「工場見学の魅力はかわいさと迫力」と、独特な感性を披露するのはメディアでも話題の工場マニア・丹羽桃子さん。国内外の工場を500回以上も見学して回ったという彼女ですが、なぜ工場見学にハマったのか。当時勤めていた会社員を辞めてまで生き方を大きく見直したのは、工場で流れてきた「シウマイ」の影響でした。
友達のひと言で「工場が好きだ」と気づいた

── 最近では試食や体験、お土産つきなどテーマパークのように楽しめる工場見学も多く、話題の工場は予約開始と同時に埋まってしまうほど人気が加熱しています。丹羽さんはこれまでに500回以上の工場見学をされていますが、工場見学の魅力とはどのようなところだと思いますか?
丹羽さん:一般的に工場見学の魅力は無料やリーズナブルな料金で製造の裏側を知ることができる、コスパの良さなどと言われています。もちろんそれも間違いではありませんし、それを求めて工場見学に行くかたは多いと思います。ただ、私が工場見学を好きな理由は、工場の製造ラインが有名な観光地に劣らない「絶景スポット」だからなんです。
たとえば崎陽軒の工場では箱に入る前のシウマイが、お菓子工場では梱包される前のお菓子が、製造ラインにのって大量に流れてきます。普段見ることのできないその景色が、まるで子どもが一生懸命行進しているような姿に見えて、健気でかわいらしいのです。
また、シウマイの餡が懸垂式モノレールのような設備で運ばれ、滑り台のようにタンクへ流れ落ちていく様子 、飛行機の整備工場では下から見上げる飛行機など、非日常的な迫力あるシーンを工場では直近で見ることができるのもいいですね。「かわいさ」と「迫力」、この2つが私にとって工場見学の最大の魅力で、どこにも負けない絶景スポットだと思っています。
── 観光地に劣らない絶景スポットとは普通の人は感じない、丹羽さんならではの面白い見方ですね。そもそもどのようなきっかけで、工場マニアになられたのですか?
丹羽さん:大人になって最初に行ったのは伊那食品工業さんの寒天の工場見学。そのときに行ったのは家の近くにあり、予約なしで行けて無料という理由でした。そのときに初めて食品の製造ラインを見たのですが、食の裏側や背景を知ることが想像以上に楽しいなと。寒天の材料が見た目からは想像もつかない、テングサと呼ばれる海藻だったことも当時は衝撃的でした。
実は工場見学は食に関わるジャンルがダントツで多いのですが、いくつかの工場見学に行くうちに自分は食に関することに非常に興味があるのだと再認識しました。
── 工場見学を通して、ご自身の興味に気づいたのですね。
丹羽さん:そうですね。それで大学卒業後は食品メーカーに勤めることにしました。春巻きの皮の製造現場や委託工場の管理に携わる仕事をしながら、勉強のためにたくさんの工場を訪れたのですが、どこに行ってもまるで遊園地に来ているような気持ちになれて。生産性や品質の向上を考えながら工場管理をする仕事が楽しくて、まさに天職だと感じました。
昔はこれが普通のことだと思っていたのですが、知人に「1日に3つも4つも工場見学に行くなんてまさに趣味だね」と言われた瞬間に、自分は工場見学が好きだと気づきました。「友達」だと思っていた工場見学に実は恋をしていた、「恋人」だと気づいたような感覚でした。
流れていくシウマイが「人生のように」見えた
── それが今では工場マニアとしてテレビにも出演したり、コラムを発信するようなお仕事になったんですね。
丹羽さん:今ではフリーライターとして好きな工場見学について発信していますが、実は結婚後に夫が台湾に転勤になり、食品メーカーの仕事は辞めました。台湾では食品メーカー時代から少し携わっていた工場見学のコラムなどを書く仕事をしていましたが、帰国後はふたりの子どもの子育てに大変な時期だったこともあり、開業届を出してフリーランスで細々と書く仕事をしながら、 派遣社員として別の職種で働くことにしたんです。
── それは難しい決断でしたね。
丹羽さん:でも、派遣社員で働いているうちにライターの仕事が増えていきました。どうしようかと悩んでいたら正社員の打診をいただき、別部署の正社員になることに。もともとキャリア志向だったので、ありがたい気持ちと挑戦したい気持ちでがんばっていましたが、やはり子育てとの両立や業務が自分に向いてなくて大変でした。
そんなときに、崎陽軒さんの工場取材のお仕事をいただきました。そこでシウマイが製造ラインにのって流れてくる姿を見て、「健気でかわいい。ゆっくり流れてくるシウマイがまるで人生のようだ」と。工場見学の楽しさを再確認しただけでなく、私も焦らずゆっくり好きなことをして流れていこうと思えました。それで、会社にはその日のうちに退職の意向を伝えていたんです。
退職後はしばらくフリーランスとして活動しながら、工場見学をゆっくり楽しもうと思っていたのですが、そのタイミングでもうひとつの大きな転機となったテレビ番組『マツコの知らない世界』からの出演オファーがきました。出演をきっかけに工場見学に関する企画監修やライターの仕事が増え、工場見学を切り口に企業のものづくりや技術、取り組みを深掘りする記事を執筆するようになりました。 結果的に工場見学や食、そして書くことという自分の興味や経験が自然に結びつき、自分らしい働き方ができていると感じています。