「聞こえないから無理でしょう」と、何度も言われたことがあると話すのは、生まれながらに聴覚障害のある佐藤悠理さんです。社会人になってからは、「耳が聞こえないと出世できない」と話す当事者たちともたくさん出会ったそう。なんとかしたいと会社も立ち上げましたが、手話通訳の派遣の費用に頭を抱えることが多く、試行錯誤の日々だと言います。
「仕事を探すなんて無理」職探しの窓口で言われて
── 佐藤さんは、生まれながら聴覚に障害があり、小学校から高校までろう学校で教育を受けられました。
生まれ育った岐阜県内の高校の被服科を卒業後は、アパレルメーカーに就職。縫製や営業事務の仕事をされた後、東京に上京して不動産屋で契約の代行業務の事務として勤務。20代後半で岐阜に戻ってハローワークで就職活動をされています。そのとき、窓口での対応に違和感を持たれたそうですね。

佐藤さん:東京から岐阜県に戻って就職活動をしていたとき、ハローワークの窓口担当者に、「耳が聞こえないので筆談でお願いします」とお願いしたんです。そのとき、担当者の方に「耳が聞こえないなら、仕事を探すなんて無理でしょう」と即答されました。子どもの頃から相手の口の形から話の内容を理解する訓練をしてきたのでわかったのですが、職探しの場でまさかそんなことを言われるなんて、とすごくショックでしたね。そこに、たまたま手話ができるスタッフの方が居合わせて、話を聞いてもらえることになって。それからはその方を指名して仕事探しを続け、家具メーカーに入社し、ミシンを使って椅子やソファーの座面を縫う仕事に就きました。
── 得意な洋裁関係を活かしてお仕事をされていたんですね。これまで聴覚に障害があることで、仕事面で困ったことはありましたか?
佐藤さん:私が会社に入社した18年前は、まだ、口を動かす形から何を言っているかを理解する口話(こうわ)や筆談中心でした。だから、特に朝礼では、社員の前に立って話す社長や上司が何を言っているのか全然わからず、困りました。その場で話の内容がわからないので、咄嗟に反応できないんです。いつも朝礼が終わった後、同僚に何を話していたのか筆談で教えてもらっていました。
── 会社の方とのコミュニケーションはどうされていたんですか?
佐藤さん:私は子どもの頃に発音の訓練をしていることもあって、声を出すことで話が通じる場合もありますが、基本的には筆談でした。お互いノートやメモに書いてやりとりをしていました。女性の社員は比較的協力的だったけど、男性社員の中には、何があっても書きたがらない人がいて、代わりに書いてくれる人が時間も余分に取られて困っていました。
今は、相手が話したことが文字になって、自分も文字を打つことでコミュニケーションができるスマホアプリを使って、スマホを見せながら会話をすることが多いですけどね。
「聴覚障害者は生涯年収に限界がある」
── 現在はモデルとしても活躍されています。モデルになったきっかけは?

佐藤さん:163㎝とモデルとしては身長が低いので、「どうせ無理」って諦めていました。でも、あるとき、身長の低い主人公が、トップモデルになってパリ・コレクションに出演する姿を描いた『ランウェイで笑って』という漫画を読んで、「私も主人公みたいにモデルを諦めたくない」と思いました。そのためにはコンクールで結果を残すことが近道になるはずと思い、2019年に「ミスデフコンテスト」に応募したんです。そのとき準グランプリと特別賞をいただきました。いまはパリファッションウィーク(通称パリコレ)に挑戦しています。
── モデルとして活躍したいという、その理由はなんでしょうか?
佐藤さん:私がモデルになって有名になれば、耳が聞こえないことへの理解が広まるんじゃないかなと思ったんです。これまで聴覚障害の人たちから、「管理職など出世のチャンスを逃すことが多いから、生涯年収に限界がある」という話をたくさん聞いてきました。
「なぜそういうことになるんだろう」と考えたとき、そういえば耳の聞こえない人で、リーダーやマネージャーのポジションになる人ってほとんど聞かないなぁと気づいたんです。それは、得られる情報量が少ないことに大きな問題があると思いました。
耳が聞こえる、聞こえないにかかわらず、自分から情報を取りにいかないとキャリアアップのチャンスを得にくいと思いますが、やはり耳が聞こえないほうが不利です。聞こえる人と比べて、情報量も半分になってしまいますから。私自身、筆談でも、書いているときに間(ま)ができて、自然な会話が止まってしまうなど、同い年の人と比べて経験が半分になると感じているので。そこで、私が有名になって耳が聞こえない人のことを知ってもらえれば、耳が聞こえない人にも情報が届きやすいような仕組みづくりにつながるかもしれないと思いました。
── 佐藤さん自身も、聴覚に障害があることでキャリアアップしづらいと思ったことはありますか?
佐藤さん:たとえば、10代で「ミス・ユニバース」に初めて挑戦したいと思ったとき、手話通訳の方と一緒に選考会場に行こうと思ったんです。ただ、ホームページのQ&Aに目を通したら、そこに「足が不自由なのでヘルパーさんと一緒に行ってもいいですか?」という質問があって。それに対する回答は「ひとりで来てください」というものでした。
いまは、2016年に施行された「障害者差別解消法」という法律があって、2024年4月からは民間事業者は障害のある人に対して「合理的配慮の提供」をすることが義務化されたので、そんなことは言われないと思うのですが…。でも、当時はそういう考え方がまかり通っていました。私はホームページの回答を見て「手話通訳の人は同行できないんだ」と思い、ひとりで行ったんです。そうしたら、当然ですが、まったく会話が成立しない。熱意を伝えられないまま一次審査で落ちてしまい、本当に悔しい思いをしました。