遺品整理をメインで事業展開する会社のアルバイトから取締役に大抜擢された森山友祐子さん。遺品を整理する現場でペットの惨状を目の当たりにし、ペットの火葬サービスをスタートさせました。さらに、今年8月からは国内でもめずらしいペットタクシー事業にも参入。いったいどんなきっかけがあったのでしょうか。(全2回中の2回)

ペットの火葬サービスの現場で気づいた“ペットの移動問題”

ペットタクシー「スマイル」
ペットタクシー「ハピネス」

── 2024年8月からペットタクシー「ハピネス」のサービスをスタートされました。ペットに特化したタクシー事業を始めようと思われたのは、なぜでしょうか?

 

森山さん:ペットの出張火葬サービスを運営するなかで、「最期」だけではなく、生きている間もペットと飼い主さんが幸せに暮らせるようなサービスを提供できないだろうかという思いがありました。そこで、飼い主さんの困りごとをリサーチしたところ、浮かびあがってきたのが移動の問題だったんです。

 

特に都心部では、車を所有する人が少なくなっていて、動物病院やトリミングに連れていくときの足に困るという声も。公共の交通機関を利用する場合は、「吠えたり鳴き声を出したりしないかな」とヒヤヒヤしてしまったり、「トイレは大丈夫かな」などとペットの様子も気になってしまう。タクシーでの移動も、ニオイや抜け毛、運転手さんのアレルギーの問題で乗車を拒否されたという経験も聞かれます。さらに、近年、問題になっているのが「ペットの熱中症」です。

深刻なペットの熱中症…緊急受診のうち50%は死に至る

──「熱中症」は、人間だけの問題ではないですよね。記録的な猛暑が続いていますし、まだまだ残暑も厳しいので、ペットの飼い主にとって気になるところです。

 

森山さん:日本気象協会の調査(2019年)によると、ペットを飼っている4世帯に1世帯がペットの熱中症を経験しているそうです。体が毛で覆われているペットたちは、人間のように汗をかいて温度調節をするのではなく、呼吸によって体温を下げるので、人間以上に熱中症になるリスクが高いと言われているんですね。

 

外を散歩する犬は道路からの放射熱の影響を受けやすく、特にアスファルトは要注意です。ある飼い主さんは、夏に猫をペットキャリーに入れて動物病院まで徒歩で移動した結果、途中でグッタリしてしまい、到着したときには熱中症一歩手前の状態だったそうです。重症化すると死に至ることもありますから、飼い主さんが注意してあげなくてはいけません。外出時には水を持参する、保冷剤をキャリーに入れるなど、対策が必要です。

 

── ペットの熱中症は命にかかわることがあるのですね。

 

森山さん:熱中症が原因で動物病院を緊急受診する犬の死亡率は約50%で、その多くは、受診後24時間以内に死亡してしまうという報道もあります。ペットの熱中症を防ぐために、暑いときは外出を控える飼い主さんも多いと思いますが、通院やトリミング、あるいは帰省、引っ越しなど、どうしても移動しなくてはいけない場面もありますよね。そうしたときの移動手段として、ペットタクシーを活用してもらえればと思い、東京と大阪、兵庫でサービスをスタートしたところです。

 

ペットタクシーの車内
ペットタクシーの車内には専用シートが

── 普通のタクシーとどう違うのでしょう?

 

森山さん:ペット専用に改良された車両で、車内にメッシュ素材の専用ゲージが設置されているので、同乗者がいる場合はゲージなしで乗車が可能ですし、同乗者なしでペットだけの移動もできます。ただし、その場合はゲージが必須です。

 

後部座席には専用シートが敷かれているので、抜け毛や嘔吐、トイレなどを気づかうこともありません。運転手もペット業界で勤務経験があるなど、専門知識を持った人を配置しているんです。料金も、一般のタクシーに近い計算方法を採用しているので、特別料金はかかりません。

8時間かけて大阪から神奈川の引越しでの利用も

ペットタクシーの内部の様子
実際にペットを乗せている様子。小型犬用のソフトケースを使用

── 迷惑をかけたらどうしよう、と気づかう必要がないのは飼い主さんも気がラクですね。実際に、どんな場面で使われることが多いのでしょうか。

 

森山さん:病院の行き帰りやトリミングなど、ちょっとした移動で利用される方が多いですが、なかには、長距離の引っ越しで依頼される方もいらっしゃいます。

 

先日、ある飼い主さんが、大阪から神奈川への引っ越しで飼い猫を運ぶためにペットタクシーを依頼してくださいました。以前、飼い猫が乗り物酔いで嘔吐し、体調を崩してしまった経験があり、新幹線や電車のなかで、ほかの方に迷惑がかかってしまうのが心配だったそうです。今回は、猫ちゃんの様子を見つつ、こまめにパーキングエリアによって休憩をとりながら、8時間かけて移動をしました。長距離のため、料金は15万円ほどかかりましたが、「おかげで車酔いもせずに、愛猫を無事に神奈川まで連れていけた」ととても喜んでくださいました。お客さまの話を伺っていると、みなさんペットを家族同然の存在として愛情を注いでいらっしゃることが伝わってきて、心が温かくなります。

 

ペットタクシーの内部の様子
トイレシーツも準備されていて安心

── いろんなニーズに対応しているのですね。

 

森山さん:ほかにも、グループ会社が運営する障がい者のグループホームで保護犬を迎え入れる事業に取り組んでいるところです。現在はマッチングの段階なのですが、ペットと一緒に生活することで、障がい者の方の癒やしになったり、セラピー効果が期待できますし、殺処分されるかもしれなかった動物を救うことにもつながります。人とペットが幸せに生きる未来をつくるために、これからもできることに取り組んでいきたいと思っています。

 

PROFILE 森山友祐子さん

もりやま・ゆうこ。1987年、京都府生まれ。株式会社プログレス代表取締役。テレビ局のヘアメイクを経て、2014年に同社にアルバイトとして入社。2020年からペット火葬・葬儀サービス「ハピネス」を立ち上げ、サービス開始。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/森山友祐子、株式会社プログレス