもらうと、自分で派遣費用を支払う必要があって、私が動くと、1日4万円かかってしまうこともあるんです。手話通訳の方のおかげでコミュニケーションがとてもスムーズになるので会社のためにはなるのですが、逆に高額な費用を支払わなければならず、収益を出そうとするとそのぶん出費が増える。いろいろ難しいなと思いながら試行錯誤しています。

 

── 手話通訳の方がいないときは、ご自身で工夫しながらコミュニケーションを取っているんですか?

 

佐藤さん:音声を短時間で文字おこししてくれるコミュニケーション支援アプリ「UD(ユーディ)トーク」を使うことが多いです。相手側も、アプリが認識できるように気を付けて話さないといけないのですが、最近は、技術が発達して、何人かが同時に話す場でも、誰が話しているのか認識できるようになったり、周囲にどんな音が出ているのかも教えてくれたりするようになりました。

 

また、「電話リレーサービス」という、聴覚障害の人と耳の聞こえる人が、手話通訳のオペレーターを通して音声や文字と手話を使って電話ができるサービスがあって、便利に使っています。でも、手話通訳の方の高齢化が進んで、通訳者の人数も減っているそうで、若い人も増えるといいなと思っていますが、時間がかかることなので…簡単ではないですね。

いつか聴覚障害当事者が地元に集えるカフェを

── 地元に聴覚障害のある方も利用できるカフェを作ることが、将来の目標のひとつだそうですね。

 

佐藤さん:はい。耳が聞こえない人が気軽に集える場所を作ることで、障害がある人に地元の魅力を感じてもらえるような発信をしたいんです。今住んでいる岐阜の地元は過疎地域で、耳が聞こえない人がとても少ないのが現状です。でも、私にとっては本当に住みやすくて大好きな場所。そんな地元のよさを知ってもらい、地元で暮らす聴覚障害の人を増やせたらいいなと思っていて。

 

佐藤悠理
2025年の東京スタイルコレクションに参加したときのモデルたちとの集合写真。佐藤さん(後段中央)はプロデューサー兼モデルとして参加

以前、東京に住んでいたことがあるのですが、東京の生活では、私が困って「こんな制度はないですか?」と相談に行っても、窓口の担当者の知識不足のために必要な制度が提供されなかったことがありました。「あるはずです」と私が説明しても、「ないと思います」と調べようとしてくれなくて。現場の人にわかってもらえないまま、制度も利用できないもどかしさを感じた経験があります。

 

生まれ育った地元では、新しくきた人を温かく迎えたい。だから、カフェで情報を共有しあえる場や、もっと暮らしやすくなるきっかけをつくりたいです。そうして、聴覚障害の人にとって生涯年収が少しでも上がるような活動も続けていきたいと思っています。

 

取材・文:たかなしまき 写真:佐藤悠理