教え子「第2の母」セカンドキャリアまで見守りたい

── かつての自分と同じように、子どもたちにも厳しい練習を課しているのですか。
鶴見さん:スケジュールは過密ですが、方針は真逆です。かつて自分が行けなかった修学旅行や運動会を最優先させています。アイドルの子のひとりが「最後の運動会に来てほしい」と言えば、私はお母さんと一緒にリレーの応援に行きます。また、アイドルの子どもたちに英語やスピーチの授業を必須にしているのも、もし彼女たちが有名になれなかったとしても、その後の人生を生き抜く武器を持ってほしいからです。ある意味、私は第2の母として、彼女たちのセカンドキャリアまで責任を持って見守っているんです。
── 英語やスピーチはご自身の経験から必要性を感じて取り入れているのでしょうか。
鶴見さん:私自身、現役時代は本当に話下手で、記者会見でも「ロボットみたい」と言われるほど、話さない、笑わないイメージがついていました。人前で話すことが苦手なのは自分でもわかっていました。だからこそ子どもの頃から人前で話すことに慣れておけば、いつか必ず役に立つと思ったんです。
今、体操教室では最後の10分間に発声練習と今日のお題を出して、即興で短いスピーチを作る時間を設けています。話す力は練習すれば必ず伸びると感じているからです。
プライドを捨てて、素直になることが武器に
── あらためて18年間の体操選手時代の経験が、今、生きていると感じることはありますか。
鶴見さん:地道に積み上げることですね。周りを見ると、諦めるのが早い人が多いなと感じます。どんな世界でもそうだと思いますが、簡単にできるのなら誰もが成功しているはずなんです。体操だって習得に10年はかかります。私が今育てているアイドルの子たちも、10年スパンで成長を考えています。
地道に続けられることは、ひとつの才能です。結局は自分を信じられるかどうか。自分に合っているのか、自問自答しながら続けられるかどうか。一般社会でも会社の仕組みを理解して活躍できるようになるまでには、早くても2、3年はかかると私は思っています。
── なかなか結果が出ない、目標に近づけないとモチベーションを維持するのが難しいですが、そんなときにどんなマインドでいるとよいと思いますか。
鶴見さん:私が大切にしているのは切り替えの早さですね。ダメなら次に行く。失敗を忘れてはいけないけれど、引きずるのは時間のムダだしもったいない。そんなに深く考えなくてもいいんじゃない?と私は思います。
── セカンドキャリアに悩む後輩たちへアドバイスをするとしたら、どんな言葉を贈りますか。
鶴見さん:最強の武器はプライドを捨てて、素直になることです。オリンピックの肩書きなんて、一歩外に出れば過去のデータに過ぎません。その肩書きを道具として使いこなしながら、泥臭い努力ができる素直さがあれば、アスリートの集中力はビジネスで必ず爆発します。
── 鶴見さんにとって経営者という仕事はどのように映っていますか。
鶴見さん:オリンピックより経営のほうが100倍難しいです(笑)。スポーツは自分さえ頑張れば結果が出ますが、経営は他人の人生を預かり、他人のモチベーションを上げなければならない。かつてはスタッフが辞めるたびに「私の何が悪かったのか」と泣いていましたが、今は「次はどんなチャレンジをするの?」と笑顔で送り出せるほど達観できるようになりました。部下のモチベーションをどうしたらあげられるか、それは経営の仕事をするようになって日々学んでいることです。
── 最後にこれからチャレンジしたいことを聞かせてください。
鶴見さん:アイドルの事業は道半ばですが、当面の目標としては、今、プロデュースしているアイドルを有名にしたいですし、体操をやりたいという子どもも増やしていきたいです。そして体操に従事していた人たちに「虹子ちゃんの会社に行きたい」と思ってもらえるような、そんな組織を作っていきたいです。
取材・文:石井宏美 写真:鶴見虹子