長髪をなびかせる風貌で45年。北澤豪さんは小学校のときから、同じヘアスタイルを続けています。ベッカムヘアが流行っても、なんのその。ヅラと疑われることもありましたが、こだわりの髪型には哲学がありました。(全4回中の4回)
日本代表監督から「髪の毛を切れと言われて」
── 北澤さんといえば、Jリーグのころから「長髪」がトレードマークです。そもそも髪を伸ばすようになったきっかけは、なんだったのでしょう?
北澤さん:小学生のころ、サッカーの大会で見た海外の選手たちがみんなロン毛で、それがすごくカッコよくて、彼らのマネをして髪を伸ばし始めたのがきっかけでしたね。中学時代までは自由な雰囲気の読売サッカークラブのユースに所属していたので、ロン毛でしたが、高校(サッカー部)では髪を伸ばすのは禁止だったので、スポーツ刈りにしていました。でも、試合に負けるとさらに短く坊主にしろと言われるんです。おかしいですよね。納得いかなくて、監督に「うまくなるなら坊主にするけど、そうじゃないならやらない」と言ったら、ボコボコにされました(笑)。
── 現役時代、日本代表の監督だったファルカンさんから「髪の毛を切れ」と言われたことがあるとか。
北澤さん:そうなんです。「ヘディングの邪魔になるから」と。でも、切りたくなかったから、「わかった。じゃあヘアバンドをする」と伝えて、細いヘアゴムをヘアバンドの代わりに頭につけ始めました。その後、いろんなサッカー選手があのスタイルをやるようになったけれど、最初にやり始めたのは僕ですから(笑)。
── あのおしゃれヘアが、必死の抵抗から生みだされたものだったとは(笑)。
北澤さん:いま若い子の間でも流行っていますよね?あのとき、特許でも取っておけば、いまごろヘアバン長者になっていたかもしれません(笑)。でも、ファルカン監督に髪を切れと言われたことはショックだったんです。まさかブラジル人のファルカン監督が、部活の監督のようなことを言うと思わなかったので、衝撃を覚えましたね。ラモスさんに相談したら、「そんなのおかしいよ、聞かなくていいヨ」と言われましたけど(笑)。
「いい年して」と言われてもロン毛を貫く理由
── 自分の意志でヘアスタイルを変えようと思ったことはなかったんですか?
北澤さん:じつは、一度だけあります。ロン毛ブームが去りはじめたころ、「切ろうかな」と思ったことがあるんです。
── ロン毛の象徴だった江口洋介さんも髪を切り、ブームの終焉を感じました…。
北澤さん:あのとき、「そろそろ俺もかな?」と思って。当時、イングランド代表だったベッカム選手の影響で、ソフトモヒカンがはやり始めていた時期だったのですが、そこが大きな分岐点でしたね。毎日鏡を見ては、「どうする…?切るか…?いやいやいや待て…」と揺らいでいました。
── そんな自問自答を(笑)。
北澤さん:でも、いろいろと考えるなかで、「自分の個性というものをしっかり持ったほうがいい」という結論に達したんです。障がいの有無にかかわらず、誰もがスポーツの価値を享受し、一人ひとりの個性が尊重される共生社会を創るのが僕の目標です。そうした活動に関わる以上、僕自身も「自分らしさ」を持っていたい。だから、アイデンティティとしてロン毛を貫こうと決めました。周りからは「いい歳をしてロン毛なんて…」と言われたりもするけれど、これもひとつの個性だと思ってます。自分のやりたいことや生き方をちゃんとぶつけていきたい気持ちで、そこからさらに長く伸ばしました。そうしたら、木梨憲武さんに、「アルフィーの高見沢さんみたい」と言われました。
── いつかぜひ高見沢さんと「ロン毛対談」を。
北澤さん:いやいや高見沢さんほど長くないですから(笑)。それに、高見沢さんはロックスタイルでカッコいい感じだけど、僕はどちらかといえば、サーファーを意識したスタイルなので、ちょっとジャンル違いだとは思うんですよね。高校のころからサーフィンをしていて、当時の仲間とのつき合いが続いているので、そこに行けば、ロン毛仲間がうじゃうじゃいますよ(笑)。